第46話『A Petal Becoming(和らぎの”華娩”)』 A Part
黒騎士時代のマーダに斬り裂かれたAdoNorth島の再編。
言い渡された出立は翌日。人護りし街並みでゆるりとした時、歩めるのは今宵。暫く壁無き璧外、緊張強いられる旅路が続くのだ。
若き男女に取って逝き急ぎ過ぎた受胎──。
ルシアは女性の危うき日を敢えて狙ったとはいえ、未だ二人だけの触れ合い望み、既に命住まう器へ注いでも事成すに至らぬ思いを交し合う悦びへ堕ちた。
「ヒビキは今頃呆れているかも知れないね」
互いの指絡ませ合い、同じ床上。再び終えた行為の余韻感じるルシア、彼氏の耳元で囁き注いだ。
常日頃から鎖繋がったヒビキの声、何も届かなかった思い語る。
心の思い隠し事出来ぬヒビキは、親同士が臨んだ好意の形に口を噤んでいた。
『うん、まあ……これじゃ出来ても仕方ないよね、アハハッ』
ヒビキらしいからかいの心根を勝手に汲み取った気分の二人である。
ギュッ。
「ろ、ローダ?」
「本当に済まなかった。ルシア……君が普通の女の子でない。何となく気付いていたのに」
珍しき彼氏からの熱き抱擁、何も身に付けておらぬ胸抱かれルシア、思わず狼狽えた心音跳ねらす。
途方なき言葉聞かされ一糸纏わぬ躰。彼氏の胸内、事後の煙草が如き艶めかしく燻らせ|た。
「さ、流石に気付いてた? 云ってたよね『君はもっと凄い文明を知り往く筈だ』って」
普通の女の子ではない──。
それは自分が鍵を語り、精霊達と語れる時点で晒していた。
然しそれは別の形、ヒトに在らずな話だ。ルシアが返した夢現は、Fortezaが世界の最先端を凝縮した街並み、初めて覗いた時、ローダが無意識に意識飛ばした台詞だ。
「確信は無かった。だけど君が初めて俺を受け容れた夜、洗礼を浴びた思いがした。Forteza市の街並み。あの時は気が付いたら俺の心が勝手に滑った」
世界の粋を独占したForteza、それすら届かぬルシアの本質を肌から滲むもので知った。言葉足らずなローダらしい建前。
「あ、あの時はす、凄く驚いたよ。心覗かれた気分だった」
「ごめん……」
ルシア、彼氏の見定め、恋する想い、隠した真実。様々な模様絡み合いみせた当時を振り返る。
ローダはそんな愛しき彼女の金髪を撫で、誤魔化し入れた。
「良いの、何物にも代えがたい最高に綺麗な居場所を貴方が教えてくれたのだから」
こそばゆい、然し尊く他に代えがないルシアの語り。ヒビキも屈託なき笑顔手向けたと身勝手感じ、頬が涙伝った。絡めた指へ真心込めた。
「ルシア・ロットレン、ヒビキ……。俺の思いが必ず二人を護り抜く、もう決してお前達を置いて独りで逝かない」
「う、うぅ……ローダッ! や、約束……だ…よ」
絆語るローダからの誠意滲む言葉に、ルシアは緑の瞳歪ませ歓喜の涙、心突き上がるのを最早止める気なかった。互いの気持ち抑え切れず誓いの接吻、深々と差し入れた。
三人が揃ってさえいれば、荘厳な花咲き乱れる至上の場所に成り得る想い。絡み合い正常な螺旋描き夜の闇へ昇る絵が見えた気持描いて躰で為した。
◇◇
丁度同じ頃合い──。
扉の候補者、新月の裏側ルイス・ファルムーン。
鍵の側室フォウ・クワットロと落ち着いた静かなる裏の螺旋をフォルデノ城、新しき王の寝床で描く。
片足失ったルイスだが、弟ローダが復刻の深き眠りへ誘われた間、とうの昔に総てを取り戻していた。
エドナ村での争い、ローダに撃たれルシアから炎の精霊帯びた流れ星の蹴り、受けて肩毎貫かれた折も自力で回復果たしたルイス驚異の回復力。
ルイスはフォウへ秘密の片鱗を明かした。『マーダ時代、異能者から奪った創造の再生』だと。
鍵の正室に依って拓かれたと思しき弟ローダの扉。
彼と死闘演じた際も結局の処、ルイスはほぼ独り、己の力だけ用い全て成し得た。
フォウ・クワットロは独り、寂しき想いに荒んだ。
鍵の演じ手を仰せつかり、金色交えた特別な衣装さえ授かり最早No4でなくQuattuor、ルイスの礎成す最上位へのし上がった──そのつもりだった。
彼女へ与えられた金色の武具。
これらは人工知性体を混ぜ込み造った特別な代物。
使用者が異能開花すれば、武具が意志持ち得たか如く、持ち主の手を離れ仇へ誅墜とすと聞いた。
愛しきルイスの上、抱かれた未だ4番目が胸内で漆黒の神を見上げた。
「ルイス様! わ、私は貴方様の御力に未だ至れず。そ、それなのにこうして愛だけ独り占めする愚かしい女……」
語尾濁し、ルイスの胸内で彼女の体現と云うべき琥珀色の涙流すフォウ無念の生き様。
フォウと云う名前を自ら引き裂き、せめて忠義の命濡れた心臓を捧げたいが如何様にもならぬ苛立ち抱えた。
「フォウ! 君ほどの聡明な女性が一体何をそこ迄取り乱している。君は僕の想い全て、立派に応えているじゃないか?」
慟哭するフォウを慈しみ込めその涙、一滴たりともシーツへ落とさず、自分へ刻み落としたいルイスの優しさ滲み出た。
「で、ですが私はルイス様の鍵に成りたいのです! それが為せれば命さえ投げ打つのにぃ!」
ルイスの胸を子供が駄々こねるが如く叩き悔やむフォウの悲しみ。弟の滾る刃を模倣する方法で自分達が扉の正候補者と双璧である事を堂々示した。
それでもフォウ自身に自覚がないのだ。ルイスの扉を自分が拓いた?
自覚無き力をどれだけ開花した処で腑に落ちない。
何より、鍵の正室に自分が相対出来るのか、まるで自信がないのだ。影でも構わない、ルイスを昇華させるのは私。望むものは其れだけなのだ。
「──ッ!? ンッ、ンッー!」
フォウ、突如唇奪われ瞳見開く。引き続き深みへ落ちる接吻。
ルイスの優しさ転じた憐れみの具現化と感じ、かえって心荒む。止めて欲しいが抗えなき身体の切なさ。
神なる男との上下逆転、ベッドへそのまま押し付けられた。自らを哀れんだ涙止まらぬ虚しさ。
──私はルイス様の慰み者へやはり帰るしかないの!?
我ながら思い上がり甚だしき──ひと昔前なら、この配置で心満たされた。
躰触れられる交わり受け容れながら脳裏に浮かぶ金色の女、鍵の正室。
『フォウ! 言った筈だ。僕が君を鍵へ昇華させると! 君は心の奥から僕を受け容れてくれれば必ず成してみせる!』
──ッ! る、ルイス様……。
声音に非ずな心の声がフォウの魂揺さぶりかけた驚きの至福なる刻。フォウ・クワットロ、改めて野望秘めた男の柱成るべく心の枷解いて甘んじ受けた。
──堕ちているのは僕の方なんだ。
フォウへ女の憐み求め続けるルイスの本心。自分が彼女へ己を捧ぐ逆位置を感じていた。




