第36話『"Ley", where the law lies("レイ",法の在処)』 B Part
ルヴァエル駆るRaviNeroが神の住まう街、Fortezaを潰しに掛からんとする矢先。
たった二人の生身で巨大兵器を相手取っていたローダ・ファルムーンとルシア・ロットレン。
決して追い詰められていた訳ではないのだ。
だがその戦いぶり、余りに打つ手がない様に見受けられ、英傑達の能力に半ば落ち込む愚者すら居た。
そこへまさかの介入者、ヴァロウズのレイ、颯爽と現る。
然しながら例え、一度は文明失われた世界軸とはいえども22世紀より刻重ねること300余年。
今更コルト・ガバメントのレプリカ携え火薬必須な古臭い小銃を持ち出された処で、揶揄う者あれど歓喜に打ち震える者は居ないのだ。
パンッパンッ!
レイ、次は宙返りしながら連射ではなく単発へ転じた変幻自在。Leythemend、主人が語る法の在処示すべく銃弾を散らす。
笑顔を保ち続けた容姿、愛人達の喉奥に指差し入れ、RaviNeroの関節部を狙い撃つ二重の悦楽。
自ら抜き出す快楽の喘ぎ、挿れた当人が恍惚に濡れた顔浮かべた。
「嗚呼……ヤッバ、此奴等最高。この位で感じてんじゃねぇよ、俺様が先に逝っちまう」
法を体現する女とは思えぬ快楽織り込んだ妖艶なる行為。熱く滾りし銃口、舐めるかに思えた頬擦り。
ローダ達に取って最大最後の敵側から繰り出された捩じれ切った正義の味方。
「あの童貞学者に幾ら頼んでも造ってくんなくってよぉ……。だけどな、白髪の爺がアッサリに形にしやがった。彼奴相当イカれてるぜ」
思い当たる白髪の爺──。
ルシア・ロットレンの顔色に一挙陰りが差した。
「俺様は小銃だけ焦がれてんだ、ライフル? いけ好かねぇな。だけどそいじゃ威力がもの足んねえ。ならば簡単、相手の鼻面で決めりゃ済む話さ」
相も変わらず誰も聞いてない話を小鳥の様に口遊むレイのお遊戯。されど彼女はこの戦場に現存しないと思われた異物を持ち込んだ。
それは、候補者でないレイを敵と定めたRaviNeroの転化した姿である。レイは恐らく異能者だが一摘みしか持ち得ぬ中途な存在。
理由──。
それは何とも味気ない、されど周囲が知覚し切れてなかっただけの真実。
貴重な試作機の赤い瞳を撃ち抜かれ激昂したルヴァエルに他ならない。
バルタバザル決起の折、ゆるりと動いた試作機。その糸口が見え隠れしていた。
ルヴァエルの機械じみた躰──。
細い線が平たい束を成し得てRaviNeroと結線されていたのだ。一応操縦士の資格を有していた次第。
有線で己が思念をAIに介入させ血を通わせる作業。人間の攻め手に欠ける弱気な部分は機械で押し潰し足りない部品を生き血が補うのだ。
「おっと、迂闊に喋り過ぎた。これはあくまで助っ人だかんな。次殺る時は手前等が俺様の法に裁かれるかも知んねえ、覚悟しとけ」
手銃で指差しローダ達を威嚇射撃したレイの自己完結。
共闘──確かに違いないのだがローダとルシアは、戦いの図式を始めから一貫し続けている。
ルシアがRaviNero支える地盤を徐々に侵食。手を汚すのは必ずローダの公式。周囲を好きに跳ね遊ぶレイの三者三様。
世辞にも連携とは言い難い闘争の在り方。なれどゾッとする背筋弄る恐怖の音。最先端技術が生み落とした黒い怪異。
フォルテザに住まう争い知らぬ民草にも伝わり尽くす戦争の音源。怖いものみたさ──人が禁断の果実欲しがる本質呼び込む。
やがて誰かが軽々しく口遊む──。
『これは英雄譚か、それとも災厄の序章?』
火事場の見物客引き出すのは刻の問題。人、集まれば新たな魑魅魍魎召喚し得る対価と為すのだ。
さらにその蠢きは、焦りの熱帯びて人の世流離う。伝染し続ける語りの根幹──それが人の本能。例え危うき業火呼び覚ますとしても……だ。
◇◇
フォルテザ市を姿通り天から支える最上階。砦めいた場所からこの戦いを覗く金髪のドゥーウェンと御使いベランドナ。
「──Ley-the-mend……。まさか完成させただなんて」
自分の遥か上往くサイガン先生の能力に脅威と畏敬の念、入り混じるドゥーウェンの青ざめた表情。
「Master、あの銃はそれ程凄いのですか?」
ベランドナ的に心で首傾げざるを得ない懸案。
今更火薬で撃ち出す武器に驚倒しそうなドゥーウェンの狼狽えぶり。
「Leythemendは簡易な重力制御を秘めてます。発砲時の反動を忘れた銃です。アレそのものは、実の処大した物ではない……」
首を横に振り古めかしき小銃の解説を始めるドゥーウェン。
Colt・ Government──形式M1911。
1911年製、弾薬『.45 ACP』口径11.43mm×23mmをセミオート式で撃ち出す世界初の自動拳銃。その汎用性の高さから改良を重ね続け実に100年間、第一線で活躍続けた傑作。
Leythemendは、コルト・ガバメントと基本性能に寸分の狂いなし。
重量すらコルトに合わせた無駄多き拳銃。
ドゥーウェンが語る通り、拳銃で在りながら発砲者が居なくとも己の機能で反動発せず。それだけに過ぎないのだ。
「ヴァロウズ最下位の能力者、レイに因る処が多分だという話ですよ。空間転移、射程圏内は恐らく視界が届き得る限り。銃処か自分さえも好きに飛ばせる、ですが銃を飛ばしても支えがなければ無意味」
旧式の銃を扱き下ろす顔とは明らかに異なるドゥーウェンの身震いさえ伝わる台詞。
「因みに形式は『LM1911』彼女、僕を童貞呼ばわりする割、女性らしい自己陶酔者です」と付け加えた。
「レイ自身の能力値だけ評価するなら最底辺なのです。……ですがLeythemendを与えてしまった、サイガン先生は気が狂われたかも知れません」
ドゥーウェンの気分──。
要約すればレイを『Leythemend』まで押し上げた判断が理解し難いのだ。過剰な相性、渡してはならぬ代物。
己自身を空間転移で飛ばし法の裁きを下す行動。これだけなら大した脅威とは言い難い。
なれど拳銃をあらゆる角度から現界させる裁きの範囲が拡がりみせる。
敬愛する人間の説明を長耳へ注いだベランドナ──正直腑に落ちない話。
学者気取りなこの男、尊敬する先生であり年齢の幅を越えた友人を裏切った腹芸。
新人類第一候補と思しき男と、彼を確定させる鍵すら握るべく事起こした張本人が棚上げする不可解。
──狂気の度合……測り合っても無駄なだけ。
心の奥底へ独りしまい込むベランドナ、ルージュ要らずの気高き唇が封切られる事非ず。歴史の立会人なる有り様を示した──。
さらに人が争いの火種渇望する螺旋、目に映らぬ影絵の劇。知らぬ間に封切られ様としていた。




