第22話『Reversal like the crashing waves(打ち寄せる波の如き逆転劇)』 A Part
ラオを日暮れ以降に襲撃する巨人相手を想定していたローダ一行とラオ守備隊。
よもや昼間を暗雲で覆い尽くし夜の暗がりへ転化させた上、聴覚を奪ったばかりか守備隊の命すら散らした蒼きツインテールの少女、ザラレノ・ウィニゲスタ。
生存者達が味方の死へ哀悼の意を与える余裕さえ奪う不条理。
耳を押え苦悶の表情で蹲る者、中には耳から血を垂れ流す輩も。
然も地震が如く振動続ける地上。三半規管を同時にやられ、起き上がるのさえままならぬ。
「あ、貴女風使い……。風で皆の鼓膜を無理矢理振動させた」
ルシア、咄嗟の判断で耳押えて自らが送り込んだ風の精霊を反響させ、たった独り難を逃れた。
かなり無理した荒療治。新手が送り込んだ風と外耳に於いて争えば耳の痛みから逃れられない自衛手段。
「へぇ……アンタ風見える人なんだぁ。見た感じ耳長じゃなさそうだけど」
耳を押えた金髪の女へ、赤く緩んだ視線を向けたザラレノ。
腰回りのライン流れる長いパンツのポケットへ両手を収めた姿、勝負仕掛ける緊張感は微塵も受けない。
▷▷リイナッ! 近場の誰でも良いから生命之泉で耳治してあげて!
ザラレノに気取れる覚悟で風の精霊術、言の葉をルシアがリイナに飛ばす。
言の葉は伝えたい相手の脳へ術者の意志を直に届ける。故に聴覚を狂わせられたリイナ相手に意志を伝えられる唯一の手段。
「え、戦の女神よ、この者にどうか貴女様の御慈悲を。湧き出よ──『生命之泉』」
自分の声が不明瞭な状態で正確無比な詠唱を遂げるは難儀と言えよう。それでもリイナ、必死に如何にかやり遂げた。近場の相手がローダであった偶然。
「うぅ……耳が治った?」
「か、風の精霊達よ。リイナの周囲を護って御願い!」
状況が飲み込めぬローダが頭を振りながらゆるりと立ち上がる。
回復出来たのがローダであった事実にルシアは運が向いて来たと見極めた。
嘗て暴走したローダはルシアと争った際、彼女と同等の風を起こした試しがある。
ルシアとの争いの最中、ローダは風の使い手としての素養を少なからず見出したのだと決めつけた。
寄って彼に風の護りは不要。唯一の回復役、リイナの守備固めを最優先だと咄嗟に判断した。
「ふぅん……少しはやれそうじゃないか。アンタも」
敵の風使い、ルシア主導の巻き返しに於ける手際の良さに少し驚いた様子のザラレノ。さりとて敵の行動を黙認してる辺り、未だ平然を保っている模様。
「あの人達の死因は恐らく貴女が風に運ばせた針。隙間に刺せば防具も意味成さないって処かしら? 可愛い顔なのに恐ろしいやり口よね」
顔振りながら如何にかザラレノの聴覚封印から復帰出来た様子のルシア。今度はラオ守備隊が暗殺された奇術の種を暴露した。
「御名答、だけど風の仕込みはそんだけじゃないからさぁ」
相も変わらず争いの構えらしい態度を取らないザラレノ余裕の言い草。
ビュゥゥゥッ!!
「へぇ……面白いお姉ちゃんだ。僕とサシでやる気かい?」
「──舐めてると痛い目見るよ御嬢ちゃん」
ルシアがザラレノに砂嵐をぶつける牽制。風量で使い手の実力差に於けるハッタリを見せた。
肌をべとつかせた潮風を言われた通り舐めるザラレノ。あからさまに引いた桜色の唇。戦場へ気軽を持ち込んだ風体。
年増の女を煽るザラレノのしたり顔。
対して真っ向勝負を挑むルシアは、険しい視線で睨み付ける。加えて彼女特有なる猫の目の様な瞳孔を暗がりの最中大きく開いた。
「か、彼女は風使いじゃなくて大気使いです!」
苦心しながら敵の鼓膜封じより如何にか逃れたリイナ。苦さ溢れる蒼い目線を同世代へ送る。
昼間を夜に転じた暗雲を呼び込んだ相手だ、風だけで終わる道理がない必然を案じた。
──ウィニゲスタ……何処かで聞いた覚えが。
リイナは14歳とは思えぬ博識な自分の頭を機能させる。出身地のみならず世界の歴史に明るい彼女。
「問題ない、ルシアが扱うのは風だけじゃないんだ。俺達は地震の相手……!」
ズバーンッ!!
「クッ!?」
未知なる敵と相対するルシアについて真顔で語ろうとしたローダを止めた頼れる味方の反撃。ザラレノの足元で爆発物が弾けた様な破裂音。
ルシアとザラレノの距離。
試合巧者なルシアの仕掛。普段通り風の精霊術に頼り切り縮地を繰り出す悪手は講じぬ。
ルシアは囁き声で風の精霊術に寄る詠唱を繰り出していた。
例え周囲の騒めきがあろうともザラレノの聴覚を誤魔化せやしない。
それは相手を惑わす嘘の詠唱。代わりに飛び込んだのは投擲とは思えぬほど直進した蒼い槍。
「へッ! 俺様の前で距離を取るとか見え透いてるぜ嬢ちゃんッ!」
真実に仕掛けたるはランチア団長の類稀なる投槍。
ザラレノは足元に火薬を忍ばせていた。
初見な女同士のやり取りに於ける面白味をランチア・ラオ・ポルテガは青く迷いのない瞳で決して見逃さなかった。
ルシアから事前打合せを受けたが如きランチアの嗅覚。本来在り得ない連携が華開く。
「ハァッ!!」
間髪入れず本命が右脚を出し、見えぬ翼を用い敵の根元へ滑り込む。またしても砂を飛び散らせザラレノに浴びせ掛ける不快を絡めた反撃。
ザバァッ!!
「えッ!? な、何ぃ!」
「こんな展開ッ! 僕の楽な仕事を邪魔したなッ!」
驚天動地、両者驚きに次ぐ衝撃。今度はルシア側が緑の瞳を仰天せざるを得ない番。
旧世紀時代の最先端を着込んだ巨人。砂地に潜んだ震源地の元凶がルシアの征く手を阻んだ。
されどザラレノとて着飾った唇を噛む愚策。本来なら数に勝る敵を7番目が引き付けた後、地中深く落とす役目を担わせる腹積もりであったのだ。




