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第28話『Repeated sad resentments(繰り返される哀しき怨嗟)』 B Part

 フォルテザ市街で行われたローダ・ファルムーンの謎めいた能力の調査。

 実施報告はフォルデノ城を根城(ねじろ)とするマーダ(ルイス)達へも報告済。


 なれど結果報告迄は結局の処、成されなかった。


亮一(りょういち)……ただの開発者(Programmer)開発(System)設計者(Engineer)に本気で盾突く(たてつく)つもりか。増長(ぞうちょう)(はなは)だしき愚か者めが」


 怒りに打ち震える白髪の老人、サイガン・ロットレン。

 嘗て(かつて)弟子として、友として自由意志を持ち得た人工知能開発を共に歩んだ最大の功労者(こうろうしゃ)土壇場(どたんば)謀る(はかる)裏切り行為。


 それを尻目(しりめ)に黒づくめのマーダ(ルイス)は苦笑を禁じ得ない。

 所詮(しょせん)似た者同士のいがみ合いにしか思えぬ。開発者と設計者、何れが欠けても何も成し得ぬただの人間に成り下がるのみ。


「まあ確かに候補者に最も近しいと(もく)される人物を独占されるのは面白くないけどね」


 やれやれといった風体(ふうてい)で首(すく)めるマーダ(ルイス)の失笑。

 双方片手落ちで夢追う本質見失った現実主義者(リアリスト)悲観主義者(ペシニスト)に落ち往く様は見るに()えない。


「だけど彼の考えも決して支持出来なくもない。僕等は誰よりも迅速(じんそく)に候補者の能力を見極めなければ世界の()()に押し(つぶ)されるんじゃないか?」


 ──世界の物量……?


 マーダ(ルイス)から発せられた呆れ(あきれ)声に黒い魔導士のローブ姿へ()()()No4の女魔導士、フォウ・クワットロが意味を解せず琥珀色(こはくいろ)の瞳と(まゆ)(ひそ)めた。


 先進都市フォルテザ、三柱(みはしら)の神々。

 何より魔導を独り占めしているアドノス(Adon・North)脅かす(おびやかす)新勢力が出現するとは想像が及ばない。


「フォウ……君はこの老人が犯した禁忌(きんき)をもう忘れたのかな?」


 フォウの意識を読心したかの如きマーダ(ルイス)から耳元での()める様な甘い囁き(ささやき)。突然背後から意識盗まれ息飲むフォウの戦慄(せんりつ)


「世界中に(くま)なくばら()いた人工知性体積んだナノマシン達。それらに身体中を()()され尽くした人間達」


「あ、嗚呼……」


 古惚け(ふるぼけ)陽に焼けた地球儀を回しながらほくそ笑むマーダ(ルイス)(かん)づいたフォウを吸血鬼(ヴァンパイア)真祖(しんそ)が如き黒いマントで(からだ)毎包み込み愉悦(ゆえつ)微笑(びしょう)(たた)えた。


 依り代(よりしろ)である人間の意識と人工知性体(ナノマシン達)融合果たし(互いを認め合い)()()の異能を取得する可能性は世界中に存在し得る。


 背筋が凍る思いに駆られたフォウ、マーダ(ルイス)眷属(けんぞく)じみた様子で我が身を預けた。


「この私が造り上げた物を好きにされるのは実に不愉快(ふゆかい)だが間違いなかろう。其れ(それ)()()()()()()が小細工した処で大気使い(ザラレノ)が刺した針で此方(こちら)にも筒抜け(つつぬけ)だからの」


 自分が()いた種を自身で刈り取らねばならぬ面倒に皺顔(しわがお)(しか)めるサイガン(おきな)

 吉野亮一から裏切られた嫌な気分を本名で呼ぶ行為を捨て去る事で表現する大人気(おとなげ)なさ。


 争いの最中、ザラレノ・ウィニゲスタがローダへ飛ばした殺し道具でない針。

 生体検査(スキャン)程ではないがあの針が刺さった者を調べる事が可能。

 寄ってザラレノは目的を完璧に()げていたのだ。


 ドンドンドンッ!!


「何じゃ? 随分(ずいぶn)(さわ)がしいのぅ……」

「いやいや、貴方が初めて此方へお見えになられた時はもっと酷かったよ」


 フォルデノ城・王の間の誇大(こだい)な両開き扉を激しく叩く音。

 如何(いか)にも不快な顔を其方(そちら)へ向けるサイガンだがマーダ(ルイス)が苦笑混じりに(たしな)めた。


「開いているよ、入りたまえ」


 またもやマーダ(ルイス)()()()

 城を守護出来ない御飾りの兵士相手に丁寧(ていねい)過ぎてフォウは正直気色悪さを感じる。昔のマーダ様なら決して在り得なかったその態度に。


「申し上げますッ! 『バラタバザル(旧インド領)』ビクトリア記念堂()にて巨大な()()を観測致しました!」


 ピクリッ。


 ──爆発?


