第24話『Beyond the Wheel of Fate(運命の輪を越えて)』 A Part
漸く巨人退治に本腰入れ始めたローダ達とラオ守備隊の面々。
旧世紀に流行った人型兵器の装甲ごと叩き斬る無類の強さを誇るジェリド・アルベェラータとプリドール・ラオ・ロッソ率いる騎兵達。
これが人型兵器全盛期の争いだと仮定するなら、生身の歩兵部隊が兵器を圧倒する異常事態。
本来内包する銃器や持ち歩く武器が無いのが巨人に取っての痛恨事?
それにしてもだ──。
暗黒神配下最高位、ヴァロウズ1番手の死霊使いの企みであるなら、ただで敗北喫するのは格好付かない? 或いは単なる実験を兼ねた遊戯に過ぎぬのか。
地上はジェリドとラオの騎兵達に寄る混成部隊。
加えて重力解放を用いたローダが、蒼白く輝いた剣術を振るい巨人の腕を墜とすべく暗雲立ち込める宙を飛び交う。
ズバッ!
「成程、相手の振り下ろしに合わせる……か。学校でも習ったが、やはり実戦だな」
相変わらず巨大過ぎる拳を振り上げ襲い掛かる巨人に対し、ジェリド達の動きを見習い逆袈裟懸けで対応を試みた騎士見習い。
右腕の肘裏を斬り裂く快進撃。さりとて侵入して来る死体の残留思念に顔を顰めた。
どれだけ装甲が強固であろうが殴る蹴る一辺倒な巨人の攻撃。そんな子供騙しに後塵を拝する愚か者など此処には居ない。
ラオの連中だけでも殺れたかも知れない。今更認識する感じ方だが、たった4人の救援部隊が恵んでくれた勇気の為せる攻勢にすぎない。
「ムッ!」
「こ、此奴斬った傷が治ってやがる!?」
自分達の攻勢で斬り崩した巨人の装甲。されど剥き出しへ転じた巨躯に刻んだ剣戟の痕が治癒してるのに気付いたジェリドとプリドールが目を見張る。
ペッ!
「やっぱ趣味悪ぃ不死の化物かよ。クソつまんねぇ奴寄越しやがって!」
不死の巨人が夜の闇を選んで遊びに来たのは闇に与する者の再生能力が格段に上がるからだと知り抜いたランチアが音が鳴るほど唾を吐き捨てた。
死に切れぬ者──如何にも御伽噺にありがちで、現実には滅多にお目に掛かれぬ『つまらないモノ』に苛立ち募る。
味方の即時敗退は在り得ない──。
されどジリ貧、何れ根負けする未来が一兵卒にさえ透けて見える絶望。
悪趣味な死霊使いが寄越した民草の肉塊を固めて拵えた巨人が与えし絶体絶命。
絶望の淵に光明の道筋拓ける者は何処?
一方、精霊術で武術を倍加させ得るルシア・ロットレンVs大気を自在に操る紺色の少女、ザラレノ・ウィニゲスタの対戦。灼熱なる女同士のせめぎ合い。
間合いを詰めたルシアの圧倒的優勢。
対するザラレノは風をバリアの様に自分の周囲に張り巡らせ攻撃を散らす。
因ってルシアが一方的に殴打してるかに見えるが、実は決め手に欠け焦るルシアの冷汗。これでは不死を相手取るのと大差ない。
宙を蹴り僅か後退するザラレノ、意外に有る胸倉から取り出したるは小銃。
パンッ、パンッ、パンッ!
火薬弾ける自動小銃三連射、実際には何故か響かぬ銃声。硝煙の匂いすら風が運ばぬ不可思議。
それでもこめかみや眉間を少女の銃撃に撃ち抜かれ即死した憐れな兵士が二人。
──え……? そ、そんなの在り得ないわ?
震撼伴う様子、普段皺のない眉間顰める精霊術士ルシア。
今回は自分の鼓膜を揺すぶられた訳でなく、撃たれた味方とて同様。其れにも拘らず寸分違わず発射された理不尽なる銃殺刑。
銃撃とは本来、風向きや空気の流れに左右されるもの。なれど不自然な直線を引いた銃弾の軌跡。
「あ、貴女もしや銃弾の進行方向だけ真空に!?」
銃を扱う者は勿論、銃の周囲さえも真空状態で発砲しようものなら機能しない。
本来、弾丸と銃身の隙間を通る空気が、潤滑の役割を果たすことで機能する。これが無ければ銃器と弾が密着して暴発の恐れがある。
けれどもザラレノが味方目掛け放った銃弾の軌跡が直進過ぎるとルシアは即座に不審を抱いた。
音が鳴る箇所と銃弾の進むべき道筋のみ真空状態を成し得たザラレノ脅威の御業。鼓膜破りによる音声強奪、実の処捨て石であった。
その為銃声が全く以って轟く事無き、堂々たる暗殺を自分達の面前でやり遂げられた無念。
返答代わりの銃弾がルシアの方にも向けられる。
されどもルシア、炎と風の精霊掛け合わせで付与した拳を用い、これを難なく弾いた。
「チィッ!」
「これ以上絶対殺らせないッ!!」
この女と自分、相性心底最底辺だと舌打つザラレノ。赤い瞳が苛立ちで殊更燃ゆる。
腸煮えくりかえる意味ではルシアの方こそ軍配が上がる。『私に任せて』と宣言したのに好き放題され落ち着き払ってなどいられやしない。
兎も角再び間合いを詰め、これ以上ザラレノの好きにさせないよう込める渾身。
それに離されては自分も危うい。一息すら赦さぬ拳と蹴りを繰り出し続けるルシアの猛攻。果たして体力を保持出来るのか?
そして恐らく死なない巨人に相対する者共の先が見えぬ失望。
知力以外天井知らずの敵相手に一体何処迄太刀打ち出来得るものか?
ひたひたと暗い敗北の足音が近寄るのを感じた。終わらぬ螺旋、果たして越えられるのか。




