第39話『Roar on the Board(盤上の咆哮)』B Part
Resistanceのリーダー格、ガロウ・チュウマVsヴァロウズ第三の剣士トレノとの一騎討ち。
加えてアルベェラータ父娘Vsヴァロウズ第五の格闘家ティン・クェンの激し過ぎる小競り合い。
何れも凄まじき闘争なれど人知れず完結迎えた、まるで地方の苛烈な予選争い。
他人の目に触れぬだけ、何とも哀しきかな。
例え死闘を繰り広げようとも名が知れ渡ってなければ、仮に命散らそうとも人の心は動かぬもの。
だがこうした言い伝え無き衝突の積み重ねこそ、後世の歴史《語り部》に深みを与え、考古学の探求心をも刺激するものだ。
遂に火蓋切る誰もが注目する世界揺さぶる本戦──。
レヴァーラ・ガン・イルッゾの眷属と自ら名乗り上げた黒髪の少女ルヴァエル。
真祖が築いた神の街Fortezaを矛盾の破壊衝動が迫り来る。
候補者──ローダ・ファルムーンが怖れる不気味さの本質の拠り処。
試作機RaviNeroの操縦席より遂に表へ姿現す。所詮機械は彼女に取っての鎧に過ぎない。
螺旋階段の様に立ち昇る妖しげなる人の意志を感ずるローダとルシア。二人の緊張度合いに介入者──ヴァロウズ次点のレイも引き摺られた緊張感。
そんな捻れを悠々歩みルヴァエルが己が聖地、Adon-Northに初めて降り立つ。
首から上は知見の通り三つ編み黒髪、穏やかな緑の瞳彩るあどけない少女。
初見の景色を首振りながらその目に刻む仕草。
されど首から下が異質の塊──。
両肩、剥き出しの灰色は自分が機械である事を強調、肌に密着した漆黒の戦闘服の至る所にも同様の灰色が散りばめられていた。
さらに瞳色の光沢放つ様相──。
この戦況を映像通して見つめるマーダ、いよいよ恐怖に身震い止まらぬ。躰毎強奪し尽くした黒の女色濃過ぎるのだ。
「やあ、貴方がローダ……ローダ・ファルムーンだね」
ただの御挨拶『初めまして』に背筋凍る思いのローダ。
候補者の名はバルタバザルでも知れている必然。其れにも関わらず視線交した途端、名前盗まれた違和感に駆られた。
バァッ!
普段の争いに於ける優秀なる司令塔。
女傑ルシアが自ら先陣切って炎の精霊燃え滾る拳振り上げ、ルヴァエルへ先制を叩き込もうと風神転じて雷神が如し速度で強襲。
此れは明らかな勇み足。手を出さずに要られぬ衝動、誤った解釈なる引き寄せの法則。
バチンッ!
「──ッ!?」
「中々壮絶な御挨拶、此れは痛み入る」
涼しい真顔のまま、ルシアが迂闊にも本気込めた拳を灰色の手で掴むルヴァエル。緑の輝きが弾け飛んだ。
攻勢受け止められたルシアに走り抜ける居心地の悪さ。
語彙力の枠組み──外にはみ出す何とも言い難き感触。
硬質、軟質……空虚ですらない。 ルシア、自らの心に問い掛け応え見出せぬ焦燥。
ズダダッ! ズダダッ!
続けざま、熱血漢とは対極に居そうな女。レイの愛銃、二丁のLeythemendが、ルシアの腕捉えたルヴァエルの手を大胆不敵に浮いた連射でつけ狙う。
ルヴァエル、微か揺れた気分でルシアを掴んだ手を離す。レイの空間転移に驚いた訳に非ず。
鍵の女性に続き焦り滲んだレイの銃弾が少々意外に思えた。
▷▷──ルシア、レイ! 二人共落ち着いて相手の様子を窺うんだ、でないと死ぬぞ!
