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01 目覚め



「とうとうじゃのお」

 

 パチ、パチ、と。焚き木の弾ける音が暗がりの中に小さく響く。


「ああ、ここまで長かった」


「なんじゃあ? ナモー、緊張しちょるんか? ゴツい耳が垂れ下がっとるぞ」


「そちらは先程から酒が進んでないようですが」


「ガハッハハッ! よぉーみとる! お互い様じゃのぉ!」


 稲穂色の髭を揺らして豪快に笑うのは鉱人(ドワーフ)のノアラシ。

 それに釣られ、紅巾を首に巻く獣人(アンスロ)の口角がギュルと上がった。


「個人的には短かったけどねぇ……あと十年はかかるかと思ってたかも」


森人(エルフ)感覚で年の長さを測られたら敵わんわい」


「まったくです」


 二人の言葉に小柄なエルフのアラムは「なんだよお」と口を尖らせ、股の間に木製のジョッキを挟む。


 そんな彼女の横にいる俺は焚き火で焼いていた串を手に取り、持ち上げた。


「アッチも上手くやってると思うし、この調子ならすぐに済むさ」


 ハグッと焼いていた串肉を齧る。


「だと良いですがね」とナモーに言われて。


「信用するしかないさ」と串をプラプラと遊ばせた。

 

 串を上にした時にピンッと伸ばしっぱなしの前髪に触れた。人里離れりゃ見た目を気にせんで良いのが楽だ。貴族サマは口うるさいからなぁ。


「俺らはやれることは全部やった。だからあとは吉報を待つだけさ」


 だろ? と言うと、そうですな、と返ってきた。


 俺らはやれることは全部やったのだ。

 魔王領(このようなばしょ)で焚き火をしても問題ない理由もそれだ。


「この阿呆共はこんな所で談笑して、死ぬつもりかな?」


「お、なんじゃ? 混ざりに来たか?」


「なにしぃ、そんなわけなかろが」


 戦斧を担いでやってきたのは、腹部から脇腹にかけて模様が刻まれている少女。彼女のワインレッドの髪が焚き木に照らされ怪しく揺らめき、金色の瞳が薄っすらと細められた。


「座りたいんじゃろ、ほれ」


 それを見たノアラシが座れるようにスペースを空ける。


 少女は「座らん」と手を横に振ったが、座れという合図(ジェスチャー)を繰り返した。


「……」


 しぶしぶ、その少女はノアラシとナモーの間にちょこんと座った。


「で、集まっとる理由は」


「そら、決起集会みたいなもんよ」 


 ノアラシの言葉に口を少し開け「意味分からん」とごちる。

 

