第31話『Rosa Blue(蒼き薔薇)』 B Part
フォルテザ市を守護する役目を担っている兵士達を敵味方関係なく総て近代的なビルの形を模した砦の大広間に集結させ、バルタバザルにて声を上げたルヴァエルの危険性を説くドゥーウェン。
四脚歩行の機械兵器が続々と自分達目掛け襲撃する日が近いと優男の成りで声を荒げた。
「──済まんが少しモノを訊ねても構わないかな?」
リイナの父、ジェリド・アルベェラータの野太い声と右腕が群衆の中より上がる。他の連中から吐かれる罵詈雑言が横断する最中、柔らかな物腰ひとつで周囲を黙らせた。
「ラファン出身のジェリド様、どうぞ」
皆が好き勝手……意見に満たない発言飛び交う中、埋もれぬ影響力に正直胸撫で下ろす気分で応じるドゥーウェン。
望まぬ方向へ転がり掛けた会議を纏めるなど自分の役割以上。威厳溢れる人が良い流れを勝手に呼び込んでくれたのが有難いと感じる。
「正直、黒い奴の対処方法については要領得ないが、武器や魔法が通じぬ訳でないのならば我々が力さえ合わせれば如何にか対処出来る解釈で良いのかな?」
やはり他の有象無象とは明らかに異なるジェリドからの正解に近しい投げ掛け。
「はいっ、仰る通りです。それから間に合うか正直自信ありませんが別の対抗手段も検討中です」
ドゥーウェンの優顔に光明が差した感。
一番語って欲しかった内容、敵側からしゃしゃり出て来た自分が声張るより余程、周囲を動かす原動力に成り得るものだ。
「ふむっ……ではもうひとつ。君の言葉を拾った印象から受けるにこのルヴァエルという少女……現人神が如き特殊能力を扱えると認識した」
「それも全く以って御言葉通りでございます。何でも生きた人間達を火薬に変えたとか」
ドゥーウェン、身体頼みだけでない騎士殿をこの場に呼び込めた偶然に心地良さ感じ始めた。周囲の連中は両者のやり取りに傾倒すれば説明不要な流れが作れる。
「それだ……。憶測の域を出ないが彼女の様な異能者が他にも列を成していると考えるのが妥当に思えた。異能者の集団に未知の黒い兵器。そんな掛算にどう立ち向かうつもりなのだ?」
ギラリッ。
歴戦の勇士、細き目から矢の如く放たれた凝視感ずるドゥーウェン。
この騎士、読心術が扱えやしないかと疑いたくなる程。心底謝辞を伝えたいと思う。頭の出来が軽薄過ぎる学者の居心地良さ、此処に極まる。
ジェリド的には危険視するこの男へ釘刺す意味を持った台詞だ。
なれど受けたドゥーウェンにかえれば裏を突いた絶好の機会に思えた。
「全てジェリド様の御指摘通り、故に此処に居られる英雄ローダ殿と女傑ルシア嬢の助力が不可欠なのです!」
ドゥーウェン的には正に筋書き通り、台本を眼下の騎士へ渡したと思えた程。ここぞとばかり、若き二人の英雄を紹介出来る歓喜を躰で熱く表現した。
ジェリドはラオに向かった際、セスナへ乗り込んだ時の気分を思い起こした。
世界最高峰の技術力×未知の兵器×異能者最上位と思しき若者二人を手にする危険を孕んだ話の流れ。手放しで喜ぶ気には到底なれぬのだ。
◇◇
遡ること数時間前──。
二人っきりの病室を訪れたベランドナに導かれ辿り着いたのはドゥーウェンの私室。
スマートフォンを数十倍にも拡大したモニター群が軒を連ね、A~Zと数字が列を成した物すら所狭しと並んだ不可思議な部屋。
電算機……普段二人も扱うスマホも中身こそ同一なのだが、見知らぬ者には別物と映るのも止むを得ない。
カチャカチャカチャカチャ……。
「Master、御二人をお連れしました」
「ありがとうベランドナ。御二人共、空いた椅子に座ってくれますか」
ドゥーウェン、モニタリングとキーを叩く手を決して緩めず視線さえ交わさずそのままの姿勢で会話を切り出す無作法を当然の如く始めた。
複数の映像見ながらこれまたひとつでないキーボードを独りの人間が流れる如く操作し続けられる異様。殊更会話を始める異常な思考。
話の内容は今夜19時開始の会議に於ける英雄の立ち位置。要は楽屋裏の打合せといった処。
「……と、言った訳で御二人には絶望的な私達へ奇跡を呼び込む蒼き薔薇に成って頂きたいのです」
気軽に奇跡呼び込む態度で『蒼き薔薇』と口を突くドゥーウェン。
青い薔薇の花言葉は不可能を可能へ転ずる奇跡。嘗て不可能だと思われた青色の薔薇を錬成為し得た故、由来がそのまま言葉へ化けた。
「ちょ、ちょっと仰る意味が……」
「そうか、俺とルシアに道化を演じろとアンタは言うんだな。青い薔薇に成れと」
戸惑い隠せぬルシアを他所にローダが強い口調で会話を斬り裂く。
アドノスに辿り着いた当初、言葉足らずだらけであったこの青年。
不死の巨人と争い、連れの大気使いを荒々しく糾弾。
その後ルシアから熱い恋慕受け続け、若者らしい地が剥け始めた様子。
この場に於いても学者から告げられた小細工へ圧迫掛けた台詞で応じた。
「ふふ……中々如何して耳の痛いことを言うじゃないですか。……そうです、流石は候補者。私の心を読んだのですか」
此処で漸くせわしなく動き続けていたドゥーウェンの指先が停止。
「子供だと思い馬鹿にして……こんなもの読む迄もない! アンタまるで戦争を遊びみたいに扱う!」
ローダの情け容赦感じぬ言葉の切り込み。彼は一応成人男子だが相手は数百年もの間、眠りに落ち年齢だけ重ねた男。要は皮肉を詰めた台詞だ。
思わずベランドナが腰に差してるレイピアの柄を握り抜刀の準備を整える。それ程の圧を周囲へ与えた。
「ま、待ってローダ!」
ローダの右手に自分の左手を絡め強硬に押さえ込もうとするルシア。
学者から言われた提案こそ腑に落ちないが上辺だけの正義へ加担させようと企む気分は流石に理解出来ていた。
「そんなの判ってるさ。争う!? ……フンッ、こんな奴馬鹿々々しくて殴る気も出やしないさ。アンタ、効率良いやり方を言い訳に俺とルシアを戦争のダシに使う気なんだ」
小賢しいと鼻で蔑むローダ青年。
カシャ……。
「だとしたらどうするつもりかな、ローダ・ファルムーン?」
金縁眼鏡を机上に置き、穏やかな笑顔をドゥーウェンが手向けた。
──グゥッ!?
笑みを絶やさぬ学者相手に募るローダの苛立ち。
青年も充分理解していた。この男が望む千載一遇の好機、自分も乗じなければならない現状。
嘗ての神々と対等に渡り合えると思しき外敵の存在。
そして生涯愛し抜きたいルシアを巻き込む戦争、目前に迫る勢いみせていた。
自分へ無償を注ぐ相思相愛なる女性を俺自身の手で守り抜きたい。
そんな秘め事承知の上で『ローダ君、奇跡を起こせ』と金縁に焚き付けられているのだ。
「判った、やってやるさ」
吐き捨てたローダの誓い。
愛するルシアの為、青薔薇の奇跡を己が成す。思い上がりで構わないのだ。




