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第32話『Open your(my) hearts(拓け私達の心)』 B Part

 ──軍議。


 そんな無粋(ぶすい)瞬く(またたく)間に照らす星空へ失せ、入れ替わる人々のささやかなひと時が歌劇(オペラ)の舞台を奏で(かなで)始めた。


『ま、おやっとさぁ(お疲れ様)じゃな(だな)


「「──ッ!?」」


 大階段を降り切った二人を随分(ずいぶん)久しい気がしてならぬ聞き取れない訛り(なまり)が出迎え。

 リイナのスマホから響く(ひびく)労い(ねぎらい)。漁村エドナを守るべく要石(かなめいし)貫く(つらぬく)ガロウ・チュウマの気軽な声、現実に引き戻された二人の思い(愕然)


「が、ガロウ。お前()()見てたのか!?」


『応、あたい(当たり)前じゃ。軍議に顔()出さん訳にいかんど(いかない)。──じゃっどん(けれども)まこち(本当に)びっくい(びっくり)したが。皆見ちゅう(見てる)前で婚約()()する()思わんかった』


 ローダとルシア、顔をアラルディカ(イタリアのワイン)の様に染め上げ互いの顔(そむ)けずに要られない。


 此処に居る連中よりはガロウは(いく)らか見知った仲。

 大して見知らぬ(やから)に聞かれた処で開き直れば気に病まないと感じていたが、仲の良い少々歳の離れた友達に()で言われ、改めて羞恥(しゅうち)滲み(にじみ)出て来た次第。


 タンッ……。


「ピアノの音?」


 ローダ、振り返ると金縁眼鏡の学者(ドゥーウェン)がPCのキーボード手放し、ピアノ奏者(そうしゃ)へ転じたのに気付く。『ピアノの嗜み(たしなみ)』以前聞かれた事を思い返す。


 歌劇(オペラ)を思わせるゆったりとした曲調。ピアノソロから幕開け、やがて管楽器達が豊かな華も添え始めた。


 ──この曲?


 耳澄(みみす)ませるローダ、聞き覚えのある曲。

 目を閉じ暫く(しばらく)の間、曲を熱心に聴き惚れ(ほれ)貴族時代の思い出に浸る(ひたる)


 やがて原曲(オリジナル)を残しながら徐々に曲調が移り変わって(アレンジされて)いくのを感じ取る。


 旧日本人、吉野亮一(よしのりょういち)へ転じたピアノ奏者(そうしゃ)が格調高いクラシックへ2()1()()()()()()音を織り交ぜる。

 亮一は20世紀を歩んでない割(生きてない癖)、1990年代のテクノ(SOUND)が大のお気に入り。

 鍵盤(けんばん)の上、両手の指を踊る様に跳ねらせ始めた。


 ──ふん、中々やるじゃないか。


 伝統の中に息づく軽快な韻律(RHYTHM)。亮一の音楽に対する美意識(センス)だけ、ローダは認め独り含み笑い。緩んだ目を開くと愛語りたい女性(ルシア)へ笑顔で手を伸ばすのだ。


「ろ、ローダ?」

「ルシア、俺と踊ってくれ。亮一が()()()()()()()()()()


 クイッ。


 ルシアの返事を待たず手を取り、空いた方は自然に任せ腰へと回す。腰寄せ合い(ほお)触れるまで愛しを自分の元へ抱く(いだく)

 洗練(せんれん)されたその動き、異性のやらしさ感じさせぬ芸術の域。


「む、無理だよ。私に踊りだなんて……」

「問題ない……俺が()()、君なら()()()


 階段から共連れしただけで夢見心地だったルシアなのだ。周りに踊っている一組(男女)が見つからぬ独壇場(晒し者)


 トクントクンッ!

 ──も、()い。好きにして。


 ルシア、全て諦めローダに身体を(あず)ける決心固めた。

 普段と真逆なローダに任せられる安堵(あんど)。彼の思うがまま自分も動けば()()()踊りが出来るかも知れない。眠れる森が如きワルツの曲と、彼氏に身を委ね(ゆだね)逆らわずリードに任せた。


「おぉ!」

「ルシア御姉様、素敵(すてき)!」


 フォルデノ城下で若き日のミス・フォルデノ(ホーリィーン)と踊り明かした夜。ジェリド21歳の思い出に酒と共に酔いしれる。

 隣でリイナが蒼い大きな瞳を輝かせ(うさぎ)の様に跳ねながら喜ぶ。憧れ(あこがれ)の御姉様が彼氏(ローダ)と踊る様を片時も見逃せない。


 ──嗚呼……なんで? どうしてこんなにも心地良いの?