「本格的に魔王との戦いが始まるから、その前に落ち着きたかったんだ」


「はあ。……彼方の民(ヒト)はよー分からんな。ビビっとる訳じゃなかろうな」


「そんな訳」


 四人で一斉に言い返すと少女は一瞬だけ眉を潜め、くつくつと笑った。


 俺らが魔王領(ココ)でゆっくり出来ている理由は、準備を周到に行っただけじゃない。


 魔王とは別の派閥の魔将を仲間に引き入れたからだ。


 そう、この戦斧の少女が魔将。ここは広義的には魔王軍の領地だが、彼女の領地でもある。


 汎人類は魔族は全員敵だと認識しているが、彼らも一枚岩じゃない。横暴な君主である魔王に辟易している魔族も大勢いるのだ。


「で、なんでこっちに来たんだ?」


「情報共有だっての」


 ノアラシの質問に魔将はジョッキを受け取りながら応える。


「ロイ。魔王城組は準備は整ってるけど、まだかかるってさ」


 魔将は俺にジョッキを向けながらそういう。ああ、自己紹介が遅れた。ロイってのは俺のことだ。


「あとは魔王次第だろう? 気長に待つさ」


「そーしろそーしろ」


 魔将の話にあった魔王城組というのは、もう一体の魔将が率いる潜行軍のことを指す。


 今、魔王城は宴を開こうとしている。そこで魔王勢力の油断を誘い、俺たちの反逆勢力がひっくり返す……という算段。


 その宴に俺達は忍び込む必要があり、その手引を内部潜行軍がしてくれるのだ。


「そっちの準備は?」


「アタシの軍はいつでも攻め入る用意はしとるぞ? むしろ落ち着かせるのが大変なくらいだ」


「それはそれは。魔族の皆様は血気盛んでよろしい」


「気合十分なのはお前らもじゃと思うがな」


「俺ら以上に魔王を殺してぇ奴らはいねぇさ」


 そう言うと、皆の目が変わるのが見えた。

 それを合図に俺は焚き木に枝を焚べる。


「じゃあ、()()()()()()()()()()()()()


 ここまで来た目的を確認すると、皆は頷く。


 俺達が魔王を倒しに来た理由は別に世界平和のためなんかじゃない。


 汎人類の繁栄? どうでもいい。

 国民たちの命? どうでもいい。


 そんな気持ちで魔王を倒せなかったから、こんなクソみたいな時代が続いているのだろう。


 俺達が魔王を倒しに来た理由。

 それは──同胞を人質に取られてるからだ。


 鉱人(ドワーフ)族。獣人(アンスロ)族。森人(エルフ)族。


 この三種族を、クソッタレの国王は『間引く』と言い出した。


 汎人類至上主義を掲げる王にとって、彼らの存在は邪魔。それをあれこれと理由をつけて――


 【種族を殺されたくなくば、魔王を倒してこい】


 という王命を出してきた訳だ。


「クソッタレの人類に一泡吹かせてやろう」


 三種族を守るために、俺達は魔王を倒す。

 たとえ、数々の英雄を葬ってきた化け物が相手だとしても、同胞を守るために倒さねばならんのだ。


「よっしゃ! 目が据わってきたな!」


 そう言い、魔将はジョッキを掲げた。

 

「私ら魔族の解放と繁栄を!」


 その様子を見て俺たちは歯を出して笑って。


「獣人に教育と自由を!」とナモーも吠えながら掲げて。


「鉱人には美味い酒と金槌を」とノアラシは口髭を揺らして。


「森人には誇りと、えと、娯楽を」とアラムは両手でジョッキを掲げる。


「仲間に幸運と明日の空を」と俺は笑いながら片手でジョッキを掲げ、


「「クソ魔王をぶっ倒して、美味い飯を食うぞ!」」と皆で乾杯をした。


 この日は皆と夜まで飲み明かし、俺達は魔王を倒すべく出立して──


 出立して……。


 どうなった……?

 

「…………〜!」


 なんだ。

 誰かの声が聞こえる。

 皆の声じゃない……コレは……。


「みんなあつまれ!」


「おい押すな! 危ないだろ!」


「勇者様にあたったらどうすんだよ」

 

 ゆうしゃ?

 誰のことだ……?

 その時、チカッとまぶたの裏が紅く染まった。


「──う」


 反射的に自分の口から声が漏れ出た。

 だが、それは自分の声ではないように思えた。

 喉がおかしい。

 声が若い。

 これは一体──


「あ、勇者様!!」


「お目覚めですか! 勇者様」

 

 目を開けると、そこには大勢の顔が並んでいた。

 誰の顔も見たことがない。

 見覚えがない。

 それが地べたに寝ていた俺を覗き込むようにして見ていた――


 いや、まて、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「――、」


 顔を抑える、頭が上手く回らない。

 なんだ、これは。

 俺は無意識にゆっくりと顔を上げた。

 他者に答えを求めようとしたのだろう。

 だが、


 向けられる好奇の目に顔が引き攣った。


 向けてくる視線が、餌に群がる獣のように熱を帯びているのだ。

 

(……これは、なにが起きてる……?)


 ここはどこで、コイツらは誰なんだ。


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