風の精霊術、言の葉を使い、味方のみに伝達すべき心抉る忠告。ローダ、ルヴァエル戦に取り組む覚悟を直球で伝達した。
▷▷──流石ローダ先輩、冷静だねぇ。
「──ッ!?」
ローダ心盗まれ、新たに刻まれた感のルヴァエルから、返す波彷彿させた言の葉。
ルシアとの初戦に於いて模倣し始めた風の精霊術。ルヴァエルの分、一体誰の真似事であろう。邪鬼か、はたまた淫魔めいた人と異なる様相湛えた敵。改めて印象深めた。
ザワッ……。
RaviNero倒れ、勝負終わったかと思い込みフォルテザの一般市民が戦闘の様子を直に観戦しに来た野次馬根性。
ニタァ……。
突如別人乗り移った感慨に嗤うルヴァエルの愉悦。やはり神に供物とは向こう側から貢がれるものだと不埒感ずる。
──『暗転』
異形なる外敵の瞳と視線絡んだフォルテザ市民達、顔朱色に染め抜き涎さえ垂らす夢中。あからさまなる奇異なる転身。
──だたの供物が神与えし快楽に打ち震えた刻、絶対的信者へ昇華する泡沫訪れる──
バンッ! ババンッ!
「──ッ!」
「な、何だァッ!?」
恍惚溢れかえる民草が次々爆発する奈落の波紋、街の片隅を瞬時廃墟へ還し、ルヴァエル称える祭壇へ転じた。
爆ぜる肉片と血煙──。
ルシアは瞳孔逸した真顔で膝から崩れ落ちる。
レイ、目を逸らせぬまま心を凍らせた。
あらぬ信仰の果てに咲き乱れた黒い女神が呼んだと思しき悪意の華。涙流す事すら忘却の川へ垂れ流した。
何故住民達は当然の如く、破壊者ルヴァエルへ命捧げる忠誠に心躍らせたのか。
そんな疑問へ頭傾ける暇──心に思考回す隙間なぞ無かった。
「グッ!」
戦意喪失した様子窺わせたルシアを横目に、これ以上静観し続ける訳にはいかぬと決意したローダが白い刃抜き放ち、怪異の塊へ無謀剥き出しな剣を打ち込む。
アドノス島へ辿り着いて以来、成長著しい彼とは思えぬ幼稚なる剣筋。ただの騎士見習いへ返った見た目だけの退行呼び起こす様。
「ローダ先輩、馬鹿にしてんの?」
「ぐぅ!」
超硬セラミック製の剣を蒼白い光さえ帯びさせる事無く馬鹿正直にぶつけたローダを薄ら笑いさえ浮かべぬルヴァエルの余裕。ルシアの滾る拳も悠々受けた相手へ決してやってはならぬ悪手。
たった一騎でKingとQueen、何なら他の駒さえ兼ねるルヴァエルの脅威。
一応届いた剣だがルヴァエルの躰に煤みすら与えなかった。
一介のPawnに成り下がる焦燥感ずるローダ、されどこの無駄な打ち込みでひとつの模範解答が頭を過ぎる。
意識ある生物相手に戦い抜いた彼が敵から得られた意識と記憶。
冷たき物言わぬ氷を叩き割ったかの如く、ルヴァエルからそれらが感じ取れなかった。
限りなく同質なのだ、彼女の鎧と化し動かぬ物へ返った黒猫RaviNeroを斬った際と等しき違和感。
この少女──。
怪異ですらない、恨みの巣窟が具現化した姿形。なれど悪意──意志は確実にそこに居た裏腹。
King超えたDioひとりが攻め立てる理不尽な盤上。
迎え撃つ英傑達はPawnへ堕ちた三名。
最早詰み濃厚なるGAME──。
そんな戦場へ装い新たなる控え、黒に塗れたKingと魔導士が『変われ』とばかりに準備を始めた。




