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第32話『Open your(my) hearts(拓け私達の心)』 A Part

 驚異の外敵が此方に攻め入る──。

 然も嘗て(かつて)シチリア(小さな島)アドノス(世界の中枢)へ押し上げた真実(レヴァーラ)なる女神(・ガン・イルッゾ)末裔(末裔)


 動揺(どうよう)激しい双方の兵士達──。

 我等が大地の創造神が鉄槌(てっっい)を下すべく眷属(血縁)寄越す(よこす)絶望。


 何とも身勝手な話だが此処迄追い詰められた人間達は(すが)れる新たな神を欲する。

 それは金縁眼鏡(きんぶちめがね)を掛けた黒服(学者)で在る訳がない。彼は若き神々(英傑達)宣教師(せんきょうし)に過ぎないのだから。


 我がアドノスを守り抜くが為の(正義)

 独りの(あや)しい男へ過剰(かじょう)な力が集まり往く(悪事)


 白黒つけ切れない悩ましき皆の空気をヒシヒシと肌に感じた若輩(じゃくはい)過ぎる英雄(ヒーロー)が一歩前へ歩み出た。


「お、俺は貴方達の言う暗黒神(マーダ)とやらを初めて倒した……。そんな話の流れに成っているが俺独りで成し得た訳じゃない。俺は所詮(しょせん)ただの騎士見習い、この島(アドノス)には生き別れの兄を探しに来た」


 必死に()(はげ)まし期待を一心(いっしん)に自分に注ぐ連中へ訴え始める道化(どうけ)、ローダ・ファルムーン。


「俺を救世主みたく思ってる人には申し訳ないがこれが事実だ」


 震えた声音(こわね)感じる若造の語りに耳(かたむ)ける群衆がどよめき始める。

 何しろ暗黒神を退(しりぞ)けた男だ、彼を置いて他に()()願える者なぞ想像出来やしないのだ。


 グィッ。


「──ッ!? ちょ、ちょっとッ!?」

「だ、だけど俺……。ローダ・()()()()()()は、ルシア・ロットレンと彼女の故郷(ふるさと)を全力で()()()()()護り抜きたいッ! 今、俺に言えるのはこれだけだッ!」


 あからさまに緊張帯びてる青年の声色。

 近頃(ちかごろ)自分の()蔑ろ(ないがしろ)にし続けた男が独りの人間として敢えて()()を明かす。

 加えて美麗(びれい)女傑(ヒロイン)の肩を無造作(むぞうさ)に皆の目前で抱き寄せ、恥ずかしくも秘めたる愛を上擦んだ(うわずんだ)声で大いに暴露(ばくろ)したのだ。


 敵味方双方を先導し得る軍神?

 独りの女性を漸く(ようやく)愛し始めた(ごく)ありふれた成人男子に求めるなど可笑しな(イカれた)話だ。


『俺は此奴(ルシア)を愛してる! 彼女を守る為なら何だってやってやる! 同じ(こころざし)がある者は着いてこい!』


 珍妙(ちんみょう)御託(ごたく)を並べるより余程、覚悟の在処(ありか)が群衆へ染み渡る。心(ひら)いた男子の誠実(せいじつ)


 パチッ……。パチパチッ、パチパチパチパチパチパチパチパチッ!!


 巻き起こる喝采(かっさい)(うず)──。


 拍手(はくしゅ)の平手打ちを最初に発したのは、小賢しい(こざかしい)学者を未だ否定し続けるジェリドであった。

 この流れ、壇上(だんじょう)にて笑みを()やさぬ学者の思う(つぼ)だと知り尽くした上で敢えて若さを肯定(こうてい)したのだ。


 その偉丈夫(いじょうぶ)な騎士から若者二人を賛美(さんび)する気分が波紋(はもん)の如き輪と成りて拡がりみせ往く。


「そうだッ! 俺だって家族を守りたいんだッ!」

「当然だッ! でなきゃ生命張ったりするものかッ!」


 ローダの勇気を見せ付けられ各々(おのおの)守りたい者が在る戦いの本質(命の尊厳)を叫び始めた。中には「見せ付けやがる」「もぅそのまま結婚(GOAL)しちまえ」ヤジなのか祝福なのか判別出来ぬ言葉も飛び交う。