 ルシア、周囲の視線を洗い浚い(ざらい)集めた自分に全く以って気付けない夢中。


 そんな色とりどりが彼女の視線に止まらぬ奇跡。永久不変に回り続けるオルゴールの飾り人形に転生したい現実逃避(げんじつとうひ)を思わず望む。


 ローダだけを見つめ火照る(ほてる)(カラダ)で彼と共に()()()緊張の糸解れ(運命の糸絡み)、微笑み流しながら彼との同調(シンクロ)具合に酔いしれ続けた。正に心()()想い。


 気が付けば格調高い楽曲(クラシック)が洗練されたMUSICへ移り変わり、社交ダンスが熱狂的DANCEへ()()果たす。


 ローダは独り、彼女を導ける喜びとこれからドゥーウェンに限らず、世間に()()()()()であろう自分達の運命(さだめ)一喜一憂(いっきいちゆう)


 さりとてこの男は愛するLADYへ満面の笑みを注ぎ込む。『この瞬間だけで構わない。君に俺の総てを(ささ)げたい』


 ──御姉様、心の底から楽しそう……。


 リイナ、他人(ヒト)の幸せ妬む(ねたむ)思いが首擡げ(もたげ)自分を嫌悪(けんお)したくなる気分が大きく(ふく)れ上がるのを感じた。


 ──ほおづき……。良か、良かなぁ。おい()おまんさぁ(お前)と酒()()んで歌いたか。


 スマホ越しに若い友達の良き様を見ながら、国へ残した愛妻へらしくない想いをガロウが寄せた。


 初恋同士が見せる穢れ(けがれ)知らずな触れ合いに、(世界)鬱屈(うっくつ)さえも()()()()往くのだ。


「──ローダ」

「ン?」


 (チーク)寄せ合う最中、ルシアの悪戯心(いたずらごころ)芽生え(めばえ)、ローダの耳元で囁く(ささやく)


ソレ(薔薇)、私に頂戴(ちょうだい)


 ローダの胸に()()()()青い薔薇。ルシアはそれを自分に渡せと語り掛ける。

 驚き隠せぬローダ、ルシアとてこの薔薇が花言葉通りの()()()()()のを知り尽くしている。


「良い…のか?」

「好いの、私が欲しいの(背負いたい)


 言い淀む(よどむ)ローダを他所にルシアが勝手に薔薇を取り上げ、自らの胸元に刺し変えた()()

 これから訪れるであろうローダに対する様々な()()()

 共に背負い、希望へ転()したいと強く哀願(あいがん)……願いを掛けた。


 曲が終わる──。

 歓声と鳴り止まぬ拍手、共に幾度(いくど)(うやうや)しく頭を下げ感謝の意を皆へ伝えた男女(ペア)


 この場に居合わした群衆の心を曲り形(まがりなり)にもひとつに固める役目は果たした。


 ──二人だけ、真実なる恋の歌劇(OPERA)の夜(・NIGHT)漸く(ようやく)開幕──


 ひとしきり踊り終え、友人達待ち()びるテーブル席へ戻るかに思えた二人。

 藍染(花色)のドレスを纏う(まとう)金髪(女性)を抱え、白いタキシードの男が突如(とつじょ)駆け出す。


 気になる異性(相手)()()()()するには強引な駆引きも時には寛容(かんよう)

 ()()も『居なくなった?』を流せるおおらかな心が不可欠(不可侵)、次は自分達の()が訪れるやも知れぬのだ。


 星空の元、琥珀色(こはくいろ)したフォルテザの夜景広がる高台に聳え(そびえ)立つ建築物の外は別世界。

 イタリア本土よりさらに南の夜空に浮かぶ星々は北と南を独り占め。南十字が愛し合う二人を祝福する自然のチャペル思わせる。


「わぁッ! き、綺麗……」


 不意に自分を外へ連れ出したローダに対し羞恥(しゅうち)を怒りへ変え、胸板叩こうと思ったルシア。()()()()


 ギュッ……。

 再び(カラダ)預け(あずけ)寄り添って来た愛しの姫君、優しみで抱く清廉潔白(せいれんけっぱく)なる騎士(knight)


「わ、私……貴方のこ…!」


 ローダに抱かれたまま星流れる目で上を向き、愛を誓おうと開く口をそっと人差し指で閉じる気取り(きどり)屋な騎士。


『ずっとお前(ルシア)御陰(リード)で此処迄来られた。この場くらい(告白なんだ)男を()せたい』


 またしても溢れ(あふれ)出る心の声。思わず「ふふっ」と喜悦(きえつ)の笑み零す(こぼす)ルシア。


「ルシア、愛してる。これからも()()()開いて(拓いて)くれるか?」


 高鳴り合う互いの心鐘(心音)吐息(といき)さえ風の精霊絡み合うのを感ずる。


「うんっ!」


 ルシア、これ迄の人生注いだ満面の笑み。

 自然に委ね両目を閉じ、緑を塗った唇(瞳色のルージュ)で待ち()がれる幸せ。


「ンッ……」


 重なり合う唇と心。初めての純潔なる(触合うだけの)接吻(キッス)……と思われた矢先。


「ンッ? ンンッ……」


 ルシアに潜む淫魔(悪戯)()()()、触合う唇から接吻(深み)へ誘う。

 不覚にもキスの途中で目を見開くローダであった。


『アナタは一生私が導く(リードする)のよ、忘れないでね』


 終わり無き()、心の声すら刻み(きざみ)合うのを感じた。

  挿絵(By みてみん)

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