第37話『Pride of the Blade(剣士の矜持)』 A Part
ローダとルシア、二人の英傑達が仇であるヴァロウズ銃使いレイと手を組み、黒い外敵ルヴァエル駆るRaviNeroと世界が見知らぬ闘争劇繰り広げる最中──。
漁村エドナ、守りの要石を一身担う頑強。桜陽の侍を体現したかのような髭面の剣士。
村の外、潮風吹き晒す場所。ガロウ・チュウマが碧眼で在りながら黒髪で背丈小柄なアジア系男性を彷彿させる剣士と対峙していた。
世間の注目は若さ溢れる英傑達と人の技術が成した黒い怪異との戦闘に魅入られていた。ローダ達がフォルテザ市へ旅立ち、およそ月が半分欠けた頃合い。
ガロウ、自身が村を心配する考えは取り越し苦労に終わると思い込み始めた刹那の邂逅。
「わいはないをしに此処に来おった?」
見覚えある剣士を睨み怒り滾らせるガロウの闘争心。
火を灯した黒側の剣士、全身黒ずくめな服装。背負った大太刀、鞘に収まり切れぬ蒼い輝きを大いに透かす。
エドナ村、南方の深き森アマンで擦れ違った日本刀に酷似した龍暁の民を匂わす手合いに違いないのだ。ヴァロウズ第三の剣士、トレノの思わぬ介入。
暁と陽光、互いに陽出流を譲歩しない国同士。身勝手にも威信背負い込む戦士の矜持火花を散らす。
「フフッ……知れたこと。俺が求めるは剣先のみ、貴様如きへ語る口なぞ端から持たぬ」
殺気で語るトレノの冷笑。その表情のみならず、彼の周囲を渡り往く水の精霊達さえ氷結地獄へ導かんとする傲慢な態度。
「いや、おいが聞きたかことはそげな話じゃなかど。今ば黒騎士ば軍勢と休戦じゃなかとか?」
白に染まり往くガロウの疑問──。
独特の訛りを以って尋ねるは彼の本心に非ず。既に斬られてる余白。
先ずは年の功たる話術用いて切れ味鋭き敵の剣気を和らげるべく敢えて叩く無駄口なのだ。
相手の術中に載せられない顔に似合わぬ計算高さ。例え抜かずとも剣交えれる漢の豪気。
キンッ!
トレノの鋭敏なる体現、些細な焦りを帯びた倭刀の太刀筋。悠々受けて立つガロウの滾る刃。相反する青と赤。
「良か! 心地良か剣気じゃ! 処で連れん赤んおなごがおらんがどけいった?」
剣で語りて口も語り手、殺り手が過ぎるガロウの語り部。
真剣勝負──肩で風切るガロウの余裕面。
苛立ち募るトレノの切っ先、彼は幾許か殺気が走り過ぎていた。『剣士ならば刀で語れ!』と矛盾なる思いを吐きたい。目前に居る仇を他所に『彼奴何処行った?』剣士の逆鱗触れ往く台詞。
ニタァ……。
「ははぁ……さてはおなごば連れて来るん恥じゃ思っちょるな? おいは幸せもんじゃ、ばろうずの三番目が御大層に一騎討ちば望んでくるっとは!」
さもやらしき顔で煽り続けるガロウ、卓越した戦さ人の練度。まるで戦国の世から転生した日ノ本武士そのもの。
バシャッ!
「──ッ!?」
文字面通りの肩透かしを喰らい、前のめりに倒れ掛けたガロウの驚き走る顔。交えた相手の倭刀、水滴弾け完璧に失せた。
肩怒らせた姿で間合いを開いたトレノ。柄だけ残した剣を逆袈裟懸け、左斜め下から振り上げる奇っ怪な攻勢。
「うおっ!?」
ガロウの鼻先、トレノ振るう濡れた刃が掠る寸前。仰け反り紙一重で如何にか躱す。
「よくも俺を愚弄したな桜陽の猿! 俺は貴様と純粋なる刀同士の討ち合いを望んだ。──だが貴様は絶望的死をたった今招いた!」
怒り心頭のトレノ、逆袈裟懸けの次は返す刀を袈裟懸けへ繋げ、さらに三段突きを続けざまに繰り出す。素人目にひとつにしか見えぬ束描いた突き。その都度跳ねる水飛沫、ガロウへ飛び散る。
──ぐッ!?
熱湯に非ずなただの飛沫、トレノの稀代なる剣筋。皮一枚で避けるガロウの迂闊。氷の如き冷たき刃が飛散させた粒が火傷を負わせた。
「良かぁ、おいも本気の滾る刃で挨拶ばせんと失礼じゃっど!」
トレノが浴びせた飛沫物──紛う事なき硫酸の雨。
ヴァロウズ第三の剣士は水を刃へ転化させ得る力だと己が躰で知れた。
魂研ぎ澄まし、好敵手招き入れた髭面の絶やさぬ嘲。赤い脇差すら抜刀為した二刀へ転ずる。
愚直に燃ゆるガロウの刀。
冷徹転じて熱成すトレノの倭刀。
順手で掴みし脇差で己が首守りつつ逆手に握った歪なる本命、露払いを叩き込む侍。
パキンッ!
──パキンッ!?
ガロウの振るった剣に残る裏切りの残響。
一撃必殺が流儀である髭面の太刀筋を嘲笑うトレノ凍奇の変化。
軽々折らせた残滓が湧水の如き剣へ変える妙技。不滅なるトレノの剣、瞬時に新たな得物呼び込む自在。
『──貴様は一体何を裂いたつもりだ?』
心が嘲る声が届いた錯覚、ガロウの背筋走る冷たき戦慄。
無駄な殺気満ち溢れていたトレノの剣技、最早殺気で殺り尽くす超越へ昇華した。
ヴァッ!
「なっ!」
不意に燃え盛るガロウの二刀、変幻自在の剣を越え往くさらなる高みへ己を誘う。
トレノ、ただの赤み帯びた剣から真価魅せたと感じ、脚従わぬ無念の後退り。
「はんッ! まるで剣ば博覧会じゃ! じゃっどん小賢しかっ! 剣は狂気ィッ! 示現我狼の神髄、わいに見せてくるっど!」
唾がなり散らすガロウ・チュウマの決して退かぬ漢気。
示現我狼──。
一撃必殺なる示現流をガロウが身勝手に解釈、己が流派と成し得た我流。
ヴァロウズ8番目のダークエルフ、オットォンを両断した『櫻華』を自ら愚弄すべく次なる必殺を召し出すのだ。
ガロウ・チュウマの滾る刃──。
嘗て護りの女神、ファウナが一之懐刀、『オルティスタ』の『炎舞』に似た力の具現化。
オルティスタの故郷は『Zover-ika』領『樺太』──旧ロシアが世界の大国支え切れず置き去りにした場所。
樺太成した先住民──旧日本人の血脈流れるウィルタ族の末裔。
冬季を凌ぐべく編み出した己に住まう分子の回転速度を極限まで引き上げ自然の熱を取り込んだ祈祷師由来の剣術。
オルティスタの父はウィルタ族の末裔、母は文字通り、世界の母なる大地、旧ロシア生まれ。
執拗な語りなれどガロウも日本刀と鹿児島訛りを愛する剣士。
同様な赤き刃、繋がる連鎖思しき力の体現なのだ。




