第34話『Dark Side Spiral(黒き側の螺旋)』A Part
候補者と鍵が夜の密会に現を濡らした頃合い──。
バルタバザルに於ける現人神の名語り演じたルヴァエルに恐れを抱いたマーダ。
己が直属の配下、ドゥーウェンが開いた決起集会。
加えて候補者の独りと鍵なる女性が遂に扉の裏側、二人だけの世界を拓いた。
ドゥーウェンはマーダ達へ情報を流するのを完璧に堰き止め、剰え電算の炎壁すら仕込んだ裏切り行為を知らしめる。
されどザラレノ・ウィニゲスタが刺した検針まで防ぐには至れず。ローダ達が迎えた装い新たな生誕祭の行末さえも知り抜いていた。
──マーダ様……。
マーダから贈られた黒レース妖しきネグリジェ1枚切りのフォウ。
あれ以来、誇大な王の寝室へ自分を捻じ込み、貪り尽くすが如く自分を求め続けられたフォウ・クワットロの憂鬱。
身体のみならず、内に秘めた心の鬱憤を私だけには伝えて欲しい願望。その後、何されようとも受け容れ歓喜の華、心に咲き誇るのだ。
──鍵、鍵か。私が?
これ迄延々と受け身で在り続けたフォウが初めて見せる心の反乱へ踏み出したい。自ら神をのたまう男の扉を私が拓きたい欲求昂る。
バルタバザルの決起以来、全裸を晒し続けるマーダの自暴。まるで総てを自ずから棄てた体現。
惰眠の深みに落ちた王子様へ此方から手向けた口づけ。フォウはおこがましくも彼の直属配下4番目では飽き足らず、心隣に寄り添う気持ち抑え切れぬ想いを彼の寝顔へ注いだ。
既にやり終え過ぎた事柄。されど仕掛人が彼女、心の在り様が別物過ぎた好意。
「ンッ……ふぉ、フォウ?」
自然のルージュ上から被せただけの接吻。されど刻延々と流れ、マーダの寝息を妨げるのに充分過ぎた。
互いの呼吸触れ合う高地から琥珀色の瞳零したフォウ魅入る。目覚めて気付くマーダの瞠目。
恐れ多くも暗黒神、敬愛する神を白い躰で跨ぎ支配するフォウの決意。
「ま、マーダ……。い、いえルイス様。私恐れながら貴方様を神でなく独りの男性としてお慕い尽くしております」
頬だけに非ず、躰中に流れる心の循環が沸騰しそうな吐息漏れるフォウの告白。されども女として見られたい欲揺るがず。決して相手から目は逸らさずにいた。
「フォウ……。良いのかい? 彼でなく僕で」
「はい、わ、私の中は既に貴方様で満ち溢れています。他は要らないのです」
相手の頬をさも愛おしさ極まる気分で触れるルイス、複雑なる想い。
フォウの顔が涙を溜め込み、許容するべく美麗な顔歪ませてゆく。
ふわッ。強引でない、優しさ帯びたルイスの抱擁。フォウの黒髪優しく撫でる。
「フォウ……。本音を言えば鍵の女性を弟に奪われた哀しみを癒したく君へ縋った。僕は最低な男だよ。もう一度聞く、ルシア・ロットレンの代わりで君は満足なのか?」
躰を起こし抱いた姿勢、フォウの耳元で懺悔に及んだルイス。
ピクリッ……。と揺れるフォウの心を現世へ生き映した朧。
「好きに為る切欠なんてどうでも良いの! ルイス・ファルムーン、貴方は私を愛せますか!」
熱き涙をルイスへ染み込ませる、己の慈愛問いただすフォウの慟哭。
耳非ず、ルイスの魂揺さぶる。この細腕の何処からこんな力の泉出流のか。
「私がもし貴方の心を拓けないのなら捨ててくれても構いやしない! 鍵でも器でも貴方の為ならこのフォウ、この場で心を貫き捧げた処でそれは最早悦びなのです!」
「──ッ!」
次は抱き締められた躰を突き放し、己の胸をギュッと爪喰い込ませ握り締めたフォウの誓願。
神慕う罪深き独りの信者、反逆の意志。
これは最早願いを越えた神話の供儀、愛の序列を超えた魂の渇望滲ませる。
「そ、それに貴方だって候補者……。新人類の礎に相応しい御方」
「何故?」
未だ決死の覚悟胸に抱き己の絶対神へ訴えるフォウ。
この場で首跳ねられ転がり逝くなら其れも運命。
「貴方は300年もの間、数多の人類を虜にした存在。既に権利はその身に宿っていらっしゃる。後は貴方を拓く鍵が私で在りたい!」
フォウから届いた愛秘めた反抗がルイス心の空虚、輪郭を優しくも確実以ってなぞり往く。
バッ!