「旧インド領……この辺りかな。確か旧イギリスのビクトリア女王に因んだ(ちなんだ)建造物。先住民バラタ族屈辱(くつじょく)の象徴。吹き飛ばすとは判り易い(やすい)宣伝(アピール)だね。死傷者数甚大(じんだい)って処かな?」


 この建造物に限らず世界中のあらゆる文明秘めた遺跡群は、連合国軍が300年前に粛清(しゅくせい)と称して葬り(ほうむり)去った。

 爆発、ありふれた攻撃手段であるにも関わらず心から慕う(したう)マーダ(ルイス)(からだ)が揺れ動いたのを認識したフォウ。知ってはならぬ心根(本心)を直感した気分。


 マーダ(ルイス)が『旧インド領』と語りながら300年以上昔の地球儀を転がし指差す。死傷者数は特段気に止まない意味を持たぬどうでも良い捨て台詞。


「そ、それが……爆破()から死者処か傷を負った者は独りとして報告を受けておりません」


 報告する兵士の面構えがまるで己自身が爆弾魔(主犯格)が如き震えを帯びた声で応答するのだ。


「ほぅ?」


 感心なかった話が拡がり往くのを聞き及び興味抱いたマーダ(ルイス)の顔。

 サイガンも途端(とたん)傾聴(けいちょう)し始める。

 兵士が伝聞(でんぶん)した『爆発()』一見無駄遣いな言葉遊びに聴こえる発言。


「それってまさか()()()()()()()()()()()()()()してないよねぇ……」


「ウグッ!?」


 胸倉(むなぐら)(つか)む者など見えぬのに不自然に吊られた(浮かんだ)兵士。彼自身が死刑囚が如き様で涙(にじ)ませながら全身揺らして狼狽(うろた)える。


 マーダ(ルイス)の問いの正否がまるで判別不能。声にならぬ叫びで『殺さないで!』と必死なのだ。

 マーダ(ルイス)体温(脈拍)感じる背中が凍結する思いで様子見つめるフォウの顔が引き攣る(つる)


 ドサッ! 拉致(らち)あかぬ兵士を諦め(あきらめ)床へ落した音響く。


「あ、ごめんごめん。別に驚かせるつもりはなかったんだよ、君が面白い事を言うからつい興奮しちゃってさ。フォウもびっくりさせて済まない」


「あ、い、いえ……」


 フォウを胸に抱いたままの姿で兵士へ冷たき笑顔を寄せるマーダ(ルイス)狂気(きょうき)

 自分の恐怖心を見抜かれた思いのフォウが僅か(わずか)に謝罪の意味で目礼(もくれい)した。


「──で、どうなんだい? そもそも僕の言っている言葉の意味、君に理解出来たかな?」


 作り笑顔を押し付け続けるマーダ(ルイス)、恐怖の絵柄(えがら)


 ガバッ!


「お、仰せの通りでございますッ! 多数の人間が炸裂(さくれつ)! 遺体は一切残らずッ!」


 いよいよ床を這う(はう)感じで土下座しながら答えた兵士。彼には一切罪は無いのだ。


「あっそ……主犯格は()()の男かな?」


 マーダ(ルイス)の想像は正解、次なる予想を兵士に問う。


「い、いえ()()()()()()ので少女でございます。然も全身機械の様な感じで……」


 次の想定は意外にも外れた。

 まるで首謀者(しゅぼうしゃ)を見知った感じで詰め寄る()()()の予想が外れ、兵士も不思議な気分に我を次第に取り戻す。


「え……? あ、いや……()の予想は忘れ報告を続けるのだ」


 話躱され(かわされ)瞬間固まるマーダの真顔、一人称『(ルイス)』から『(マーダ)』に転じた。大昔(300年)の記憶を辿りて外れた予想に独りのたまう。


小癪(こしゃく)にも堂々『バラタバザルの誇り高き民草(たみくさ)よ、今こそ立ち上がれ。森の女神(ファウナ神)さえ従えた現人神(あらひとがみ)レヴァーラの眷属(けんぞく)()()『ルヴァエル』が自由と権利を(さず)けようぞ』などと民衆を煽動(せんどう)しておりました」


 汗なのか恐怖で滲んだ涙か不明な()赤絨毯(あかじゅうたん)垂れ(たれ)流しながら報告を終えた兵士。漸く(ようやく)人心地(ひちここち)ついた様子。


 首謀者と(おぼ)しき少女の映像見せ付けられたマーダ絶句。

 己の中に()()()人の永劫回帰(えいごうかいき)に我を見失った。

挿絵(By みてみん)


 ── 第3部『Chaos Surrounding the World(世界を取り巻く混沌)』 Fin ──

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