第18話『Glimpse of civilization(文明の片鱗)』 A Part
エドナ村に駐留しているルシア達と暗黒神マーダの先兵として世界最上位の街並みを仕切るドゥーウェンによる何とも不可思議なる協議。
扉の候補者ローダ・ファルムーンと、鍵と目されるルシア・ロットレンを手中に収めたいドゥーウェンの思惑。
進化著し過ぎるローダを最新医療で以って、有事が発生する前に収めたいと語るリイナの胸中。
何れも互いの利益は一致した。
後は候補者当人の判断に委ねられた。
「俺の身体がどうこう……正直未だ飲み込めない。だが罪なき人々をマーダが脅かそうしている。それこそ容認出来ない。ならば最善を尽くすだけだ」
やはりローダは自身の実力など先送りした処で英雄を語る御人好し。
片思いな男の愚直な台詞に「ハァ……」と溜息漏らすルシア、正直止められる気がしなかった。
『交渉成立ですね。それではラオに送り届けたい方を一箇所に集めて下さい。壊れた人型兵器に形を潜めた化物くらい、皆様なら楽勝でしょう』
友好的な笑顔を絶やさず、またもや気になる言葉を金髪の学者が口遊んだ。
──兵器? アレは鎧じゃないって言うの?
気になったルシアだが、どうせこのあと顔合わせするのだ。その時改めて話を聞けば良いと気分を切り替えた。
「おぃ待たんか、おい達ばこん村ば出たらマーダん思う壺じゃなかか?」
『ええと……何となく察しました。それは全く以って御心配には及びません。理由は後で説明致します』
敵の口車に乗せられてはいまいか?
例え相手に伝わり辛くともガロウは懸念を吐かずいられなかった。
立体映像のドゥーウェンが言葉を解せず眉を顰めたものの、心配の種は如何にか判り、相手を窘めるに至れた。
暗黒神マーダの元へ走ったと思しきサイガン・ロットレン。
実は彼の弟子──。
ドゥーウェンがローダ等と利害の一致で手を結びつつある。
互いの見知らぬ処で、袂を分かつ日が訪れようとしていた。
◇◇
「──クッソォッ! あの化物一体何なのさッ!! おちおち寝る事すりゃ出来ねぇッ!」
暗い夜の闇にすら映える赤い全身鎧で多大な文句を垂れる女騎士。兜すら被った完全武装。
細い目で男勝りな声音。彼女の名は『プリドール・ラオ・ロッソ』
ロッソ家の先々代は150年前の竜同士に於ける戦乱を生き抜いたのち、ラオに安寧の場所を求めこの世を去った。
元々銛を槍に持ち替えたこの地域の兵達は槍の類をこよなく愛する。
その中でもロッソ家の槍と勇猛果敢ぶりは、アドノス島でも各所で響いていた。
それはプリドールとて例外ではない。
単騎で馬上槍を握り突貫する潔さは勿論、兵達の指揮にも定評があり、ラオ守備隊副団長の任にある。
ラオの海岸線から木霊した波打ち際の音。
ついこの間迄、この音を枕に穏やかな寝息を立ててた時間帯である。
ドゥーウェンがルシアのスマホに送り付けた巨人らしき化物は陽が落ちてから活動し始め、夜明けと共に身勝手な撤退を繰り返していた。
巨人がたった一騎で街を訪れ、泥酔者が如く好きに暴れ散らして朝帰り。何ともふざけた話である。
「──太陽の下に出られん訳でもあんのかねぇ……あのデカブツ。実は不死の類とか?」
一方ラオの海が如く真っ青な全身鎧に身を包み、髪色や目さえ蒼に染まりし青二才。但し『兜は邪魔だ』主義。
さも億劫な態度で大き過ぎる敵へ白け顔を向けた。彼の名は『ランチア・ラオ・ポルテガ』
30の息掛かるプリドール29歳よりだいぶ若輩な23歳。如何にも副団長より不出来かと思いきや、他に並び立つ者がない投槍の絶技と頭の冴えだけで団長の立場を押し付けられた天才。
ミドルネームにラオを冠する者は、認められた最高の殊勲。
横道逸れるがジェリドとて同じ殊勲を有している。然し『要らんよ、妻と揃いが良い』自ら断りを入れた存在なのだ。
「巨人族の亡者なんか聞いた覚えないやね」
「俺だってそんな友達いねぇってばよ」
身長12m級の化物を拝みながら、遊園地の乗り物でも観る気軽さで会話を交す副団長と団長の間柄。
別称『赤い鯱』と『青い鯱』
海洋生物最強と謳われるシャチに因んだ通り名。直球過ぎるが強靭さを存分に示していた。
「さぁお前達ッ! いつも通り3個小隊に分かれなァッ!」
守備隊の一般兵に呼び掛けるは副団長の仕事らしい。周囲に通る勢いある姐御口調。
一番偉い筈の団長は、何もせずただ緩んだ顔を味方へ向けるだけ。これがラオ守備隊の通常営業。
「ま、兎も角だ。今夜も朝まで適当に遊んでやっぞ。良いか手前等、俺達はあくまで守りの兵。あんな馬鹿相手にくたばってみろ。そのまま海へ流して魚の餌にすっからなッ!」
檄なのか?
切れ味鋭い冗談なのか?
されどこれこそラオ守備隊の所以。先ず個々の守りを最優先。その上で自分達の住処を守護するのが彼等のお決まり。
プリドールの先々代から言い聞かされた由緒正しき掟なのだ。
ダッ……ダダッ、ダダダダッ!
砂地の上を駆ける蒼い鎧の男。ランチアが投槍を握り、もの言わぬ巨人に向け助走を始めた。
「御客様ァァッ! もう看板の御時間ですよォォッ!!」
走り辛い砂浜を全力疾走しながら未だ酔っ払い相手の演者を止めぬランチアの遊び。振りかぶって右手に握った投槍を思い切って投擲した。
バンッ! ババンッ!
夜空に輝く閃光弾。ラオの海に投影され戦場らしからぬ美麗さを帯びた。
投槍に結び付け、投げ込んだのは相手を吹き飛ばす為の火薬ではなかった。




