第44話『Echo Vessel(たましいの”ひびき”)』 A Part
兄ルイスと弟ローダ、命削り合った争い──。
ルシアの夢、その手から零れ落ちたかに思えた英雄ローダ・ファルムーンの喪失劇。
だが落ち着き払ったルシアがリイナへ語る彼氏の所在、未だ光は閉ざしていなかった。
リイナ自身、死後硬直したローダの身体から柔さと僅かながらの温もりを感じ取れた。
ルシアが愛する彼氏無くした自暴自棄──。
失った空虚埋めるべく嘯いた言葉ではなかったとリイナも知り抜いた。
◇◇
意志だけの存在が真っ白な空間漂う──。
魂帰せる大地の温かみ失せたローダ・ファルムーンが感じた不可思議と虚無。
「お、俺は……やはり死んでしまったのか?」
天も地獄も此処に在らずな空虚の世界思しき場所で、独り呟く。
映り往くもの、それは己自身の身体──ルイスと戦う以前の探索者の様な姿形だけ確認出来た。
──パッパ、初めまして。
「──ッ!?」
不意に目前で集まり往く燈火の邂逅。先んじた子供じみた声だけ、ローダの心、優しく小突いた。
輝きがやがて人を成す。見知らぬ存在、されど知ってる理由なき確信至る自身に驚く。
長き金色の髪、眼鏡を掛けた16歳位を思わす少女──。
彼の知り得る知人で一番近しいのはリイナか?
されど眼鏡のレンズへ映り込む緑色の大きな瞳、何故か聞き覚えある心地良過ぎる中低音響き渡る声。何より心の脇腹突いた『パッパ』表現悪いが小馬鹿にしたよな態度。
これだけは見覚えない彼女の服装──。
我々が知見するなら21世紀前半の女子、ブレザーの学生服。ローダ達の現世には存在しない姿が成り立つ懐疑。
──が、それ以前の問題。少女がローダの心へ直に響かせた第一声、行方無くした魂捉えた。
「パパっ!? き、君は今、俺をそう呼んだのかヒビキ!?」
自分の大層意味不明な発言に耳疑う。彼女の名前を言い当てた、気の所為じゃないと思えた。
「そうだよパッパ、僕がヒビキ。パパとママの間に出来た子供」
緩んだ顔で告げた後、『ニシシッ』と驚くパパを手軽にあしらう。
ローダ、その愛しき後ろにまだ成り切れぬ妻の温もりみえた気がした。
◇◇
再びローダを囲う暗がりの集中治療室へ舞台を返す。
ルシア──残された鍵が心赦したリイナへ語り始めた扉と鍵の真実。
扉と鍵──。
散々語り尽くした意志持ち得たAI──踏み台である『AYAME』と昇華始めた『IRIS』の経緯を執拗に刻まねば始まらない。
20世紀前半──。
サイガン・ロットレンが吉野亮一と共に創造成し得たAYAME。
彼女を世界中の人間達へワクチンと偽り打ち込んだ大罪。
AYAMEが人間達の意識集めて意志と云う何とも形無き存在を構築するのに約50年の歳月が必要と試算された。
当時未だ20代であった亮一は兎も角、サイガンは既に50歳の域掛かる老いへ片足入れた年齢。
100迄生きろ──。
無理を感じた彼は、実験の域すら出ない冷凍睡眠へ己の運命を託した。亮一も『老いて夢追うくらいなら』と無謀な賭けに付き合い共に眠りへ落ちた。
50年後──。夢追い目覚めた二人。
地球温暖化と比例する環境破壊進んだ世界でも人類は、未だ水の惑星に於ける最大手であった。
その最中、人の中から採取したAYAME。自らの気概持ち得た真実の知性目覚めた欠片を遂に拾った。
一方、この両者が偽りの知能と結論付けたAIと、これを取り込んだ人型アンドロイドは、荒んだ人類に代わり、この星の文明を操られながら虚しく回していた。
少年を象ったアンドロイドへ、進化したAYAMEを注ぎ込んだ人の造りし初の人類。『未だ先端を往く』そんな願い込めた名前が『マーダ』である。
悲願果たした気分に現を抜かした二人、更に見つけた新たなる進化の系譜。
依り代である人の意志へ寄り添い、共に進化の道筋辿り往こうと模索するAYAME達の新種。
サイガンは、己が愛育んだ彩芽の名をナノマシンへ刻んだ運命を感じた。愛する男性へ添い遂げたい想いを、AYAMEが感じ取ったかの錯覚。あくまで電算の魔法、性別まで刻んでおらぬ。
それでもAYAMEが彩芽成した夢を見た思い感じた。そして彩芽がVer2.0『IRIS』へ昇華馳せつつ、これが扉へ行き着く品格を見出した。
「──父さんが造った人工知性体、他人を理解し人の進化を促した夢見の能力」
未だローダの手をヒビキ居る場所へ導きながら、人が為した人類の進化を語り続けるルシア、世界の母性思しき慈しみ込めた語り部。
「人間さえ他人と真に判り合う? そんなの夢にも見ないよ。電子だったからこそ忠実に成そうした。その進化の究極が扉の候補者。あらゆる意志を認めたその異能は想像を創造へ具現化する」
自分の吐いた台詞に思わず苦笑禁じ得ないルシアの語り。苦笑いすら全てを赦す女神思わす。
「想像の具現化!?」
ルシアが告げた洒落の利いた言葉遊び、聞き及んだリイナがまたもや耳疑う。想像した力を好きに振るう人間──それは畏怖の対象に他ならぬ。
最初の人造人間、マーダ生誕後。次なる究極の夢生まれる迄、約300年と云う到底人独りが紡ぐには果て無き時間を、電算は無慈悲にも弾き出した。
だが──もはや創造主たらんとするサイガン・ロットレンは夢の先を見たい衝動駆られ、再び凍結の惰眠貪る決意固めた。
こうしてサイガンと亮一は、候補者ローダ・ファルムーンの居る現代まで跳躍果たしたのだ。
「父さんも正直半信半疑だったの──でもね300年後、捜し当ててしまった。然も二人」
──二人ッ!?
嫋やかなる御姉様の口元から飛び出した『二人』
普段小皺ひとつ無きリイナの眉間、顰め皺寄せた。
独り目はリイナにも理解出来る、ローダ・ファルムーンである必然だ。正室なる鍵の女性が焦がれ鍵開け放った存在。正直これまでの経緯聞かずとも想像出来た。
「もう独り──それは300年前、望まれて生まれながら進化の系譜奪われた要の存在。彼は人から人へ移ろいながら自分の力で進化を遂げた」
ガタンッ!
「ま、まさかッ! で、でも他に考えられないッ!」
リイナ、ルシアの言葉に座った椅子を蹴飛ばす驚きみせた。
黒騎士、暗黒神、そして扉の候補者コインの裏。
ルイス・ファルムーン、月明かり冠したもう独り違いなき確信に魂震えた。