 拍子(ひょうし)抜けした顔で皆を(なが)めるローダとルシア、驚きの顔見合わす。首元迄(しゅ)に染まる必然。

 豪快(ごうかい)嗤い(わらい)飛ばしたジェリドが厚い胸板を張り「彼() ()()()だ」と隣に居合わす愛娘(リイナ)の背中を無遠慮(ぶえんりょ)に叩くのだ。


 鎧を羽織(はお)った重い手で背中を叩かれリイナは思わず(むく)れた顔を父へ浴びせた。『良い男』一体誰と比較してるのか無駄な邪推(弱気な地元の彼氏)が頭を過ぎる。


 リイナ先生(せんせぇ)がルシア先生(せんせぇ)を子供等と共に揶揄(からか)った結婚詐欺(おくたん)。退路見失い現実に()()()されたと言っても過言(かごん)ではない。


 兎も角(ともかく)こんな人前で壮大(そうだい)恥を晒した(愛を語り抜いた)ローダの的外れな宣言(プロポーズ)が皆の団結を生んだ。

 そしてただの(ひら)けた大広間が英傑の男女(たた)える()()へと姿を変え始める。


 ドゥーウェンの狡猾(こうかつ)(はなは)だしき掌返し(てのひらがえし)。結果を決めつけた上で、本物の舞踏会開催を裏で取り仕切っていたのだ。


 冷たき会議室のテーブルへ続々運び込まれる豪勢(ごうせい)な料理と色とりどりの酒瓶(さかびん)

 美しいドレスに身を包んだフォルテザ市の知名度高い女性達すら雪崩れ(なだれ)込む。

 管楽器(かんがっき)(きら)びやかな吹奏楽(すいそうがく)さえも準備(アップ)を始めた。さらに二階から吊るされ降り往くグランドピアノが放つ荘厳(そうごん)


 まるで盛大なMagicShow(お色直し)幕開け(様相)

 兵士達、可憐(かれん)な女達、色彩(しきさい)(あざ)やか過ぎる極彩色(ごくさいしょく)(うたげ)


「え、ええと……」


 その様子に(ほう)けて言葉が出ないルシア。

 黒い手袋がそんな彼女の空虚(くうきょ)()めるべくドレスから(あふ)れた清楚(右手)を握り、絢爛(けんらん)へと誘う(いざなう)のだ。


「──ッ!?」


 温和(おんわ)だが少々荒れた男子の唇がルシアの手甲(清楚)(おだ)やかに触れる。

 恭順の形で(片膝立てて)座り込み、勝手に引き出した彼女の手へ初めてのKiss(口付け)優雅(ゆうが)に与えたローダの愉悦(ゆえつ)


「今夜の君は最高に綺麗だ。そして……」

「……?」


 ローダ、『綺麗だ』と告げた後、僅かに顔背け(そむ)言い淀む(よどむ)


 ──そして……何?


 未だ自分の足元に座り込んだ彼を()()()()()()()ルシア。何だかとても欲しいもの(言葉)が貰えそうな待ち望む想い。


「そして……とても()()()


 トクンッ!

「アッ……」


 ルシア、掛けられた声に思わず喘ぐ(あえぐ)。気を抜いたら最後、その場に砕け(くだけ)落ちそうな気分。

 初めて男性から言われた『可愛い』ローダは私の欲しかった一番を余す処なく(さず)けてくれると改めて思い知るのだ。


「行こう、皆待ってる」


 立ち上がりルシアの手を引くローダ。凛々(りり)し過ぎる、(あざ)やか過ぎる……。そして今夜は何より巧者(リードが)過ぎる愛しき男性。


 決して(あせ)らず、()れぬヒールを持て余す自分を気遣い(きづかい)、穏やかに優しさだけで導く燦然(さんぜん)と輝いたローダと大階段を緩やかに降りる幸せ。


「あ、あ、わ、私……」


 別人が如き煌めきの笑み寄越す(よこす)ローダを()が直視出来ないルシアの夢心地(ゆめごこち)

 履き(はき)慣れない高過ぎるヒール、(すそ)引き摺る(ずる)ドレスのスカート。これ迄夢でさえ見た覚えがない大広間に拡がり往く彩色(さいしょく)豊かな宴の絵柄(えがら)


 そんな驚き(初めて)を全て吹き飛ばす気品滲み(にじみ)出るローダの白い背中。

 こんな気持ち(ドキドキ)、一体如何(どう)言い表すのが正解? 


 気を抜いたら最後、ローダの胸に寄り添ったまま気を失う絶頂(Ecstasy)迎えそうな快楽(かいらく)()ちぬよう懸命(けんめい)に握る手へ真心込めた。


 田舎貴族出身のローダに(いざな)われし姫君か、はたまた幸福の絶頂(ぜっちょう)(あふ)れる花嫁が如き気分で、大階段を幸せ踏みしめながら1階の広間迄如何(どう)にか降りた。

 ルシア・ロットレン絶好の(とき)、訪れる妖しき夜の楽園。

 挿絵(By みてみん)

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