「る、ルイス……さ…ま?」
「フォウ、これ程までに無償を授かった相手を僕は知らない。漸く判ったよ、僕は男なんだな。僕が君を鍵へと昇華させてみせるさ」
全裸のルイスがフォウに飛びつき押し倒すと、次は熱すぎる抱擁と共に喜悦の礼。
涙で紅へ染まった続き、少年みたく無邪気なルイスが自分へくっつく様に、顔を朱色にしながら心弾ませる。黒い流れる髪がふわりッと浮かび二人を祝福する薬玉の如く舞い降りた。
──嗚呼ッ……!
繋がり求む躰も触れあう心音も総てが愛おしい。フォウの華心、狂い悶え咲き明かし尽くす。
そんな女の悦びを知り抜いたが如くフォウを抱きかかえ、もう幾度目か覚えていない情事染み渡る場所へルイスが誘う。
なれどこれ迄成し得て来た二人の重なり合いとは全く以って違うのだ。
『もう私はルイスの慰み者なんかじゃない』
暗黒神の真祖と眷属──そんな心寂しき二人の繋がり合いは消え失せた。
「フォウ、君には僕の総てを明かすよ。あのルヴァエルという少女、嘗て僕が人を移り歩く能力を奪った最初の人間、レヴァーラ・ガン・イルッゾに似過ぎるんだ」
ベッドへ自分の躰を転がし、フォウを自分の上に敢えて据え置いたルイスが語る真実。
「け、血縁の可能性?」
平凡を描いた様なフォウの返答、尤もこれぞ必然の流れ。
「ふうっ、それなんだよ……。全く以って意味が通らないんだ。レヴァーラの娘は双子、ファウナ神と姉が居た。だけどさ、僕の中にその片割れすら息づいてる」
溜息吐きながらも、自分を下に抱く新しき黒き女神の肢体を眺め倒して人心地なるルイスの愉悦と苦悩入り混じる顔。
「ファウナ神の実母!? じゃあその姉の方の親族……?」
護りの女神ファウナは、この世界軸に於いて初めて魔導を成し得た若過ぎる女神。神話の時代に非ず。アドノスに身を寄せる者なら誰しも身近に感ずる人から生まれた真実の神。
「それも正直考え辛い話さ。姉『ゼファンナ』は天涯孤独のまま、人生の幕を下ろした筈なんだ。第一何より……」
双子の姉ゼファンナは、金色の髪と地中海の如き海色湛えし碧眼を敢えて緑に染め上げ、ラファンの森深くに染み入り『森の女神は緑色』を世界へ浸透させた。
本物のファウナから世界の目を背け守るべく──そんな女性が仮に愛を成し得たとしても子供を育むのは考え難い。
「──?」
「何より人を火薬に転ずる能力者の血を引くルヴァエル、レヴァーラ当人或いは血縁とあの気狂いが人を成すなど決して在り得ないんだ」
何もかも知り尽くした感で知らぬ事実を語るルイスの複雑怪奇。
人を火薬と成す異能者は、己が目前で失せた存在。
然も異能生まれた後、レヴァーラとは仇であった。仮に一夜限りの仮初があったとしても異能の血液は途絶えたのが必然なのだ。




