第17話『Mutual turning point(互いの転機)』 A Part
暗黒神マーダに接触したサイガン・ロットレン。人の御都合主義に従うAIに自由意志を与えた第一人者が、ローダ達の見知らぬ内に結託しようと動き始める。
「人の中に宿したAIと宿主当人の意識が折り重なる刻……即ち複数の違う意志が互いを認めた折、人類はさらに進化する」
サイガンが思い描いた人類進化論を全く以って揺るぎない気分で黒の体現者に語り往く。
「判っているつもりだよ御老人、そのUltimateを貴方はひたすら求め、300年も待ち焦がれた。だが何故それが彼でなくこの僕だと思うのかな?」
ルイス・ファルムーンの躰を依り代にしているマーダの意識に取って『言わずもがな』的台詞を吐くサイガン翁。
マーダの追い求める答えではない。依って正答を追及する。
「貴様の言う通り。私は直弟子と300年前演算した結果、此処に誕生すると結論付けた。だが彼は……ローダ・ファルムーンは恐らく外れ。殴り合いで他人と判り合うなど」
サイガンの応答に「はぁ……」と残念な息をつくマーダ。
やはり質問と食い違う答えだ。『ならば』とばかりに質問の方向性を変えてみる。
「成程……。僕こそ候補者というより、少なくとも彼は貴方の描いた存在と異なるから赦せない。──然し鍵は彼を認めたらしいじゃないか」
緩んだ顔そのままに痛い脇腹を突くマーダに歯軋りする老人。皺の深まる目尻を逸らし小賢しい言い訳を口にする。
「想定外は起こり得る……が、未だ引き返せる。修正すれば良いだけの話だ」
──ニヤリッ。
自分の判断誤りを認めず『直せば良い』と応じたエンジニア出身のサイガン・ロットレン。
マーダのさらなる嗤いを引き出した。取り入るべく狙い澄ました結実なのか不明である。
──やはり鍵が男に傾くのを認めたくないのだな。子離れ出来ぬ女々しい老人だ。……だが今はそれで良い。
「良いでしょう。フォルデノ城を好きに扱う権利を貴方に差し上げます。束縛も致しません」
暗黒神が創造神へ最大限の敬意を払った瞬間。
全裸のフォウ・クワットロは、気が動転する思い一部始終を聞き終えた。決して聞いてはならぬ秘め事だと感じた。自分は消されても止むを得ないと覚悟を決めた。
◇◇
「ど、どうして敵から私達に連絡を?」
一方、全く以って腑に落ちぬルシアのスマートフォンに届いたヴァロウズNo2の学者ドゥーウェンからの伝言。敵に動きを知らせるなど以ての外だと思えてならない。
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ……。
「通話!?」
伝言だけに非ず、動画通話を寄越して来た大胆不敵。
ルシアが爆発物にでも触れる緊張感を以ってテーブル上に置いてたスマホを掴み、皆に見せるべく通話を受けた。
スマホの画面から立体動画で金髪で黒スーツの男が小人の様に飛び出した。
『初めまして皆様。突然の御連絡、大層驚かせて済まないと思っております。私がヴァロウズのNo2、ドゥーウェンでございます』
余裕を感ずる声音で頭を下げた敵側の頭脳と言うべき存在。『私がヴァロウズのNo2』いとも容易く己が身分を晒した。
『御気持ち察しますが、そう身構えないで頂きたい。まず先程送らせて頂いたラオの現状に嘘偽りはございません』
ラオが敵の襲撃を受けている──。
無論デマなら腹立たしいが、真実と語られても悲しい話だ。これ迄ラオは、フォルデノ王国から一番遠方だったのが幸いしたのか、比較的被害の少ない地域であった。
「あ、貴方。一体何が狙いなの?」
『やあ貴女がルシア・ロットレン……鍵の存在ですね。随分御綺麗な女性だ』
これ迄もドローン等で散々観察し尽くした筈のルシアに対し『御綺麗な女性』と嘯くドゥーウェン。然も『鍵の存在』などと周りに知られたくない言葉を口遊む。
その上、彼の背後にはもっと美麗なハイエルフの女性が付き従っている。まるで持ち物比較してるかの様な余裕ぶり。
『私、そちらにいらっしゃる候補者に興味が湧きました。エドナ村に駐留している民衆軍との休戦協定を申し入れたい。フォルテザを外敵から護る使命があるので、明け渡す訳には参りませんが』
「えッ!?」
「ハァッ!? ないばいっちょっかまるで判らん!?」
突拍子過ぎるドゥーウェンからの休戦協定発言。
ルシアに発言を任せていたガロウの口から文字面通りな不明瞭過ぎる返答が飛び出す。
『──?? ええと……旧日本語でしょうか?』
これには博学のドゥーウェンとて流石に要領を得ない。旧日本語と読み取れただけでも拍手ものである。
「ガロウ、悪いけど話拗れるから今は黙って。……ええっと正直貴方の話が見えなさ過ぎるの。1人グループに追加したい、リイナ・アルベェラータを知ってるかしら?」
ガロウの口を白い手で制してルシアはこの危うい会話にリイナを召喚したいと提案した。
『おおっ、ラファンの森の天使ですね。無論、存じ上げております。私交渉事は正直苦手で……。話慣れた方なら大歓迎です』
ドゥーウェンの興奮ぶり、演技ではなさそうだ。知識だけに頼りがちな者ほど纏め役を欲するのは必然なのだ。




