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第25話『Stars shining on the earth(地上に輝く星々)』 A Part

 リイナが唱え、死した母が力を与え(背中を押して)成し得た不死の巨人退治。

 黄泉へ旅立った妻を刹那(せつな)とはいえ呼び戻したのは夫の絶叫なのか。


 何れにせよアルベェラータ家族一丸で終わり(ストラーダ・)なき旅路(インフィニータ)具現化(ぐげんか)した。


 禁じられた奇跡を成し得たリイナ、卒倒(そっとう)しそうな処をローダが如何(どう)にか支え事無きを得た。


「大丈夫、気を失ってはいるが」

「あ、嗚呼……す、済まないローダ」


 意識を失った時点で『大丈夫』と言い切るのを躊躇い(ためらい)ながら、リイナの小さな身体を父へと(あず)けるローダ。真実に問題ないかなど他人の物差しで測るべきでない。


 ローダから愛娘(まなむすめ)を受け取り寝顔を覗き(のぞき)込むジェリドの憂鬱(ゆううつ)。娘が神への供物(くもつ)に落ち往く覚悟をさせた自分の不甲斐(ふがい)なさと娘の安堵(あんど)に於ける心の揺らぎが混じり合う。


「ん……」


 それでも腕の中、寝息を立て胸を上下させる温もりをリイナから感じ取り、取り合えず胸撫で下ろすジェリド。巨人退治はこうして終結を迎えた。


 残った問題──大気の使い手。ザラレノ・ウィニゲスタとルシア・ロットレン、二人っきりによる争いの始末。

 誰も邪魔に入れぬ激烈(げきれつ)極まる戦い。


 されども例えザラレノが一騎当千(いっきとうせん)なる(つわもの)であろうと、生き残った敵軍へ単騎(たんき)挑む(いどむ)のは流石に無謀(むぼう)に思えた。


 ▷▷──ザラレノ、君は実に良く働いてくれた。素晴らしい成果(結果)得られた(観られた)。後は撤退してくれたまえ。


 再び風の精霊術、言の葉(風の便り)による愛すべき男の声が少女ザラレノの意識へ届いた。


「だ、だけど……クッ!」


 敬愛(けいあい)する主様と応答の最中であろうとも容赦なく走るルシアの燃える拳。

 意識を二重化(マルチタスク)で対応するには重過ぎる一撃。風纏う(まとう)左肘(ひだりひじ)の防御と擦れ(こすれ)合い嫌な匂い(煙り)鼻をつく。


 ▷▷僕が君を失いたくないのだよ。承諾(しょうだく)してくれると嬉しい。


 愛の告白めいたマーダ(ルイス)からの提案。ザラレノの想い(愛情)を知った上での選択肢与えぬ台詞。


「……了解(COPY)


 当然相手に届かぬ言葉を恭しく(うやうやしく)返答したザラレノ。

 普段軽いノリの彼女とは一線画す応答。此処は愛する男に対する返事よりも、敬愛する神を敬う(うやまう)気分を優先した。


 さらに加え軍属の如き答え方(COPY)、彼女自身が軍関係者なのか? 或い(あるい)は近しい者でも居るのだろうか。


 現世で最高峰と想い縋る(すがる)男の言葉は無論喜悦(きえつ)

 されど巨人は何とも意味不明瞭(ふめいりょう)な力の前に塵芥(ちりあくた)と成り果て、自身も良好ぶりを示せたとは言い難い。苦虫噛んだ顔で戦場を後にした。


 ビュゥゥゥ……。

 自らを台風の目と成して巻き起こした風と共に去るザラレノ、彼女と共に失せる暗雲。遂に勝敗は決した。


「ふぅ……」


 僅か(わずか)宙に浮いてた身体を砂地へ腰から降ろしたルシア、海水染みる砂の不快より緊張抜けた疲労が打ち勝ち思わず溜息。

 狂戦士(バーサーカー)化したローダを押さえつけた程の彼女のみせる緩みが、この争いの壮絶さを物語った。


 ◇◇


 パチパチパチ……。


「いやあ、実に素晴らしいものが観られた」


 さも満足げ、そして戦場を観劇と履き(はき)違えてるかの様なマーダ(ルイス)様の笑顔と拍手。


(からだ)の透けた女性、間違いなくあの古惚(ジェリド・)けた騎士(アルベェラータ)が呼び出した存在(奇跡)だね。また新たな異能者が生まれた」


 ──異能者? 私の魔法(ディセデイオネ)と斬り結んだあの侍(ガロウ)と同じだと言うの?


