第20話『Too easy voyage(手軽過ぎた旅路)』 B Part
『The candidates took off for Rao.』
「御覧よ、君の弟子がくれた玩具から密告が届いた。弟子共々小賢しい人達だ。これで忠誠を誓ったとは片腹痛いね」
マーダがドゥーウェンから届いた伝言の映る画面を此方側へ寝返り打つ動きを見せたサイガン・ロットレンに肩竦めながら見せびらかす。
短い伝言の裏側には『候補者と鍵が惜しいなら辺境の漁村など見切りをつけ、此方に注力すべきです』何とも身勝手なる煽動が込められている。
「亮一!? まさか向こう側へ付くつもりか?」
暗黒神が見せたスマホに目を見張るサイガン翁。
ドゥーウェンの本名、『吉野亮一』金髪に染め上げた彼は旧日本出身の天才プログラマー、サイガンの右腕であった男だ。
「それはまだ判らないな。大方都合良い方を選んでる……そんな処じゃないのかい?」
冷笑を湛えた顔を、驚いた老人へ向けるマーダ。
己の公式で事足りると思考を止める輩を嘲笑う。
弟子が道を違えた現状を見せられてなお、汚名と感じぬ愚者だと改めて知った。
◇◇
ヴァロウズNo2、敵方の2番目から与えられたセスナに乗り込んだローダ一行。
こうして彼等に取って飛行機初搭乗の幕が上がる。
ルシア・ロットレンは風の精霊術。
ローダ・ファルムーンでさえマーダから勝手に奪った重力解放で飛べるとはいえ、流石に数十km単位で用いれば、辿り着くだけで魔力を消費し尽くす恐れがある。
敵の掌で転がされてる感が未だ拭えぬものの、利害一致で抗えないのだ。
「ぐっ!」
「こ、これが魔法に頼ってない物の動きだと言うの?」
AI頼みの軽飛行機が離陸すべく滑走路を走る。椅子に身体を押し付けられた違和感と、浮かび上がった際に生じる異様な感覚。
思わず驚愕の声を上げるローダとルシア。
旧世紀の文明しか知らぬ者達ならば、彼等の語る『魔法』で宙を駆ける二人の方が余程異端と言える。
兎も角ローダ達一行を乗せたセスナが上昇し始めた。
小さな窓の外に映る白き雲海の中を航行する景色を見たリイナが「うわぁ、す、凄い! 凄いです!」感嘆しながら外を少女の指先で指す。
「る、ルシア御姉様も本気で飛べば……」
「ま、まさか無理だよ。そうねぇ……昨夜泊まったビルの精々半分位ってとこかしら?」
憧れの御姉様に空飛ぶ感覚を伺ってみるリイナ。
謙遜し片手を振りながらルシアは気軽に応えた。
──それだって充分凄いのに……。リイナの思いだ。
ガクンッ──上方に向かった視線が明らかに下方へ傾く。
意識の先が強制的に動かされ気持ち悪さを感じる一行。
「高さだけじゃない。飛ぶ速度が尋常じゃないよコレ……。人間が生身でやったら五体満足じゃ済まないかも」
僅かに険しい表情へ移り変わり続けるルシア。機械仕掛けの速度に舌巻く思いだ。
「え……そ、それってもぅ?」
当然過ぎる、隣街へ往くだけに時速200Km近い速度域で向かうなど大袈裟過ぎる。
この軽飛行機、雲海の上で上昇し切ってないまま、着陸態勢へ移行し始めた。
優雅な空旅はおろか、テスト飛行にさえもの足りない時間。
「い、忙しいものだなこれは。それに落とされる感覚、正直気分良いものではない」
「嗚呼……が、仕方ない」
軽量な飛行機の着陸態勢とは何とも虚弱な感覚が付き纏うもの。増してや初飛行なら猶更。
ジェリドが己の巨躯を座席に押し付け、さも嫌気の差す態度。
候補者の青年とて同様な筈。それにも関わらずまるで想像通りな発言を真顔で告げた。
「お、おぃッ! 何だあのドデカい鳥みてぇのはッ!」
地上からその様子を見つけたラオ守備隊団長、ランチアが無謀にも投槍を身構え狼狽え大声を上げた。
「団長、アレは味方……の筈だ」
副団長、赤一色のプリドールがその動作を制した。
この二人、御帰り頂いた巨人について語っていた真っ最中。『あんな馬鹿が誰にも気づかれず突然顔を出したのが意味判らん』今さらにも程がある疑問。
そんな空気を読まない巨大鳥が海上の雲を切り裂き降下して来るのを見上げる。
プリドールは、エドナ村から救援が来る。説明不足にも程ある断片を聞き及んでいた。さりとて奇抜な様子に驚き、情報の自信を失い掛けた。
バサーーンッ!!
「ぐっ!」
「きゃあっ!」
波飛沫を大量に撒き上げ、ラオの海上へ着水したセスナ。『着陸動作もAI任せ』とドゥーウェンから聞き及んでた彼等。
想定外の出来事に『話が違う』と文句を垂れたいが、人工知能が勝手に割り出した結果だ。言った処で如何にもならぬ。
空の航行が一変、海上を駆ける船に転じた。そのまま海を走り、浅瀬で自然に停止。ラオ守備隊の連中が腫物に触れる感じで緩やかに近寄り囲った。
ローダ一行を含め、未だ彼等は知らぬのだ。間もなく襲来する想定外の恐怖に。




