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第29話『Human System(ヒト成し得た原理)』 A Part

 旧インド領バラタバザル、Bharat(India)の歴史は数多(あまた)なる人間達の邂逅(かいこう)。先住民バラタ族から産声(うぶごえ)上げ、大英帝国(イギリス)の支配下に置かれながらもヒンドゥーの教えと自分達の文明を決して絶やさず高き誇り(ほこり)を通した。


 自国取り戻した後、(ふところ)広く他国の文化・宗教・思想を(あふ)れんばかりに世界の天嶮(てんけん)ヒマラヤの(ふち)に許容した。21世紀初頭、劇的な発展を()げ人口世界最上位に伸し上がる。


 悠久(ゆうきゅう)(とき)流れるこの大地の人々は、22世紀に至ってなお続く地球温暖化さえも耐え抜いた。

 世界全土を混沌(こんとん)(おとし)めた名ばかりの連合国軍が強行した『Purge of(星屑達) Stardust(の粛清)


 旧インド領とて手酷い傷を背負うも比較的文明を残存出来た。

 故に誇り高き先住民達は、名前だけ奪われ(しいた)げられる屈辱(くつじょく)耐え(たえ)凌ぐ(しのぐ)


 そんな者共へ若さ滲む(にじむ)(はげ)まし先導する黒髪三つ編みの少女ルヴァエル。

 首から下、機械混じりなのか。或い(あるい)は機械じみた何かを着装(ちゃくそう)しているのか。何れにしろ先進都市フォルテザ以外の異国にて有り得ぬと思われていた姿形。


 緑色煌めく(きらめく)瞳、何より人々の意志揺さぶる圧倒的求心力(きゅうしんりょく)満ち溢れた()()。加えて()()()人々の魂を爆弾と成した()()


「な、何故だ? 貴様は()()に……300年前()を成した存在。血を継ぐ(子供)さえ……も」


 震え──(いな)怯え(おびえ)たじろぐ稀有(けう)黒騎士(マーダ)葛藤(かっとう)の一言で決して片付けられぬ。『我を成した』と己が左胸押え、幾度(いくど)も首振る畏怖(いふ)


「ま、マーダ様?」

「……」


 敬愛(けいあい)最早(もはや)溺愛(できあい)へ転じたフォウ・クワットロにすら、黒い男(暗黒神)がみせる順応(じゅんのう)ならざる姿に見張る(みはる)琥珀色(こはくいろ)の瞳。


 対して言葉なく乾いた目で追うだけのサイガン・ロットレン。マーダ瞠目(どうもく)の理由を把握し得るのか、或いは知識装う(よそおう)上辺だけの視線か。


 人間へ転化(てんか)遂げた端緒(たんしょ)のマーダが華開いたのは300年以前の昔。

 例えどれだけ思い入れ感ずる者に似た存在が現れようとも己重ねるは珍妙(ちんみょう)。彼を此処迄突き動かす少女、ルヴァエルとは──?


 フォルデノ王国平定(強奪)後、これ迄在り得ぬ戦慄(せんりつ)に王の間自体が揺らぐ激震(げきしん)を感ずる。地中海に浮かぶ矮小(わいしょう)島国(アドノス)より、余程世界を牛耳る(ぎゅうじる)資格匂わせた。


 ◇◇


「ふぅ……」


 丁度同じ頃合い──。

 バラタバザルにて子供とは思えぬ素晴らしき演説を披露した長い黒髪三つ編みを揺らした少女の一息。


「ルヴァエル様? 随分とお疲れの御様子でいらっしゃいますね」


 側近(そっきん)であろうか。

 空色のサリーを身に(まと)った20代前半と(おぼ)しき容姿を微笑み以って少女へ敬語で手向(たむ)ける。


「エルミュラ? 16の子供(少女)が生徒会役員じゃなくて国を動かす道化(どうけ)を演じたんだ。溜息のひとつ位赦免(しゃめん)してくれ」


 先程の独演とは全く異なる同じ者と思えぬ少女の言い分。

 エルミュラと呼称した茶髪で蒼い目の女性へ軽い文句をぶつけた。言葉通りルヴァエルが相手取ったのは国家を最初に形造(かたちづく)った先住民の末裔(まつえい)。息つくのも必然。


