第18話『Glimpse of civilization(文明の片鱗)』 B Part
アドノス島東端、ラオを闇に紛れて襲う巨大な人影。
立ち向かうは守りに特化した槍専門の騎兵部隊。
ラオ守備隊団長自ら投げた投擲が夜空に眩い光を放つ。
手を翳し閃光弾の輝きを嫌がる巨人の如き化物。
初戦は大層手を焼いた相手。
巨人を包む謎の装甲相手に投槍はおろか、騎馬と馬上槍による突貫さえすべからず弾かれた。
されど夜明けと同時、巨人は逃ぐるが如く夜と共に消え失せた。
『此奴、ひょっとして太陽の元じゃ活動出来ない?』
人間観測が好物で、相手の酸いも甘いも見透かし欺く手法を好んで用いるランチア団長。傍迷惑過ぎる御客の有効な対応に即勘づいた。
それは朝陽の代替にあたる強烈な光を見せ付けること。
例え子供であっても太陽と花火の見分けくらい付くのが道理。
ランチア曰く『あの武装だけは昔の兵器みてぇでエモいんだよなァ』と言わしめた強固な武装を用い、殴る・蹴る・踏むしか能の無い敵。
本能任せな夜行性の動物に対するが如く成る丈多大な光を見せ付け、人の住まぬ海へ誘き出し、真実の朝まであしらえば済むと決め込んだ。
これなら閃光弾を放つ砲台設置も不必要。依って閃光弾を投槍に結び、3個小隊を総動員して打ち上げ続けた。
されど朝まで御付き合いするには荷が重過ぎた。何しろ身長12m相手の気を引く高度迄、投擲し続けるには並大抵の体力では到底持たない。また火薬も真っ先に底を尽く。
そこで沖には漁火を煌々と焚いた漁船での待ち受けさえも作戦に組み入れた。
浜から投げ込まれる閃光弾との共演。
二重の太陽が昇ると巨人に感じさせれば朝を待たずして逃走すると結論付け、予測通りに事は運んだ。
かくしてラオ守備隊、まんまと人型兵器染みた化物を殆ど無傷で無力化し続けた。
◇◇
再び漁村エドナ、ローダ自部屋でのやり取り──。
『それではラオに送り届けたい方を一箇所に集めて下さい』
スマートフォン越しの立体映像な小人に呼び掛けられ、リイナとジェリドが招集に応じた。
「ガロウ、お前は往かないのか?」
普段から血の気の多いガロウが気乗りしない態度を感じ取ったジェリドの質問。
「おいはこん村ば護る民衆軍ん棟梁やっど。やっで抜けたらやっせん。そいにじゃ、ラオん連中ば無傷でおるなら大したこつなかど」
相手は知能が少ないと思しき巨人、ガロウ・チュウマ一撃必殺の剣は大いに期待出来る。
されどエドナ村を護ると自身に課した忠義に従うと彼は決意、理屈じゃないのだ。
マーダがエドナ村を攻めない理由──。
ドゥーウェンは、賢さに頼りがちな判断で以下の様に結論付けた。
『マーダ様には私の方から候補者と鍵の女、何れもラオの巨人討伐に出掛けたと馬鹿正直に報告します。今やあの御方のご興味はローダさんとルシアさん。留守の村など放置されるかと』
一理ある考察。だが世の中絶対なんて有り得ない。寄って守りの要石を残しておくのも理に適っていた。
──愚かな巨人……それだけなら良いんだが。
「確かに此方の護りも不可欠だろう。ガロウさえ居れば安心だ、巨人退治は俺達だけで充分だ」
ローダが緩んだ顔で思いと微妙に違えた台詞で締め括る。『ガロウさえ居れば』無愛想な青年が、いつの間にやら先輩を立てる手際を覚えた。
サクッ──。
『では皆様、出来得る限り近くにお集まり下さいませ。これより生物召喚の術式を私が行使します』
不意にベランドナが真顔のまま、雪の如き右手首をナイフで切った。
映像越しでも驚きが伝わるエドナ側の連中を他所に、血染めの魔法陣を床の上に描いた。
「──『生物召喚』」
エドナ側の人間達が光の礫に形変え、瞬く間に消え失せる。
同刻、立体映像側にやはり光が渦巻きながら出現し、集合すると4人の姿を成した。
生物召喚──。
生命を魂の輝きと定義しそれらが彷徨う事の無きよう、術者の血で描いた魔法陣へと誘う森の女神奇跡の御業。
森人最高峰に君臨するハイエルフ。ファウナでさえ、嘗て耳長族から耳学問で魔法の基礎を学んだ。
ベランドナは森の女神と契約したまさに生え抜き。
映像から本物に変わったベランドナを目前にしたリイナの幼さ残る顔が、まるで女神そのものを拝んだかの様に歓喜で紅潮した。
「こ、此処がフォルテザ……」
正確に語ればこの場所はフォルテザ中、最高の頂きを誇るビルの只中。
ルシアは眼下に広がる最先端の街並みに息を飲む。まだ夕刻だというのに地上を動く不自然な発光。彼女は精霊を尊ぶ、明らかに精霊達の息遣いを感じぬ夥しき輝きの群れ。
「え、エドナにも灯りは在ったが比較にならんな」
地元で灯りと言えば燈火や蝋燭の類が馴染な最年長ジェリドもこれには細い目を見開く。嘗て仕えたフォルデノ王国の栄華を遥かに凌ぐと感じた。
『ルシア、君はもっと凄い輝きを知り往く筈だ』
──えっ?
ルシア、短い金髪が跳ねる程の勢いで無意識に意識飛ばした青年の方へ首を向ける。
やはりローダと視線絡む事無き。
彼は何処とは言い難き方へ黒い視線を向けていた。まるで未来が見えてる様に。




