第27話『Falling down into my mind(私の心へ堕ち往く)』 B Part
或る意味不謹慎な想いを胸にフォルテザ市街へ戻った若者達。
愛想笑いが板に付いたドゥーウェンからの歓待を受ける。相も変わらず人として何かが欠落した感じの御挨拶。
肝心要なローダ・ファルムーンを最新医療設備が整った医療機関で生体検査受けさせる予定は『帰って来たばかりですし』の一言で翌日へ延期。
「本日は皆様出発前に御泊り頂いた部屋へ戻って頂いて結構、御食事はルームサービスさせて頂きま……」
「──あ、あのッ!」
作り笑顔と押し付けめいた親切を投げ付けようとしたドゥーウェン、ルシアが必死の形相で詰め寄り発言を途中で遮る。
「ンンッ?」
何処か気持ち悪い笑顔を崩さぬまま首傾げるドゥーウェン。
「私達の部屋を別にして下さい!」
赤ら顔を上げるルシアの懇願と、俯いたまま姿勢で地面へ唾吐くローダの主張が重なり、瞬間その場の空気が凍る。ローダとルシア、相部屋はNGの強い意思表示。
──そ、そこはまだ越えないのね……。
二人の様子をちょっと意外に感じたリイナ。
後は一線を越えるだけ。二人っきりの誰にも邪魔されない部屋。これ以上ない最高の舞台を取り合えず順延するのを不思議に思えた。
「わ、判りました……私が手配致します」
恋愛沙汰に興味示さないドゥーウェンの代わりに応じたベランドナ。300年以上生きてる彼女的にも少々意外な展開に感ずる。
これからフォルテザ市街へ長期滞在する可能性が高い4名。
何を隠そう仮宿処か生活基盤のつもりで手配した部屋なのだ。よもやの別居宣言を両人から言い渡された。
──私の人間理解度は未だ足りない。
澄ました美麗な顔こそ崩さないが実の処、だいぶ落ちた気分のベランドナなのだ。
◇◇
同じ日の深夜──。
夜とは昼間に被る人の仮面を剥がす時間。今日という舞台が終幕を迎え、休息しか残されていない死んだ様な生命活動。寝酒を飲んだり、就寝を惜しみ読書や遊びに興じる時分でもある。
コンコンッ。
「──だ、誰ですか?」
「私よ、入って良いかしら?」
如何にも優等生な少女、リイナ・アルベェラータは既にバスローブに着替え、髪梳きに洗顔も済ませ後は寝るだけ。其処へ不意な客人、御姉様がドアをノックしてきた。
「ふぅ……」
普段憧れ抱く客人相手に思わず溜息、銀髪掻き上げバスローブの前を押さえながらドアへ向かう。用件は……聞かずとも凡そ想像出来た。
ガチャッ。
──うわぁ……やっぱり凄いなこの人。
「ご、ごめんなさい。連絡なしで急に来ちゃって……」
御姉様の容姿にリイナ赤面、愛し合う者同士の同じ側面を見た感覚。
廊下で自分の応対を待ってたルシアも同じバスローブ姿。恐らく他には何も着ていまい。この建物はドゥーウェンが取り仕切る敵の砦。裸同然で女性が彷徨くのは正直引いた。
此処に来る迄誰とも擦れ違わずにいられたのか?
決して口にしないがこんな無茶があの人に重なる部分を感じるのだ。
「どうぞ、何も無いですけど……」
乾き切ってない金髪、白いタオル生地のバスローブ姿な女性が少女の部屋に押し入る徘徊。誰かが目撃したら思い違いをされるやも知れぬ。
──そ、そこ座るんだ。
何の気なしにベッドへ腰を下ろす無防備過ぎる御姉様、馬鹿な気分が頭をもたげた。もやついた気分をリイナは懸命に振り払う。
「「こ、この間は……!」」
いきなり確信突いた話を互いに切り出し、重なった口を閉じる同調。その後互いの「どうぞどうぞ」な応酬。
「ハァ……」
リイナ、本日二度目の溜息。思い切って御姉様の隣へ飛び込む様に座る。驚き紅潮するルシアを他所にリイナは惚けた顔で会話の主導権を握るのだ。
「言いたい事は判ってるつもりです。彼氏が居るのにどうしてあんな大胆な真似を? いや別にローダさんを誘惑したつもりはないんですよぉ、私彼氏……違う、彼未満かな」
何時になく早口でフランクな口調のリイナに驚き、翠眼を丸くする可愛げある御姉様。
普段の妹分が取り繕っているのだと今さら知った。
「だってあんな綺麗な海、然も水着迄買って貰っちゃ(気分)上がるに決まってる。何より見せたい男が独りだけとか仕方ないじゃないっ!」
バスローブ姿でルシアにテンション高く詰め寄るリイナの主張、当然だが彼女とて危うい一枚切りで両手足をバタつかせた。
他人事で済まされない自分の百合めいた行動に気付いていない。
「はぁ……いえ、ごめんなさい。悪いのは確実に私です。新婚さんだなんて煽った癖に御姉様の邪魔するとか……」
情緒不安定過ぎるリイナの動き。ルシアに詰め寄った態度を改めベッドに座り直し、カーテンから覗くフォルテザ市街地の夜景に蒼い瞳を配らせながら恋人未満な御相手の話を勝手に始めた。
◇◇
リイナの出身地ディオルの街に住む幼馴染、同い年の男子『ロイド』
容姿はリイナ的に中の上といった処。外面は好いのだ、問題なのは中身。
リイナの家族は父ジェリドをはじめ頼り甲斐在り過ぎる人間。即ち彼女自身も相手から頼られたい衝動を多分に持つ。
そんな意味合いで測りに掛けたロイド少年は自分を頼って欲しいと感ずる愛らしい存在。
但しこういった男子は大抵、女子が欲する刻の押しが弱い側面を持ち合わせるもの。
依ってロイドから『好きだ』は承っておらず、リイナの方も余計な自尊心が行く手を遮り言い出せずにいた。
リイナがジェリドと連れ立ってエドナ村を目指す決意を彼に告げるべく家へ呼び出した夜。
出来得るものなら明日から離別確定のこの場で彼の本音を引き出し恋人未満を卒業したかった。
されどロイドはリイナと離れる哀しみに暮れるだけ。『暫く逢えないから今夜は泊まって行きなさい』ジェリドの許可さえ貰った。
死別して空き部屋と化したホーリィーンのベッドを借り受け、神の一手を向こう側から御膳立てされたロイド少年。
亡きホーリィーン叔母さんの枕を涙で濡らすばかりであと一歩の勇気が踏み出せない。
痺れ切らしたリイナ、寝たふり続けるロイドの背中へ何と自ら押し入り、涙混じりな離別の勢い任せに抱き寄せ『意気地なし』とバッサリ切って捨てたのだ。
「そ、そか……リイナも苦労してんだ。で、でもやっぱり彼のこと好きなんでしょ?」
一応恋愛経験済には違いないリイナの話を聴き、応答に悩むルシア御姉様。如何にか笑顔で話題を繋ぐ。
「好き……ですね。で、でも……まだ付き合ってない…ん……」
リイナが涙潤んだ言葉足りない声で独り落ち込む。
自分の胸に飛び込んで欲しい憂鬱──。
ルシア、未だ移ろな恋に悩む女友達が身近に居るのを知り、不心得な心と知りつ妹分を優しく膝上で受け止め頭を撫でた。