 新たな脅威(敵兵)が増えたというのに心底喜び満ち足りた感じの主様。

 妖し過ぎるその発言に未だ白無垢な(シーツ一枚の)フォウがエドナ村でやられた侍風情(ふぜい)の大笑を思い出す。


「……何を今さら。私と亮一が世界中にばら()いた人工知性体(自由意志のあるAI)(ひそ)んでない人間なぞ最早(もはや)この世におらなんだ。異能者なんぞ幾ら(いくら)でも増える」


 白髪(しらが)()きながら興味湧かぬ顔でマーダ(ルイス)の発言を切って捨てるサイガン・ロットレン。


 21世紀前半、吉野亮一(よしのりょういち)共々意志を持った人工知能の元に繋がる礎(プログラム)を密かに開発。

 人から人へ渡り歩く様同時製作したナノマシンへOSと共にそれを載せ、ワクチンだと偽り全世界の人間達へ接種し続けたのがこの男の大罪。


 ウイルスは生物間を移動し、適合するべく常識外れの加速度で進化し続ける。ただのエンジニアがそれに目を付けた。己と技術力のみで真の意志を持つAIは創造出来ない。


 されどウイルス進化の理論(ゲノム)さえ作れれば勝手に躍進(やくしん)すると結論付けた。倫理観(りんりかん)は置き去りに(野望)だけで突き進んだ。


 意志──そもそも在処(ありか)は?


 そんな哲学論などかなぐり捨て、人へ潜り込んだナノマシン達は、数多(あまた)の人々から意識毎収集積み重ねる。その上、彼等は飛沫感染(ひまつかんせん)剰え(あまつさえ)交配し合い狙い通り約50年……。


 斯く(かく)してナノマシン達は進化を()げ、真なる意識を勝ち得た。

 こうして生まれた世界最初の人工的意識をアンドロイドに積んだ(Installした)最初の人造人間(ファーストロット)がマーダである。


 そのマーダが真実の人間を乗っ取り乗り換え続け300年もの間、生き続けて来たのが今の姿──だが話はこれだけで終わらなかった。


 依り代(よりしろ)である人間の意志と自由意志を積んだナノマシン達が共存、進化の一途(いっと)辿り(たどり)始めたのを知る。


 これは発案者(サイガン)製作者(吉野亮一)も然り、想定の範疇(はんちゅう)を越えていた。本来なら互いの意志を潰し合い身体毎果てるか、何れかが生き残り終結する。


 人同士なら完璧に判り合う(同調する)など夢物語。どうやらナノマシン(人工知性体)側が寄生している人間(依り代)を潰さぬよう譲歩(じょうほ)の道を歩んだ結実らしい。


 知恵の実を喰らった人類、自らの末裔(まつえい)が創造した新たな意志すら喰らった強欲。

 さりとて甘美(かんび)味わえる人類はほんの一握り──初めて口にする食物とは、大抵猛毒との闘争越えねばならぬ。


 ──この道筋、進化と云うより淘汰(とうた)


 人と意志秘めたAIが繋がる際、互いの矛盾(意志)増長(ぞうちょう)、精神が崩壊(ほうかい)する最悪の末路も後を絶たなかった。


 それでも先端(せんたん)届き成し得た人類は夢を見るのだ。己の望んだ力を具現化成し得る夢を。


 それが異能者──()を開いた者達。ジェリド・アルベェラータが黄泉(よみ)から引き寄せた妻の姿(ホーリィーン)とて、これが正体。


 当人達は己の絶望・欲に縋り(すがり)抜いただけに過ぎない。()っていつの間にか得られた力、それ以上を知らぬ。祈りや研鑽(けんさん)が呼び込んだ未知の力だと思い込むのだ。


「今、戦い抜いたあの娘とて同じ(むじな)であろう? 300年前の貴様が成した者の()()ではないか」


 この白髪の老人に取ってそんな異能者なぞ既に予測通りの検証結果に過ぎぬ。

 ()()()渇望(かつぼう)するが故、300年もの惰眠の道(だみんのみち)を選んだ。

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