第38話『Rebirth of the Obsidian Queen(復刻,漆黒の女神)』A Part
候補者達の黒い天敵──。
全高5m、折り曲げた後ろ脚を伸ばせば10mへ転ずる巫山戯た兵器RaviNeroを遂に鉄の塊へ帰化させたローダの思念。
だが未だ序章が閉じただけに過ぎぬのだ──。
加えてローダのみ勘付いてた漁村エドナに迫り来る青と赤の戦慄。
青を背負うトレノから届けられる他に類をみない濡れた剣術。
蒸発させんと立ち向かうガロウ・チュウマ、己が血筋匂わす燃え滾る桜を冠した山の如き刀。
更なる戦いの輪舞曲奏で始めたティン・クェンが体現せしめた赤。
煤けた白貫かんと対峙、ジェリド・アルベェラータの巨大な矛先。
赤と白の争いに暫く触れてみる──。
あらゆる格闘術極めたティン・クェン。立ち回りの速度のみ測れば圧倒するに違いない。
相対するジェリド、鎧の防御力と得物の貫通力に頼る図式か。
ズシャンッ……。
「はぁっ!?」
呆けたティンが口をアングリ開いた驚き。
ジェリド、何とした事か。信任寄せる巨大な戦斧を自ら地面に落とした後、両拳で構えた。
戦国時代の一騎討ちならば『臆したか!』と仇から煽られるやも知れぬ奇抜な動き。鎧の硬さに加え、手甲での殴り合いへ持ち込む腹積もりか。
──ギリィ……。
ティン最早隠し切れない怒り心頭──この時の為に在ると思えた言葉。先程の手加減と云い馬鹿にするにも程がある。
ジェリド的にはクソが付く程真面目に考え巡らせた上での選択肢、掴み処長過ぎる槍の如き斧では間合いを活かし切れないと判断。
ダンッ!
全力込めて地面を利き足で蹴り、拳振り翳して先手を取らされたティン。
剣術で語る後の先を置き去りにした動き。無遠慮に唯一鉄がない騎士の武骨な頬へ殴り込み。
ゴンッ!
侮辱された重い叩き込む紅の拳、これまた奇異なる白の受け答え。
敵は確実を以って首を殴るのだ。ジェリド、巨躯を敢えて屈ませる。黒髪の頭突きで真正面から受けて立つ愚直。
頬寄せ合う恐怖の踊り、構えた拳用いず膝装甲をティンの鍛え抜かれた腹へ返礼、見事綺麗に収まる。
「カハッ!?」
くの字へ折れ曲がり、反吐吐くティンの狼狽え。見えていたのだ、されど貰った膝蹴り。
情け忘れた白騎士、自分の手元で折れた女戦士の赤髪目掛け、妻を殺され仏に召された静かな怒りを真心込め上から叩き込む鉄の拳。
だが流石にそこ迄巧く運べぬ流れ。
執拗いがティンとてマフィアの百戦錬磨なる元用心棒、綱渡りの死線を辿った女だ。固い岩盤が如きジェリドの躰を平手で突っ撥ね如何にか避けた。
背後でただ圧倒され掛ける穢れ知らずの愛娘、地面踏みしめ父親の誇り交えた拳へ捧げる祈り。
──戦之女神よ、この勇ましき者へ貴女様の祝福を。
乙女の気持ち込めただけの祈りに非ず、父の憤怒帯びた裁きの鉄拳昂らせる術式、天の恵み下して送り届けた。
リイナとて闘争に於ける矜持と母奪われた悲憤は同じ。神の御使いらしく満ちた慈愛に転化させ理不尽な洗礼与えるつもりだ。
「調子こいてんじゃねぇぞォッ!」
「──ッ!」
よもや格闘術で初手だけとはいえ、後れを取ったと自覚せざるを得ないティンの怒髪天。
遂に顔覗かす本気、プロボクサー顔負けの流麗かつ豪胆な脚捌き。
ジェリドの周囲、円を描きつつ置き去りにして背後のリイナへ如何にも悪役めいた攻勢へ転ずる。
驚愕で顔引き攣るリイナ、体力面は極ありふれた女の子。
固まる以外、何事も在り得ない選択権。
ビシッ!
「え……?」
「なッ!? お、お前死んだ筈ッ!」
またしても現れた青一色ワンピース姿、大人女性の魅力極まりし黒髪が今回はリイナの目前。
愛娘を悪の魔の手から守り抜く強い決意、体現した姿形。前から抱き締めティンの骨太な拳を甘んじて背中に受けた。
次はティンが脅威に心揺さぶられる番。
この手を汚して殺した女、然も無防備な背筋を殴ったとは思えぬ不可思議なる感触。透けて見える躰にも拘らず無造作に防がれた拳。
「リィン……やはり来てくれたか」
確信めいた夫ジェリドが薄っすら浮かべる涙顔。男が愛する女へ手向ける情愛。
そうなのだ──。
ジェリドは確信が在った故、ティン・クェン相手に本気で挑めた。
俺達のリイナへ命揺らす危険及んだ刻、妻ホーリィーン・アルベェラータは再び具現化果たす。
理由? 理屈? 要らないのだ、信じ抜く気持ちさえあれば……。
◇◇
ガコンッ!
再び未曾有の危機瀕したForteza市へ場面を移す。
目前にて繰り広げられたバルタバザルから巨大な黒猫じみた兵器で単機襲撃したルヴァエル。
ローダ達の連携に依り動くこと叶わず、まるで猫が伏せて寝る姿で沈黙したRaviNeroの猫額辺り、ばねでも弾けた感じ。趣失われた格好で開いた操縦席出入口。
「──えッ?」
「この感じ!」
あくまで黒猫自体は最早完全沈黙、緊急脱出的に開いただけのハッチ。
まだ何も見えぬと云うのにルシアとローダの背筋走る戦慄。
霊感──そんな冷たさと全く以って迷信引き摺る気色悪さ。
ブンッ!
緑と青の輝き交わりDNAの様な螺旋描いて猫額から立ち昇る異形。
「嗚呼……やってくれたね先輩方。コレもう二度と動かせないよ」
開いたハッチの上、両手で掴みながら文句垂れる幼さ感ずる台詞。
外連味の塊に思われたこれ迄とは一線画すまるでお気に入りの縫いぐるみ奪われた少女の様な言い草。
だから増々以って背筋が凍りつく嫌な感性引き起こすのやも知れぬ。自分達を肉体でないナニカで弄られたゾッとする心地悪さ。
女傑ルシア、思わず腕組みして身震い。
これ迄どんな敵と相対しようが気持ちで後れ抱く気分は初体験。
思い当たる節──そんなものはない。ただそれとなくルヴァエルが未だ成し得ぬ幸せを自分は抱いている。そんな心の奥底に入り込まれた感性。
英雄ローダ、女傑ルシアとは異なる違和感。
──アレは本当にバルタバザルから訪ねて来たルヴァエルに違いないのか?
凡人には何とも理解し難き疑問──。
ローダ・ファルムーン、ルヴァエルは勿論初見。
さらに至極当然、ルヴァエルの真祖と云うべきレヴァーラ・ガン・イルッゾ。300年前の人物、殊更知り得ようがない存在。己の肌感覚で知れた根拠無き疑問に首を捻った。




