第17話『Mutual turning point(互いの転機)』 B Part
エドナ村に駐留している民衆軍へ、よもやよもやな休戦の申し出。
フォルテザを仕切ってる敵がドゥーウェンなのは確定事項。
だが主人の許可を得ている話か?
そんな身勝手が通じるとは到底思えぬルシア達である。
グィ。ガロウが不意にルシアの袖を引っ張った。
「な、何よガロウ。黙っててば……」
「ルシア、おまんは最近民衆軍ば入ったで知らんち思うがフォルテザに居る仲間達から聞いた話じゃ……」
ガロウが話をしたいのはドゥーウェンでなく、ルシアに対する情報提供が目的。金髪に埋もれた綺麗な処へ耳打ち始める。正直ガロウへ耳を貸すのにルシアは抵抗を感じた。
「確かにこん金髪野郎がフォルテザば制圧した。じゃっどん民衆軍は1人も殺られちおらん」
これはガロウ的にも思い返した内容である。
フォルテザに駐留してた仲間から聞いた際には、まるで要領を得なかったが、敵の態度を勘定に入れ、改めて考え直した結果を伝えた。
「え……それってつまりどういう」
「あん男ばフォルテザをより強くしっせえ外敵ば対抗出来る様にしたいち聞いた」
ルシアが逐一ドゥーウェンの顔色を窺いながらガロウの不思議な話へ耳傾ける。
外敵?
ルシアもいまいち話の内容が頭に入って来ず、整理する時間に追われた。
『私も似た様なお話を以前伺いました。外敵とは文字通りアドノス内部でなく他国からの侵略を示しています。フォルテザは世界中が欲しがる街です』
立体映像化した小人にリイナ先生が突如加わる。ガロウが伝えそびれた内容を即時に纏め上げた。最年少とは思えぬ頭の冴え具合。
「リイナ! 御仕事始まってるのに呼び出してごめんね!」
自分で呼び付けておきながら、グループ通話に慣れないルシアが驚き頭を下げた。
『いえ……これは大変重要なお話だと認識しております。──ドゥーウェン様でしたか? ローダさんに興味が有る御様子ですね。詳細を調査したいと拝察致します』
立体映像同士が身振り手振りを用い会話し始める。
普段から誰相手でも丁寧な口振りのリイナがいつも以上に謙る。
『おおっ! 正しくその通りです! ローダ君を是非共数値化したい、それが私の本心です』
感極まり、冷静だった声量を途端に上げたドゥーウェン。実の処、外敵に対する協力要請なぞ話を切り出す為の付け合わせに過ぎないのだ。
『であれば此方の最低条件はローダ・ファルムーンの身体調査を無期限で実施頂けるよう、フォルデノの最新医療施設利用を要求致します。当然私も同行させて頂きます』
言葉使いこそ丁寧なれど相手の視線を真正面で受け止め、強制的要求すら幼いリイナが口走る驚き。
「り、リイナ?」
「リイナ? 何勝手に話を……?」
黙って成り行きを聞いてたローダも流石に口挟まずにいられない。
ルシアとて同じ気分。『ローダを数値化したい』この男、綺麗な顔で途方もない腹の内をぶちまけた。
いつになく険しい表情をローダとルシアに返すリイナ。ルシア、妹分のこんな厳つい顔を見た試しがない。
『ルシア御姉様、ローダさん。これは絶対不可欠なのです。此処と私だけでは成し得ません』
口調も緊張感を多分に帯びるリイナである。
一応成人済みなローダとルシアが年端も行かぬ相手に気圧される。
『此処数日、ローダさんの異常過ぎる発達。これは最早神の御業だなんて悠長な事言ってる場合じゃありません』
「し、然しだなリイナ。俺は今の処何とも……」
刺す様なリイナからの視線が特にローダへ注がれる。
吞気が平常運転の男だ。当人が感じられぬ異常事態を『診て貰え』と言われた処で『俺は至って正常だ』他に返す言葉が見当たらない。
『だからこそ常に適切な検査と深刻な事態に及ばぬよう今から最善を尽くすべきです。それにはフォルテザの最新医療と解析が必須なのです』
リイナとて怪しい学者の裏腹なる企みくらい、容易に想像した上で『それでも』な忠告を告げているのだ。
『あと皆様に有益な内容を追加します。エドナ村民衆軍がラオに向け助け舟を出せる最短ルートを此方は御用意可能です』
──此処迄僕の思惑通り、気持ち悪い程話が進んでます。もう一押しで候補者の情報と鍵すら手元に転がり往く。先生の一歩先を僕が歩める!
ドゥーウェンの我欲が最高潮に達する。この機会、モノに出来ねば一生涯の悔いを招く。
「ど、どういう意味!? 私達がラオへ陸路で往くには貴方達の居るフォルテザの横断が絶対なのよ」
アドノス島の中央部から真っ直ぐ北上した場所に存在するエドナ村。その東隣りでアドノス島最北端迄伸び往く岬、その土地総てをフォルテザが占める。
避けられないお隣さんのさらに東隣がラオである。寄って海路でも行かねば如何にもならぬ。
『はい、流石に貴方達を直接ラオへ送り込むのは適いません。ですが私の居る場所にならこのハイエルフの術式を用い、瞬時で可能なのです。此処からラオまで出撃すれば効率良いかと』
ススッ──。
ドゥーウェンの背後、人間の美しさを遥かに凌ぐ絶美な人形の如き小人がさらに増えた。全てが煌びやかに流れる金色の髪。尖り過ぎた長耳。例え映像越しでも際立つ存在。
「──え?」
『は、ハイエルフ? 人類族に於いて最も優れた存在! も、もしかして森の女神の術式ですか?』
リイナの蒼い大きな瞳が一際開かれた。
ハイエルフに出逢えた感動と、300年前世界を救済した真実の神に興奮冷めやらぬ模様。まさしく神の化身を見ている気分に独り焼かれた。




