第40話『Divinity Unmasked(神格の戯れ)』 B Part
ヴァロウズ次点、レイの無駄撃ちから始まった秒に満たぬ反撃の狼煙。
正にLeythemendを体現した形。そして女傑に浸る気分を放棄した天女ルシアの全霊込めた一閃。
攻勢の間隙を縫うルヴァエルのあらゆる事象を反転させる術式、暗転。
危機に陥りかけたローダを救い上げたレイの空間転移まで一連の流れ。
暗転と空間転移、何れも相手に取って実に不合理な能力と云えよう。
全く以って試合にならないと思われた矢先の出来事。背中伝ったルヴァエルの冷たき緊張。針の穴通す様な切欠が物事動かす一例みせた。
「やれば出来るじゃないですか先輩方」
斬られた頬伝わる己の血を舐め味確かめるルヴァエルの余裕。次に地面を軽く跳ね準備体操してるかの様相。
この少女、武器らしきものをみせたのは、未だ人を爆弾に転化した部分のみ。
本気の片鱗、隠したまま本気の自分達と五分以上で渡り合う敵に憂鬱感じるローダ達。隠した爪見えた瞬間、終末の予兆感ずる気分に心荒んだ。
バキューンッ!
ルヴァエルの余裕面の脇掠めたLeythemend一発の銃弾。レイ自ら引き金引いた煽り。
「へッ! そういうこった! 余裕ぶっこいてっと次は可愛い顔に風穴開けてやんよッ!」
唾地面へ吐き捨てたレイ、さらにLeythemendを異空間へ飛ばしたまま煙草吹かすゆとり態々見せ付けた。
若い二人より練れた戦闘の駆引き。此処で臆したら負け確定を態度で示す。
此方を小馬鹿にし続けるつもりなら、いっそ仕留める。殺戮のやり取りに感傷は不要なのだ。
ヴァシュンッ!
「──ッ?」
「な、何だぁ?」
吹かし始めたばかりの煙草を早速落としてしまうレイ仰天の様。
ローダとルシアも人生に於いて聞き覚えない不可思議な音鳴らしたルヴァエルへ震撼走り抜けた凝視送り届ける。
ルヴァエルが真顔で己の腹部辺りを右拳で小突いてみせた。飛び散る緑色の煌めき、人の躰叩いた結果とは到底思えぬ仕草。
輝きなれど光の精霊達が騒めくのを感じぬルシアの不可解。ルヴァエルが灯した光、自然由来の能力で無き様子匂わす。
「やだなぁ……買い被り過ぎだよ先輩、この輝きこそさっきから其方の攻撃を涼しい顔で受けられる正体。そしてこの拳と全身が私の武器そのものだよ」
種明かし──。
力の根源自ら敢えて晒すルヴァエルの余剰。
さらに輝き散らし続けた状態で人工物の地面蹴り、ルシアに迫る勢い。
ルシアの周囲には先程起こした風の精霊に因る風、術者守る為渦巻くが、涼風受けた印象崩さず飛び込んだ。
キャシャーンッ!
ルヴァエルが伸ばした右拳を蒼白い剣交え受けたローダの顔が柄握る振動に歪む。
「ぐぅっ!?」
「お、良く折れなかったねその剣。流石マーダ先輩の術式継いだ剣術だ」
拳を剣で受け切る。本来斬れて然るべき処を『其方が折れて当然』と口遊むルヴァエル。
「ごめん、どいてッ!」
例えマーダから掠め取った術式『蒼白い剣』で強化したとはいえ、ルヴァエルの拳が勝ると肌感覚で知れたルシア。
此処は自分を守ってくれた恩義より、無遠慮だがローダと立ち位置交代。得意の格闘術で応戦する意志示した。
恐らく拳の硬さはルヴァエルが上位種。『ならば』とルシア、機動性重視。
風の翼で宙を演舞するお得意の天女じみた軌道でルヴァエルの背後を取る狙い。然も左掌拡げ、光の精霊を敵の翠眼を照らす暗転封じすら仕込む。
仕掛けたルシア自身の視界は問題ないのか?
覚えているだろうか──夜間戦闘時、ルシア緑の瞳が変化、猫の目が如き瞳孔開き視界確保したのを。
今回は真逆、瞳孔細め余分な光の侵入遮断。やはり彼女も劣らず異端なのだ。
「グッ!」
堪らず瞳細めるルヴァエルの悔やみ呼び込む。よもや自然の閃光弾浴びるとは思えぬ想定外。これでは事象も何も映り様がない。
──土の精霊よ、私の拳に鉱石が如き揺るがぬ硬さと重みを!
心中で語るルシアの詠唱術、未だ実戦で試した事無き土の精霊へ呼び掛け。
炎の精霊に因る爆発力は通じなかったルヴァエル謎の装甲。拳の硬質化、力押しを狙うが腕に掛かる反動も多大。最悪腕折れる諸刃の拳を叩き込む覚悟。
スッ──。
ルヴァエル、通じぬ目ならばいっそ頼るのを止め、閉じた暗闇へ自らを落とし込む。
気配と空気の流れ頼みに緑が紅葉めいた輝きへ転じる拳繰り出す決意。最悪でも相打ち狙い、ならば決して負けない!
──鍵の覚悟と異端なる女神の決意、衝突必死な異端同士、意地の張り合い!──
「──インフィニット・アルティジオ……暗黒神よ、大海蛇の爪を以って、波壁すら斬り裂く絶望を此処に示せ──『斬り裂く爪達』!」
両者何れでもない詠唱が鼓膜と括った覚悟揺さ振る介入行動。ルヴァエル以外、聞き覚えある女性の声だ。
だがこの詠唱は知見こそないが普段通りの『暗黒神』と『斬り裂く爪達』が手掛かり。漁村エドナで相対した折、示現流の男が刃なき赤き爪と剣交えた術式に似通っているのか。
但し複数形『爪達』と文字面通り『波璧』処か黒石床毎、地面斬り裂き進軍続ける音達木霊し水差す。
▷▷──『避けて!』
ルヴァエルへ全集中してたルシアに届いた風の精霊『シルフ』の叫び。
既に勢いに火灯した攻勢、ルシアが自力で戻れない分。護りに用いた精霊達が術士を押し返す懸命なる救命手段講じた。
一方ルシアが硬質化した拳で起こす圧、突如失われた事に気付き脚を止めるルヴァエルの器用さ。生物らしからぬ精密動作。
気が付けば5本、爪と云うより最早光る牙だけが地を這い突き進む。
海の竜、大海蛇をこの場へ召喚したかの如き絵面がルシアとルヴァエルの裂け目に迫り来る脅威。
両者の対決へ割り込み、Forteza市侵入直前で停止、沈黙した。
「荒っぽくってごめんなさいルシア・ロットレン、他に手が無かったの」
長い黒髪、漆黒の法衣と呼ぶには高尚過ぎるドレスに散りばめた金色。
金色の飾りに負けず劣らずな琥珀色の瞳が微笑み手向けた。




