第22話『Reversal like the crashing waves(打ち寄せる波の如き逆転劇)』 B Part
ヴァロウズ7番目、大気使いの少女。ザラレノ・ウィニゲスタVs精霊術の使い手、ルシア・ロットレン。
風より幅広き大気を自由気ままに操るザラレノ相手に苦戦を強いられながらも、思いがけぬ伏兵との連携により、ルシア得意の殴り合いの間合いへ持ち込めたかと思われた矢先。
身長12mの巨人が地底から競り上がり無粋な邪魔に入る展開。砂浜に巨大な落とし穴が開いたものの、誇大な罠に掛かるルシアは風の精霊術にて空を飛んでる故、意味を為さなかった。
「おおっ、これが旧世紀の遺産! 実にCoolじゃないですか!」
ラオに於ける争いを軽飛行機に仕込んだ虫型のドローン中継で観戦する気楽過ぎる金髪金縁眼鏡の学者。
己の主人が仕込んだ巨人はおろか、ルシアやザラレノの戦う様より、巨人が着込んだ人型兵器の残骸に歓喜した不謹慎極まるドゥーウェンなのだ。
アニメか特撮物でも観る気軽さで巨大モニター越し、300年前に全世界を震撼させた軍の正式採用機だった成れの果てに最早釘付け。
21世紀から冷凍催眠を用い、未来へ転生し過ぎた彼にしてみれば少年時代、夢に描いた存在が現実を帯びた奇跡。
候補者達の観測は録画に一任する適当振り。実際情報と化すなら機械任せの方が手っ取り早い。
さらに同じ映像をマーダ様へ垂れ流す究極なる二重の背信。甚だしき二枚舌。
「何とかPartsの欠片だけでも持ち帰って欲しいものです!」
巨人が鎧の代替品にしている物を解析したい衝動に駆られて仕方がない絵面。実際手に入れようものなら復元する気満々の様子なのだ。
◇◇
ラオ守備隊──。
ザラレノからの不意打ちにより、一度は壊乱しかけたがその名に違わぬ動きを徐々に見せ始めた。
騎馬を惜しげなく捨て、裏に隠れる者。
中には風向きを読み、敵の風下に出来得る限り立たないよう、位置取りをこまめに変える知恵者もいた。
後はエドナ村から来た金髪の女傑が抑え込んでくれる。自分達はあくまで巨人相手に専念すれば良い。
一聞酷い話に思えるが、余計な命を散らさぬ合理的な選択肢と言えよう。
ザラレノVsルシア、女同士、異能者同士の間に無理して割って入れば、かえって足を引っ張りかねない。
スッー。
ローダ・ファルムーンが学者より受け取ったセラミック製の片手剣を鞘より引き抜く。
加えて彼も周囲に凄まじき風を防御の為に巻き起こす。
この様子を赤い瞳に捉えたザラレノが思わず「チィッ」と舌打ち。自力で風の守りをやり抜ける存在が二人も居るとは聞き及んでいなかった。
──それにしてもこの金髪女、邪魔でしかない!
巨人が空けた大穴を軽々飛び越え、間合いを詰めて来た女の一挙手一投足。相手自身が精霊を体現したかのような人間離れな動きに思えたザラレノ、憤りに我を見失い掛けた。
されどザラレノとて押されるばかりではない。
ルシアの目前、超極地な豪雨を降らせ怯んだ処へ豪雨を氷柱に転化する対抗手段を容易くやり遂げるのだ。
──大気の使い手が雨雲を呼ぶのはまだ判るよ。だけど雨水を氷に変えるのはちょっと酷くない?
4大精霊を自在に出来るルシア的に承服しかねるザラレノの行き過ぎた能力。思わず心中で苦言を呈する。
──ンンッ? 待ってぇ……良く見れば中々可愛い顔してるじゃないかあの男。
そんな怒りを感じるルシアと対人戦しながら、黒髪で蒼白い剣を振るう男へ現を抜かす心のゆとりが未だ在るザラレノ。
──そうかあの男が黒騎士様から聞いた候補者。じゃあ此奴が鍵の女!
ザラレノ・ウィニゲスタ満15歳、大人男性をお気に召す背伸びしたいお年頃。
故に黒騎士様は大のお気に入り。
だが近頃4番目の悪い虫が寄り付いた話を聴き『あんな婆の何処が好いのさ!?』実は大層御立腹気味である。
それに若さ故の移り気と承認欲求を満たしたい想いは人一倍。
だから戦場に於いても化粧と最低限の御洒落を怠らず、好い男へ目を付ける。
誰より寡黙で不器用な騎士見習いは、ザラレノ嬢の御眼鏡に適ったらしい。寄って目前の金髪武闘派はいよいよ障害甚だしき存在に思えてきた。
まさか敵方の女性から好意の視線を向けられてるなど思いも寄らぬローダが重力解放を有りっ丈に解放しながら空へ舞い上がる。
身長12mある巨人の上から蒼白い剣を叩き込む勇猛果敢。巨人の纏う鎧の材質など判らずとも関係ない。
邪魔な羽虫を払うべく巨人が出した左手親指を難なく斬り裂いた。
これにはザラレノでなくとも敵味方超越した力の在り様を示すに充分な戦果。
「ウグッ!?」
なれど会心を繰り出した青年の顔が苦悶に歪む。この間斬った闇の住民を遥かに凌ぐ嫌な手応え。一閃だけで無慈悲な大量虐殺を仕出かした罪悪感に包まれた。
──あの巨人の正体……まさか!?
冷たいセラミック製の剣から伝達して来た罪なき人々の慟哭と悲痛な叫び。
『あんな巨人がどうやって人知れずラオの市街地へ姿を現したのか?』
ローダはただの一振りでその謎を思いがけぬ形で解き明かしてしまった。到底許し難い行為、心穏やかで優しき青年が、胸が張り裂けんばかりに激昂するのだ。




