第27話『Falling down into my mind(私の心へ堕ち往く)』 A Part
プリドール・ラオ・ロッソの可愛い英雄横取り作戦はとどのつまり失敗に終わった。
寧ろルシア・ロットレンとの絆がより深みを増したやも知れない。
何しろ生命誕生の起源と伝えられる海、互いの仲を染み入る程深め合うには、余分な物を剥ぎ取るのが不可欠な場所。成り行きとはいえ結果成し得た次第。
「──いやあ、若いって良いですねぇ……本当に羨ましい限りです」
探索用のドローンが送る映像情報をひたすら覗き込んでた学者面したドゥーウェンの棒読み台詞。
「Master? 今回の覗きは流石に感心しないのですが。──それにMasterが本音で欲しいのは海岸での恋愛模様ではなく、同じ場所に打ち捨てられてる人型兵器の部品ですよね?」
性別的に女性であるベランドナが珍しく冷たい視線をドゥーウェンへ送り届ける。水着姿な男女の成り行きを盗撮するふしだらな行為は容認出来ないのが必然。
増してや彼等と同じ成人男子でありながら実の処、そこには全く魅了されない人間性を垣間見ると、流石の彼女とて正直引くのだ。
錆びた鉄屑にしか見えぬ兵器の残骸へ送るドゥーウェンの熱い視線が女性の裸体を舐める様に眺める男性のソレと変わらないのが異端に映る。
チャリッ。金縁眼鏡の位置を人差し指で直すドゥーウェンの愉悦。
「仕方ないじゃないですか。アレを手に入れ復元出来れば、こんな僕が失われた文明の遺産を復刻させる神に等しき功績を残せるのですよ」
男女の交接で誰でも残せる子孫より、300年以前の真祖から眷属を生み落とせる自分にしかやれぬと思い込んだ仕事に魅了されたドゥーウェン。
「それに……ウカウカしてられないのですよ。異能? 魔法? そんなまやかしめいた物より着実な力を付けなきゃぁ……僕達終わっちゃいますよ?」
300年前、全世界を震撼させた挙句、人間共を絶滅危惧種へ追いやった人型兵器の力が欲しい。
それは技術者でなくとも理解し得る話。
なれど彼が小馬鹿にしている異能の類と兵器が交わってこそ成し得た地獄の沙汰なのだ。
◇◇
ラオから飛び発つセスナ搭乗時、透き通った海を見つめながらローダ青年が邪な想いに駆られていた。
──ルシア……本当に綺麗だった。それ…から……。
海中で意中の女性から胸に抱かれた現実を夢見の様にローダは感じ反芻し続ける。
あんな強引な誘いがなければ例えどれだけ自分から恋慕しようが想い重ね合う恋愛なんて成就出来やしない彼。
未だ彼はルシアに心の声が届いているのを知らぬ。
加えて彼女の自分に対する想いさえも全く以って自信がなかった。
されど今回の出来事で漸く彼女の気持ちを理解出来た……所詮他人の想いだ、完全とは言い難いが。
チラッ……。
セスナの窓に映り込んだ後部座席へリイナと座るルシアの脚組みへ目配せ。
エドナの砂浜で初めて共に戦い、偶然同じ教会に住居を構えた。
けれども総て偶然の積み重ねに過ぎず、所詮高嶺の花だと思い込んでいた。
フォルテザでは同室で寝泊りした折『一緒寝ない?』と夢の誘いを受け、海では『折角だから泳ご?』と引っ張られた挙句、向こうから抱き締められた。
奥手という以前の問題。女を心底惚れた試しがない彼。
恋愛成就──何を以って達成と判断すれば良いのか未だ判らぬ田舎貴族出身。
だが幾ら何でも俺に気が在ると思わずには要られない欲求。
──気が付けば乳房の天国へと男の視線が流れる様に走り往く──
──いやいやいやいや待て魔手ぇ、柔らか過ぎんだろッ! 反則だろぅあんなんッ!
壊れゆく元貴族な箱入り息子、恐らく悪気ない魔性のBodyに堕落する彼。
肌に残留し続ける逃れ切れない感触。決して在り得ないのに透けて見える気がしてならぬ妄想。
「ンッ? どしたの?」
女性は何故にこうも自分に注がれる意識へ過敏に成れるのか?
ガラス越しという淡いローダの目線に重なる屈託なさそな緑の瞳。
「なッ、何でもない!」
プィッ! ……首毎全力で視線外す否定。
主導権取られたと落ちる互いの気分。
思わず苦笑せざるを得ない。
ローダ・ファルムーン、彼は普段口数少ない冷静を装う人物──。
されど明らか過ぎる慌てぶりに心底満ち足りる彼女の承認欲求。
上昇した途端落ちるこのセスナの航路が如く、彼は疑いの余地なく私に恋した。彼が生き残る術は私へ着陸以外の選択肢がないと決め込む。
ニタリッ……。
──もぅ、ひと押し。必ず私の袂へローダを堕とす。躰を張った甲斐があったわ。
恋愛初体験、初めて男を好きに為った初心な筈の彼女。
長いリイナの銀髪を『相変わらず綺麗よね』と弄るフリをしながら気持は彼氏の元へ全集中。
上前跳ねたと思い込み『必ず堕とす』身勝手決めた彼女の方も実の処彼へ落ちてる恋路の自動航路に気付いてない現実。
御互い『初めまして』を意識した彼氏。初恋の相手、大方良い方向へは転ばぬ綱渡りの恋。
だから喉から手が出るほど欲する自主規制破りし既成事実。
けれど誰しも最後の一歩が踏み出せずに『甘酸っぱい』で終焉迎える恋の行末。
果たしてこの二人の恋路や如何に?
鍵──?
扉──?
そんなもの最早投げ捨てた情熱の旅路を二人は、セスナみたいに危なかっしく飛んでいた。




