表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/120

第39話『Roar on the Board(盤上の咆哮)』A Part

 剣は狂気(きょうき)をまさしく描いたガロウ・チュウマの新技『示現我狼(じげんがろう)櫻打(おうだ)

 相対したヴァロウズ第三の剣士トレノの巧みなる水滴る(したたる)剣技の激突。


 被った海水毎、己が腕を凍結させ錬成(れんせい)した剣とガロウが振るう()とのぶつかり合い。

 結果──()()()()に終わった。

 ガロウがその気さえ起こせば剣士の本懐(大太刀)を振り回せば殊勲(しゅくん)収めるにも(かか)らず手出し出来ずに逃走するトレノを見逃す。剣士の誇り(Pride)が戦意喪失(そうしつ)した相手を追い回すのを良しとしなかった。


 森の女神(ファウナ)住まうForteza(フォルテザ)に於ける世界見守る()()争いの裏側、誰も知らぬ闘争のひとつはこうして決着をみた。


 裏の裏──黒いルヴァエルの影、陽当たらぬ戦場。

 ヴァロウズ第五番目の女格闘家ティン・クェンVsアルベェラータ()娘の争い。


 相棒トレノの敗北と負傷を未だ知らぬティン・クェン、アルベェラータの血統に邪魔立てさせぬ壁の役割を愚直(ぐちょく)(こな)すべく自分より鈍重(どんじゅう)であるべき騎士ジェリドとリイナへ容赦無用で拳を突き出す。


 嘗て(かつて)自分が手を下した藍染(あいぞめ)の中年女性に防がれたよもやな横槍。

 トレノに取って盾であるべき自分がいつも間にやら言う事効かぬ()()そのものに置き換わった逆転の()()に気付かない。


 此処でジェリドが自ら落とした巨大な斧(バトルアックス)を拾い上げ、()()へ返る。

 愛娘リイナは忘れ形見ホーリィーンの魂が()()してくれるのを知るや否や『任せた』と無言の一任。


 されど同時にティンが思う重騎士へ退()()したとも取れる裏腹。されど盤上(ばんじょう)で動かずとも相手の思考威圧(いあつ)する騎士(Knight)、下手に此方から駒進める愚策思わせた。


 ブンッ!


 紙一重──。

 そんな軽い一言で済ませたくないジェリドから不意を文字通り()()()()()()。風切る音が重苦しい、届かなかった矛先が生み出す風圧。


 乱れ髪、ティンの赤髪が火起こした錯覚(さっかく)呼び込んだ。

 続けざま、槍に非ずな柄の長い斧(バトルアックス)乾坤一擲(けんこんいってき)


 ──巫山戯(ふざけ)んな、見えてんだよッ!


 どれだけ威力過剰(いりょくかじょう)一閃(いっせん)が繰り出された処でティンの視覚には静止画、瞬時切り取られ脳裏刻む(きざむ)視覚の電光石火。


 彼女の動体視力と反応、人間とは思えぬ奇異(きい)な動き。

 ジェリドから放たれた重量(ヘビー)級らしからぬDVA※1(横方向)KVA※2(横揺れ)。何れの揺さぶりも涼し気に躱す(かわす)のだ。


 ※1Dynamic Visual Acuity──横方向の動きを捉える動体視力。

 ※2Kinetic Visual Acuity──前後方向の動きを捉える動体視力。


 当たる道理無きジェリドの風切る突き。その場動じず振出(ふりだし)続ける様は、一見脅威(きょうい)だが向こうも次の一手見出せぬ足掻き(あがき)の裏腹に思えた。


 ビュッ!