「大変御立派であらせられました。()()()彷彿(ほうふつ)させる大変見事な演説。私大層敬服(けいふく)致しました」


 誉め(ほめ)言葉と余分な敬語(けいご)折り重なるエルミュラの魅惑(みわく)(あふ)れる声音(こわね)。相手が異性でなくとも(性別無関係で)落ちて身勝手な情愛(勘違い)呼び込み(湧き上がらせ)そうな風体(ふうてい)

 褐色(かっしょく)の肌色に(きら)びやかな民族衣装の組合せ。Bharat(India)でサリーを発案した人間、天賦(てんぶ)の才を殊更(ことさら)感ずる。

挿絵(By みてみん)


「御世辞なんか要らない──例のモノ、本当に大丈夫? 私とエルミュラの能力……それに御飾りな試作機(TYPE-ZERO)だけじゃとんだ恥晒(はじさら)しだよ」


 着装(ちゃくそう)した機械混じりの(からだ)へやれやれと首(すく)めるルヴァエル。

 彼女達の隣に佇む(たたずむ)黒い影。体長5m程ありそうな黒豹(くろひょう)に近しき四脚の機械(Machine)。これもバラタ族を煽動(せんどう)すべく用意させた急増品。一応動ける代物(しろもの)だがそれ以上ない見掛け倒し(プロパガンダ)に過ぎぬのだ。


「はい、全く以って抜かりなく。初代様の()()()が残した遺産が秀逸(しゅういつ)過ぎます。材料すら()()()にお隠しなされていたのですから」


 精神面(メンタル)が疲労困憊(こんぱい)なのを隠す気ないルヴァエルを尻目(しりめ)にひたすら愛想(あいそ)振り撒くエルミュラの美麗(びれい)。『黒い海』とは文字面通り『黒海』を示すのか。


「はぁ……あの()()、頭がおかしい。データ(ファイル)にせず紙に残した図面(落書きの様な絵)と、虫の鳴き声を偽り(いつわり)音声で情報(説明)伝達(リーク)するだなんて」


 三つ編みと共に首を存分振りつつ初代現人神(あらひとがみ)が随分頼りにした友人(叔母さん)の鬼才ぶりを呆れ果てるルヴァエルの憂鬱(ゆううつ)

 特殊な異能持たぬ人間の女が周囲を誤魔化(ごまかし)し守り抜いた残影(遺産)。此処迄出し抜けるものかと感銘(かんめい)突き抜けた軽蔑(けいべつ)なる不快感。


 ルヴァエルの語る叔母(おば)とは嘗て(かつて)消された先代の代わりに技術提供(平和協定)という名目で生き残り(残りカス)の連合国に(にえ)として(ささ)げられた。


 叔母独り分の技術力──。

 形だけでも漸く(ようやく)ひとつ(一国)を成した連合国が彼女の頭脳欲しさに()()とは言い難き世界大戦を勃発(ぼっぱつ)させても何ら違和感なき存在。


 (もっと)も軍部を粗方(あらかた)喪失(そうしつ)した連合国なぞ翼()がれた烏合(うごう)(しゅう)。戦乱招く(まねく)力はおろか、やがて消え逝く運命(定め)抗え(あらがえ)なかった。


 それ故叔母は上辺だけの技術提供を惜しみなく与えた傍ら(かたわら)、真に要求された分を隠匿(いんとく)し続けられた。


 されどお陰で()()は見事成された。これなら世界を傍若無人(ぼうじゃくぶじん)に率いるあのふざけ切った島へ仕置き果たせるというもの。


 バラタ族の無念晴らす捲土重来(けんどちょうらい)──実の処それは(てい)の良い言い訳に過ぎぬのだ。

 そもそも混ざり合い薄まった血の脈絡(みゃくらく)、有史以前の恨み辛み(うらみつらみ)をとやかく叫ぶ気なぞ最初(ハナ)から在り得ぬ。世界を背後(味方)に付ける正当化。


 ルヴァエル達の真なる目的──。

 300年前現人神(レヴァーラ神)森の女神(ファウナ神)と世界を席巻(せっけん)したにも(かか)わらず、黒い輩(マーダ)()()取られたアドノス(世界の天辺)を我が物へ取り戻す事。


『世界揺るがした連合国軍をファウナと共に潰した真の救世主が弾き(はじき)散らされた無念を晴らす。マーダ、貴様に慙愧(ざんき)の念を我が(さず)けようぞ』

挿絵(By みてみん)

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