第21話『The blue girl who brought the wind(風を連れて来た蒼き少女)』 B Part
エドナ村から増援として来たローダ・ファルムーン一行を出迎えるラオ守備隊の騎兵達。
海上へ着水した軽飛行機からローダ達を降ろすべく、迎えの小舟を向けるよう命じたプリドール副団長。
「女性優先だ。先ずこの二人を先に頼む。リイナ、それからルシア。君達から先に往け」
野太い声でラオの連中へ真っ先に挨拶したジェリド・アルベェラータが、実娘と金髪の女傑を先に降ろすよう手配する。流石は元・王国聖騎士団の出身、騎士としての礼節を弁えていた。
「あ、は、はい!」
「有難うお父さん」
飛行機の奥でのんびり構えていたリイナ・アルベェラータとルシア・ロットレンの御両人。
慣れないシートベルトを慌てて外し、狭く揺れる機内を慎重に歩み、出迎えの小舟へ脚を伸ばした。
ゴッ! ゴゴゴゴォォ!
「う、うわぁっ!?」
「な、何この揺れ──まさか地震?」
手漕ぎの小舟へ乗り移ろうとした矢先、地響きと激しき縦揺れに襲われ慌てふためく二人の乙女。
リイナは危うく海へ落水しそうな処をラオの兵士に抱えられ如何にか事無きを得た。成り行き任せとはいえ、見知らぬ男に抱えられ長い銀髪を垂らしたリイナ、僅かに剥れた。
ギュゥッ!
「──っ!?」
「大丈夫か?」
ルシアは軽飛行機の出口で異質な揺れに気を奪われた最中、背後から腰辺りを片腕で掴まれる。落水するほど狼狽えてはいなかった処へ伸びた男の腕。
これは語る迄もなくお節介焼きな騎士見習い礼節誤りの形。
地震の揺れより慕情を寄せる男の腕と親密な態度にルシアの心度より激しさを増す。
──わ、私もローダさんの方が……。ンンッ!? 私一体何を?
過剰なれども女の子が夢見る甲斐性秘めた男性からの行動。
ルシア御姉様との触れ合いを小舟の上から見つめたリイナ。自分の抱いた感情に酷く慌てた。
「あ、ありがと……」
緊急時にも拘わらずローダの助けと背中から迫る密着具合に気を取られるルシア。
恥しさに戸惑い素直な御礼を返せない、ポツリッと言い表すだけに留まった。
──こ、腰のソレ。も、大丈夫だから離して欲しいんだけど……。
「──『重力解放』」
「きゃあぁぁッ!?」
王子様の自覚など在り得ぬローダの過度なる動き。あろうことかそのままルシアの腰回りを捉えたままの姿勢で機内を飛び出した。
ダラリッとくの字に折れ曲がるルシアだが、無駄に暴れては海へ落ちる故、何も出来ず白波へ視線を落とし続けるだけ。萌え袖気味の軽装が危うく捲れそうになる。
重力解放を用い海上をホバリングの様に走り抜け海岸まで辿り着いたローダと半ば無理矢理連れて来られた形のルシア。
あっけに取られた周囲を他所に未だ揺れる砂浜の上にルシアをそっと降ろすローダの真顔。
──キッ!
「──?」
往き過ぎた相手を緑の瞳で制しようと仕掛けたルシア。
言いたげな視線が絡めたものの御相手は真顔を全く変えない故、ルシアは最早考えるのを諦めた。
「そ、それにしてもこの振動は一体?」
ルシア、地震の類かと一度はタカを括り、なれどそれにしては揺れてる範囲が余りにも狭過ぎると再考。それでも緑の瞳に映らぬ敵意迄は悟れなかった。
さらに酷く揺れる小舟でリイナも岸辺へ辿り着く。波間と地震の狭間に揺すぶられ、地上へ着いても眩暈がするのを抑え切れない。
結局独りセスナに置いてきぼりな偉丈夫は、小舟を待ち切れず、透明度高い海へ飛び込む。重装備を引き摺りながら、なりふり構わず上陸を果たした。
ヒュウゥゥ……。
──風!?
極僅かな空気の異変。風の精霊術に長けたルシアのみ肌で感じ取る。
他の者共は揺れ動く砂浜だけに気を取られ続けた。それ程乏しき変化。
されど軽飛行機の航行に差し替えなかった青空が、自然の力量を遥かに凌駕する勢いで漆黒の雲に突如覆われて往く。
「ぐぅっ!?」
「な、何だ耳が痛い? 何も聞こえん!」
地震・加えて夜を呼び込んだかの暗雲に意識が向いた味方総てが次に戦慄走る違和感。
味方同士、動転する声がまるで耳に入らぬ異常。声に寄る伝令が突然封じられた。この場に居合わす全員が聴覚を強奪されては、身振り手振りに切り替える余裕など在る訳がない。
バタッ! バタバタッ!
「な、何だ? おぃっ、しっかりしろっ!」
次はラオ守備隊の騎士3名が砂地に屈して動かなくなる事態。ジェリドがそんな独りへ緊張の面持ちで駆け寄り無駄を感じながらも抱え上げ声を掛けた。
やはり息がないラオの騎士。されど死因になりそうな傷跡など全く以って見受けられない。
まさに急転直下、陽光を怖がるだけの巨人もどき退治。
然も陽が暮れてからの戦いだと決め込んでた民衆軍。
ザッザッザッ……。
長いツインテールを風に流す紺色の髪。
空の雲に近い程、黒に近しい紺のパーカーを纏っている背丈の低い女性。リイナと同じ位か。
暗闇に沈んだ岸辺に映える鋭き赤い瞳と同色のリボン。可愛らしさが逆に恐怖を煽る。
この混乱を招いた元凶らしき人物がただ独り、然も武器も持たずに砂地を悠々闊歩しながら現れた。
「ヴァロウズ7番目『ザラレノ・ウィニゲスタ』……。風を制すれば戦場を征す。どうせ届いてないでしょうけど」
この震撼を独りで創造した幼き少女がさも味気ない様子。蒼い髪を弄りながら笑みのひとつも浮かべぬ地獄を連れ添う。




