第31話『Rosa Blue(蒼き薔薇)』 A Part
マーダ直属の配下、ヴァロウズNo2の学者ドゥーウェン。
そのドゥーウェンの傘下。人類種最高位の流麗なハイエルフの女性、ベランドナ。
暗黒神を初対峙にて蹴散らしたと噂の英雄、ローダ・ファルムーン。
英雄を導いた美麗過ぎる女傑。此方も民衆軍的には実の処、新人扱いであるルシア・ロットレン。
民衆軍の敵方である二人とマーダ軍として己が信ずる神を倒した不愉快極まる存在が手を取り合う何とも奇妙な絵柄が壇上に軒並み揃う。
敵味方双方、現状飲み込めず狼狽え下から眺める以外、成し得ようがない他の輩。突然過ぎる出来事に言葉を失うものの、やがて誰を相手取るのか無価値な抗議の応酬合戦始まる。
「双方どうか御静粛願いたいッ!!」
高身長だが線の細いドゥーウェンから迫真の発声、大広間に響き渡る。細身の何処から鋭い指摘が発せられたか、ただの一言で静まり返らざるを得ない群衆。
「皆様のお気持ち、腹立たしさ。このドゥーウェン、理解出来てるつもりでございますッ! 特に民衆軍の皆様に置かれましては、この場で八つ裂きにしたいでしょうッ!」
声張上げた策士、必死の形相演ずる決意表明開演。この場に居合わす民衆軍は彼に手傷負わされた記憶なき上、支配下に置かれてからも丁重に扱われている自覚伴う。
されど黒騎士マーダ軍相手の気分ならば話は別。
あらゆる戦場に於いて仲間や家族を消された数多の根強い怨恨が脳裏を過ぎる。
増してや壇上で自分達をこれより煽動しようと画策してるであろう優男の始末なぞ、一兵卒ですら容易かろう。
「我ながらこの場に立つ無礼、恐悦至極でございます」
声、次第に落ち着かせ自分の弁論に引き込むドゥーウェンの作戦。彼自身『良くもまあ口が回るものだ』というのが本音。人前で説明──。元来苦手分野、逃げ出したい気分押さえ込む。
「ですがこれから私が話す内容を最後迄聴き終えた上、それでも憤怒勝ればこのドゥーウェン。皆様の剣を甘んじてこの身に総て受ける覚悟がございます」
頼り無き薄過ぎる胸板敢えて曝け出し、地上から此方を睨む輩を眺め回して一瞥寄越す金髪の学者。
1階の天井から真っ新な映写幕がゆるり下降する。此処は会議室であった当然を思い出す観客達。灯りが消され暗室へ転じた。
「先ずは此方の映像を御覧頂きたい。これはつい先日、旧インド領バラタバザルに於ける演説の様子でございます」
プロジェクターが映し出したのは、先日マーダ達がフォルデノ城王の間で驚愕強いた映像と等しき絵面。首下が機械仕掛けに見える三つ編み黒髪の少女、ルヴァエルの煽動。
共に映るは褐色のうら若くも男共の心揺さぶる妖艶帯びたサリー姿の女性。
殊更悪目立ちする黒い機械、黒豹を彷彿させる不審な存在。
「このルヴァエルと言う名の少女、加えて四足歩行の黒い兵器。間違いなくこのフォルテザ市を陥落すべく進軍すると私は断言します」
動画を一旦停止、ルヴァエルと傍らの巨大な黒豹を光の線で指しドゥーウェンが危うくも確信めいた言葉を吐き捨てた。
1階から「何故だ!」「如何して言い切れる!?」責任皆無、適当なヤジが飛び交う。
その様子に怪しげな学者、堪え切れずに思わず冷笑。周囲の人間達へ向けた笑みではないのだ。
この黒髪の少女、自らの先祖が立国したフォルテザの所有権を声高らかに主張するのは必然。土着に拘る相手と、己自身の頑迷に込み上げる自嘲を抑え切れなかった。
「皆様、このルヴァエルという少女。300年前、世界最高峰の先進都市Fortezaの開発に尽力した『レヴァーラ・ガン・イルッゾ』なる女性の子孫、紛う事無き血縁なのです」
学者の弁舌、聴く者共の心大きく揺さぶる。
レヴァーラ・ガン・イルッゾ──。その名を知らぬ者など此処には居ないのだ。
護りの女神ファウナ神と共にForteza市を大いに盛り立て、やがてシチリアを旧イタリア本国から独立。AdoNorthと改名した立役者。
ドゥーウェンの熱弁、さらに激しさを増す。
「それから隣に居る黒豹の如き兵器。これもレヴァーラ直属の鬼才、リディーナ博士が設計から製造まで独りで熟した最強兵器の試作機に間違いありません」
学者の熱弁に耳傾ける者共、やがて意味を解せなくなり始める。
何しろ此処に居る彼等は機械の争い未経験。どれだけ脅威を熱く語られた処で、全く以って想像出来ないのも無理からぬこと。
似合わない汗、額に滲むドゥーウェンでさえ、己が発言の信憑性疑わしいのだ。
300年前、吉野亮一としてサイガン・ロットレンと共に凍結の惰眠貪っていた時期の話だ。手に入れた過去の情報を見識のまま語るだけに過ぎない揺らぎ。
実際の処、映像が捉えた黒豹は試作機ではなく前段の設計図しかなかった分を起こした見掛け倒しに過ぎぬのだ。
ダンッ!
「然もあくまで試作機、現在量産化に着手していると推察されます。これらが襲来したが最期、黒騎士だとか民衆軍などと内輪揉めしている場合ではないのです!」
目前に拳で叩ける教壇を欲するドゥーウェン。
大階段の手摺と文字通り地団駄踏んだ踊り場、代わりの犠牲者へ哀れ転じた。