「──ッ!?」


 誇大な散髪された赤毛散り往く様に心が一時停止したティンの戦慄。『何故だ?』全く以って理解し難き震撼。


 ──目が()()()()んだよ。


 巨躯(きょく)に似合わぬジェリドの狡猾(こうかつ)なる攻勢の変遷(へんせん)

 彼はティン・クェンの異能をほぼ掌握(しょうあく)、人類の範疇(はんちゅう)超えた動体視力。単純だが己が全身を武器と成す彼女的には絶対()りたい能力。


 ジェリドの突きは微妙な(さじ)加減で緩急(かんきゅう)をつけているのだ。

 恐らく一流レーサーの動体視力すら超え得るティン・クェンの異能。種がバレれば当たる訳ない、愚かを敢えて晒す(さらす)ジェリドの手練れ(てだれ)ぶり。


「遊びは終わりだッ!」


 早速種が()()に知れた。

 荒れた道蹴り、騎士ジェリドへ左右の揺さ振り見せながら迫るティンの反抗。小細工無用、騎士と娘。そして騎士が()()した司祭風の女、まとめて力で捻じ伏せれば全て完結。


「デエオ・ラーマ、戦之女神(エディウス神)よ、我が言の()捧ぐ(ささぐ)! 斬り裂け! ──『言之刃(フォグラマ)』!」


 不意に甲高い少女の詠唱鼓膜(えいしょうこまく)を揺さぶる。

 ティンの周囲、木枯し舞う。葉が刃に転じたものが取り巻く。鍛え抜かれたティンにしてみれば取るに足らぬ小刀。だがあの小娘は司祭級──森の天使リイナ・アルベェラータに相違ない。


 今の詠唱は同じ戦之女神(エディウス神)御業(みわざ)なれど司祭でなく賢士(けんし)の術式。

 言之刃(フォグラマ)──人の言葉は時として刃より鋭き刃物と化す。賢士の術式は術者か相手の心の間隙縫う(かんげきぬう)攻撃に特化した奇跡なのだ。


 リイナはあくまで司祭(Bishop)、賢士の術式は会得しておらず──これがティンに取って最大の驚き。刺さる言之刃(フォグラマ)意に介さず騎士(Knight)の背後で妖しく揺れる小娘(Bishop)へ送る視線。


 リイナは藍色纏う(あいいろまとう)中年女性の背中へ手を翳し(かざし)賢士の術式を完遂(かんすい)させたらしい。


 ──あの女が賢士だったのか!


 ティン・クェン、自ら葬送(おく)った相手の秘めた力に震撼(しんかん)走り抜けた気分。思い起こせばあの(おり)、ホーリィーンを護れる騎士なぞ居なかった。


 最強のKnight(騎士)に守護された駒はBishop(司祭)に非ず、Queen(女王陛下)であった真実。山の如しなKnight(騎士)に守らせ奇跡口遊む(くちずさむ)少女転じたQueen(女王陛下)の無双。


 ティン・クェンは精々将棋の飛車が敵地飛び込み()に成った存在。

 強力なれど()()この布陣に飛び込むは無謀(むぼう)、彼女は決して愚かではない。視覚では(とら)えられ切れない震撼(しんかん)呼んだ。


「デエオ・ラーマ、戦之女神(エディウス神)よ、かの者潜みし()()よ。畏怖(いふ)なる旋律(せんりつ)に転化し駆け巡れ──『戦之音(グラッラスノ)』!」


 リイナが透けた母親を媒介(ばいかい)に続ける次なる賢士の一手。


 瞬時、赤い頭抱え恐怖に顔(ゆが)めた屈強(くっきょう)なる女戦士の大層稀有(けう)な様子。強き者ほど緊張帯びた戦慄を心に住まわせる後備え(あとぞなえ)を持ち得る。


 兇器(きょうき)なる賢士の()()()()、自らの精神に翻弄(ほんろう)される地獄巡りへ()とすのだ。


 地面のたうつティン・クェンの(あわ)れな絵柄。

 暗黒神5番目の御使い(みつかい)──Pride(自尊心)? そんなもの誇示(こじ)するゆとりなど皆無。


「──ティン!!」


 正に荒療治(あらりょうじ)──。

 ガロウから片腕()がれ撤退中のトレノ、残った腕振り()()()()携え味方へ飛ばした酸の雨。


 他人の争いに()差す救出劇、焼けた背中に意識戻ったティンの事実上敗退。


 ガロウ・チュウマ、ジェリド・アルベェラータ……。

 そして森の天使と死した母ホーリィーン・アルベェラータの共演。

 暗黒神最強の直属配下、ヴァロウズ二人を悉く(ことごとく)退(しりぞ)かせる戦果を人知れず挙げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