第19話『Fate of conflicting love(葛藤する恋の行方)』 A Part
ヴァロウズNo2の学者ドゥーウェンを主人と慕うベランドナが描いた術式、生物召喚の力を借り、まさしく光の速さで世界の首都フォルテザに辿り着いたローダ一行。
森の女神の力と最先端を独占した場所の共演に言葉が出ない面々。
「改めてようこそフォルテザへ。何ともおこがましい発言で恐縮ですが、現在この街を預かるドゥーウェンです。以後お見知りおきを」
黒い紳士服姿で恭しく頭を下げるドゥーウェンとベランドナの両人。
あくまで今だけ此処を治める仮の市長が自覚する『おこがましい発言』
アドノス島──たった300余年の間に三柱もの神を輩出した一線を越えた聖地。神話の時代とは比較にならぬ現実観帯びた神々。
世界中の不可思議を覆い尽くし、酸素と水を分け与える森を世界の理と定義して『護りの女神』を自ら名乗った魔女──ファウナ・デル・フォレスタ。
黒き竜を従え闇だらけな峡谷の大地を導こうとした暗黒神、ヴァイロ・カノン・アルベェリア。現在は身体毎、マーダに意識を支配された存在。
その暗黒神と相反する白い女竜騎士。『この世に竜を従えた神は二人も要らぬ』と暗黒神に神竜同士の戦争を仕掛けた戦を司る女神、エディウス・ディオ・ビアンコ。
技術力以外にも全世界を圧倒し得る危う過ぎる境界点に君臨する神の島。
畏敬の対象?
それほど世界は甘っちょろいものではない。出過ぎた杭は討たれるが道理。
例え国力が足りなくとも狙い澄ました視線は数知れず。300年前、自滅した世界とて手ぐすね引くのが必然。
故に首都フォルテザを護りし者、世界を混沌へ堕とし込ぬ為の責務が在るのだ。
タンッ……。
「──早速今からラオに往くのか?」
丁重な挨拶を全く返さないローダの素っ気ない態度。その癖、設置されてたグランドピアノの鍵盤を何気に叩く。
「いえ……現在夕方。間もなく陽が落ちます。明朝皆様方を科学の力……と言うには余りに大袈裟ですが送り届けて差し上げましょう。機体の整備も必要なのです」
あくまで友好的な笑顔を絶やさぬドゥーウェンの返答。文明に疎い者達を惑わす機体という不可思議な響き。
「そうか……貴方の言うがまま、従うしかないのか」
一貫して攻撃的に思えるローダの言葉だが実の処、淡々と現状を語っているだけに過ぎない。他意などないのだ。
「皆様には今宵の部屋を御用意致しました。私が御案内させて頂きます」
きめ細やかなもてなし込めた声でこの世の者とは思えぬ美貌を持ち得たハイエルフが金色の頭を垂れる贅沢。
リイナは陶酔が失神へ転化しそうな気分を抑えるのがやっとの思いに駆られた。
「ローダさん、貴方ピアノを嗜んでおられるのですか? 或いは歌とか?」
先程の何気ない仕草をドゥーウェンが拾い、寡黙な若者へ探りを入れる。
「いや……歌も楽器も全然出来ない。俺は人に取り入る為、少々踊りを仕込まれただけだ」
──踊るの? 彼が?
冷たくあしらうのみに留まる揺るぎないローダの態度。
されど思わぬ言葉を聞いたルシアの琴線を揺らすのに充分過ぎた。
「ほぅ……それはまた面白い。ラオの一件が片付いたら是非」
「……」
作り笑いで見送るドゥーウェン。
ローダは真顔でそれ以上、話を拡げようとはしなかった。
その後、ベランドナに導かれ各々の部屋へ移動するローダ一行。珍事件が待ち受けていた。
◇◇
「ええっと……これってまさか」
「はい、ローダ様とルシア様。御両人にと仰せつかった部屋でございます。どうぞごゆるりと」
バタンッ──。
有無言わさず立ち去ってしまったベランドナの心遣い。
間仕切りすらない一部屋に残され呆然と佇むローダとルシア。ダブルサイズのベッドがさも当然の如く愛ある二人を出迎えるべく鎮座していた。
これは後で知り得た話。
候補者と鍵の女性、既に恋仲の客人だと思い込まれていたのだ。何せ鍵が認めた相手と認知してる故、聞くまでもない必然の流れ扱いなのだ。
「ど、どどどうしよぅ、この状況……」
真っ赤に染めた顔を両手で覆いながら部屋中を無駄に幾度も見渡すルシアの視線。
どう足掻いた処で片想いの青年と一夜を共にする以外有り得ない。此処はそうした部屋だ。
「ふぅ……仕方ない。俺は床で寝る、一晩くらいどうってことない」
ローダ、あろうことか落ち着き払うと旅装用の装備を脱ぎハンガーに掛け始めた。
恐らく他の部屋にも用意されているであろう風呂で普段通り汗を流す様な仕草。
グィッ。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 貴方この状況何とも思わないの! 私の事なんかどうでも良いって訳ぇ!」
流石腹に据えかねたルシアがローダの手首をギュッと掴む。赤らめた頬を膨らませ『私、女なのよ!』と猛抗議。これは教会での同居とは意味が異なり過ぎる。
「そ、そんな訳ない。ただ……」
「──!?」
──ただ……何よ?
ルシアに問い詰められ、顔背け言い淀むローダ。
続きが聴きたいルシア、握り締めた手首の鼓動が殊更強めに感じられた。
「し、仕方ないじゃないか。今さら部屋を変えてくれと頼んでも返って怪しまれるだけ……だ」
『お、俺はいっそこの機会を……』
──え? えええ……?
正論じみた台詞を吐くローダと、どうやら本音らしい心根が同時に伝わり困惑するルシアであった。
──いっそこの機会を!?
男性との恋愛経験ゼロ。
そんなルシアですら『この機会を……』の後に続く言葉位、流石に聞く迄もない。
ローダとて心の奥底で意識していた。それにも拘らず知れ顔で『部屋が一緒くらいで今さら騒ぐな』と嘯いてる次第。
シャーッ!
ルシアが眉を吊り上げたまま、これより陽が落ち美しい夜景を一望出来る窓のカーテンを何とも言い難い気分を込めて力強く敢えて閉じた。
外界とこの場を切りたい乙女心の恥じらいなのだ。




