第26話『Dive into my breasts!(飛び込め私の胸に!)』 B Part
プリドール・ラオ・ロッソからの勧めで海水浴に興じるローダ一行。
ローダ・ファルムーンへ深い愛情を伝えたいルシア・ロットレンの水着姿。
そこへ大人男性に憧憬抱く思春期盛りなリイナ・アルベェラータが10代の若さ弾ける水着で迫る無邪気。
何れも若気の至り的な気分が多分にある。
されど既に意中の御相手が存在するリイナに後れを取りたくないルシアの憂鬱と入り混じる決意。
グィッ。
「ローダ、折角の素敵な海よ。……い、一緒に泳がない?」
「あ、嗚呼……」
一歩抜きん出ようと勇気を絞り上擦る声でローダを引っ張る。
立ち上がりながらローダの雄々しい手に指絡ませ穏やかな波間へ連れ出す企み。
ルシア御姉様は妹分の数少ない弱点を知っている。
森の天使は泳ぎが大層不自由。森人の子供達が受けぬ水泳授業。リイナには可哀想だが海中散歩へ繰り出せば此方の独壇場。
「んっ……」
此処でさらなる仕込みの一手を惜し気なく御披露目するべくルシアが動く。
セパレートタイプの水着、深緑映えるお腹周りを隠す布地をグィッと持ち上げ態々途中で手を止めた。
「ご、ごめんローダ。あ、汗で張り付いてるのか上手く脱げないからコレ引っ張ってくれる?」
「え、ええ……」
お腹周りを完全に包み込んでた緑の布地を胸下まで引き上げた状態。
これで完璧なビキニ姿に生まれ変わるかと思いきや、括れを強調する布面積が減少したブラウン色装い新たに出現。
ゴクリッ……。ローダ青年、本日三回目の生唾。
これは妖しい破壊力。トップスのビキニ部分と茶色の括れ。然も『手伝え』と頼まれた以上、視線を逸らす訳には往かぬ。
男の意地と甲斐性を擽る見事なルシアの二段戦術。ローダの不器用ぶりを最大限活用した攻勢。
ローダ、震える手で中途に託し上げた物を開き直りで掴み、如何にか引っ張り脱がせた。波飛沫でない彼女の汗を肌で実感。
間近で揺れる豊満な胸元。男なら誰しも夢見る造形と情景。二重の誘惑が経験値僅かな青年の欲望を鷲掴み。女に興味湧かぬ若輩者でなければ絶対避けられない狙撃。
「さ、行こッ!」
「きゅ、急に走るなぁ!」
海水に足を取られながら未だ戸惑い隠せぬローダ青年を深みへ引き摺り込むルシアの狡さ。いっそ互いの脚縺れ海中へ押し倒される奇跡を望む。
結果浜辺へ置いてきぼりなリイナが次は白い頬を膨らませた。
「──ったく彼奴なんで敵に塩送ってんだ!?」
冷やしたビールを煽りながら大変綺麗な乙女の景色を遠巻きに眺める青髪の男性、ランチア・ラオ・ポルテガ。彼は事の顛末を副団長から事前に聞き及んでいた。
エドナ村から現れた可愛過ぎる20歳の英雄。
若い男子の心を少しでも自分へ繋ぎ留めたい三十路手前の恋心。けれども自分はラオ守備隊副団長、この場所を置き去りに彼等と合流する訳には往かぬ。
そこで悩める乙女達を誘う建前、海遊びイベントを思い付いた。
然しながら22歳と14歳へ自ら選び贈った水着の気合いが入れ込み過ぎだと、青い頭を抱えているのだ。
兎も角これにて恋の競争はルシア無双……そう思えた矢先。
ザブッ、ザブッ……。
波間にそびえる岩陰から赤一色の影が現れ、膝上迄浸かった艶めかし過ぎる腿を曲がりくねらせ忍び寄る悪目立ち。
ワンピースだが股上実に鋭角、貫通力抜群な矛先が如き水着。
化粧落ちしそうな海遊びとて決して手抜かりなき紅色の唇。細目を大きく見せようと努力した結実のアイライン。
日焼けを気にするフリした麦わら帽子に飾られた薔薇。加えて大きなパラソル、馬上槍代わりに握り締め、若い男へ向けいざ進軍。
普段と異なる女々しき顔色。歩き辛さとパラソルの重みを弱った様子で殊更魅せる良い女。
今更語るのも野暮だがこれらすべからず赤一色。この地を護る守備隊副団長、まさに首尾良く若い乙女じゃ出せない妖艶を、青一色の背景に存分乗せていた。
それにしてもである──。
戦場では全身鎧、押え付けたその下に爆発的な身体を隠し持っていたとは守備隊の下っ端連中すら露知らず。
ランチアだけ何故か良く見知った容姿。
『私より先立つ男は興味ないやね』
プリドールの口癖、ランチア団長とは社内恋愛済。早い話、昔の男だ。
「あ、姐御ぉッ!?」
「馬鹿ッ! 今日は其れ封印しとけッ!」
守備隊の1人が日頃じゃない副団長を指し、団長から拳固で頭を殴られた。
妖艶過ぎる姿を見つけ思わず視線固まるルシアとリイナ。自分達は本命を釣る為の疑似餌か撒き餌扱いだったのを今さら知り抜いた。
荒波立て押し寄せる赤い鯱──。
ルシアは覚悟した。自分が食い千切られる未来を。
それ程プリドールは御世辞抜きで美しいと思った。
どんな戦場でも感じなかった勝機見えぬ敗北感。
「えと……お、俺。ルシアと一緒に遊びたい」
獰猛過ぎる赤シャチへ銛を投げ込んだローダの呟き。器用な言い回しなんぞ出来ぬ男だ。
──ハァァッ!?
──え、ええッ!?
憐れ……パラソルを海へ落水したプリドール。声掛け以前のよもやな断り文句、瞬時白目に陥る。
聞き届けられた声にビールを吹いたランチア愕然、同じく白目に転じた。
隣で聴いたルシアもこれには動転。だがルシアにだけ響く続きがあるのだ。
『幾ら何でもあれはやり過ぎ……。後、リイナは可愛過ぎて釣り合わない』
──ハァンッ!?!?
決して洩れてはならぬ心の声。届いてはいけない愚直なる心根。
……愚かな男を一応擁護する。ローダ青年は思いの丈を声にしなかった分、負い目は一切感じていない。
この場で選んだ相手はあくまで本命。悪気は全く以って皆無な行為。
ザッバーンッ!!
突如海底の砂さえ巻き上げる波飛沫──。
やけっぱちなルシアが愚かな彼氏の黒い頭を掴み、共々海原へ全身を沈めた異変。解放感が成せる御業か、今日のルシアは決して折れない。
海中で相手を抱き寄せ全身に力を込めた。傍から見ればまさに溺愛。ローダの頭を自分の海へDiveさせたのだ。彼を自分へ取り込むが如き羽交い絞め。
──ごめん……。
──もぅ……馬鹿!
ローダ、彼女の寄せた好意に逆らうのを一切止め、心で謝罪の上、奔放な天国に身を委ねる。
ルシア、心でなく躰で彼の気持ちを受け容れた。




