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第16話『The wise men's choice(賢者達の選択)』 B Part

 もはや自分が鍵だとか忘却(ぼうきゃく)彼方(かなた)へ置き去りに恋路(こいじ)を往きたいルシア・ロットレン。

 自分の知らぬ前に英雄(ヒーロー)担ぎ(かつぎ)出されたローダ・ファルムーン。


 されどそんな二人の周囲を暗躍(あんやく)する多大な黒い影。

 恋愛に(うつつ)を抜かせる場合ではない。そんな世知辛い(せちがらい)現実をルシアとて充分理解していた。


 二度に渡るマーダとそれに(くみ)する者共に確実な一太刀を浴びせた事変。アルベェラータ父娘に限らずアドノス各地からエドナ村へ(アリ)集る(たかる)様にResistance(民衆軍)を名乗る者共が結集(けっしゅう)しつつあった。


 中には正義の味方面しつつ報酬(ほうしゅう)と権利のみを欲する偽物さえ出現した。

 その上何しろ兵共(つわものども)が多過ぎる故、これ迄通り教会での一時受け入れを諦め、民家に居候(いそうろう)させた。

 当然の代価として下宿先を最優先で守るべし。また一定額の家賃を必ず収めるべしと御触れ(おふれ)を出した。


 アルベェラータ父娘にしても娘リイナは保育士兼修道女(シスター)

 父ジェリドは村の復興(ふっこう)だけに留まらず、頑強(がんきょう)な村造りに尽力(じんりょく)している。ラファン出身者(山に即した連中)は地力が強い。


『これでエドナ村の護りがより強固に為る』


 手放しで喜ぶほど村人達は愚か(おろか)ではない。寧ろ(むしろ)よりこの村に脅威(きょうい)が訪れる前兆(ぜんちょう)だと理解した。民はありふれた平穏(へいおん)を欲していた。


 暗黒神マーダが起こした天変地異(アディシルド)は、村の大半を飲み干した。避難を進めていたので人的被害こそ少ないが、今後も恐怖に慄き(おののき)ながらの生活を()いられるのは不本意なのだ。


「──俺に漁の仕事を?」


 漁村エドナに流れ着いて(飛び込んで)10日目。未だ仕事ない(ニートな)ローダに仕事を斡旋(あっせん)する勝手な兄貴分ガロウ・チュウマ。


「村()男手共の大半()漁師じゃ。ワイ(お前)も男やったら(だったら)おい()と船()乗らんか?」


 ガロウ先輩から当然の押し付け。

 ローダは本来探し人(ルイス)を求めて来た身分なれど、今や村の枠組みを超えた英雄扱い。

 おいそれと独りで兄捜し(さがし)を続けられず悶々(もんもん)とした日々を送っていた。


 例え仮住まいとはいえ、何か稼ぎ(生計)を立てなければ、英雄が金集り(かねたかり)の汚名を着せられても何ら不思議でない。

 おまけに流れとはいえ、村一番の美女(ルシア)から(やしな)って貰う言わばヒモ状態。


 ローダ程でないにしてもルシアとてエドナ村に越して幾許(いくばく)もない。

 金髪翠眼(すいがん)で顔立ちは勿論、身体の流れ(ボディライン)も非の打ち所がない。これ迄のエドナ村に存在し得なかった女性(タイプ)

 増してや子供の面倒見が良く、料理も熟すとあっては独り身の(淋しい)男共が、この現状を黙認(もくにん)出来る訳がないのだ。


 コトッ──。

 ローダの部屋を来訪(らいほう)したガロウへ珈琲(コーヒー)を出すルシアの何気(なにげ)ない気遣い(きづかい)

 こんな訳ない生活の一部を切り取っただけでも余計な(うわさ)が広がる一因(いちいん)に繋がるのが道理。因み(ちなみ)にルシア、近頃部屋着すら()()()()()


「それも引き受けて構わない。だが俺はルシアの仕事を手伝いたい」

「「えっ?」」


 揺るがないローダのボソッとした語り口。

 聞いたガロウとルシアが思わず驚いた顔見合わせる。ルシアの仕事は語る迄もなく託児所。


 この歩く無愛想(ぶあいそう)に似合いの仕事とは全く思えず、ルシアすらも苦笑い。想い人と同じ職場の喜びあれど適職(てきしょく)とは到底(とうてい)思えやしない。


「た、確かに男手があるのは嬉しいけど。子供達やその両親とも話が出来なきゃ……」


 自然、言い淀む(よどむ)ルシア。嬉しい、そりゃあ大層嬉しいに決まってる。『それでも』と言わなきゃならないもどかしさ。


「わ、判ってるつもりだ。……俺、もっと他人(ひと)(かか)わらないと駄目だ。だから漁師も保育も望まれたら何でもやるつもりだ。上手く言えないが此処(アドノス)に来て以来そう思えた」


 ローダ自身、流石にガロウとルシアの心配に気付いていた。下手な会話を如何(どう)にか紡ぎ(つむぎ)出す。


「ほぅ……」

「ど、どうして?」


 生活環境の変化は人の意識に作用(さよう)するもの。ガロウはローダの変化をその程度の考えで落着させる。

 ルシアは好きな人が思う心境の変化に対しもっと深掘りしたい興味が湧いた。


「済まない、あくまで感覚(何となく)に過ぎないんだ。()いて言うなら俺はこれまで兄を慕い(したい)、捜すことだけ馬鹿みたいに考えてた。でも、兄離れしてもっと自分自身を……だな」


 視線を二人に合わせられないローダの何とも拙い(つたない)自己主張。

 改めて顔見合わすガロウとルシアの顔が思わず綻ぶ(ほころぶ)。弟の成長過程を見守る気分だ。『自分なりに頑張ってる』言葉要らずで伝心(でんしん)した。


 だがローダには決して誰にも言い難い裏腹(うらはら)なる思いが在るのだ。


『も、もしマーダがルシアの敵を続けるのなら、俺も兄を絶つ(たつ)覚悟を持たなきゃ駄目だ』


 ──え? ま、また声が?


 ハッとするが気付かぬふりをすべく敢えてローダの方を見ないルシアの仕草。

 (いだ)かれた時にも聞いたローダの心根(こころね)

 ルシアに取って空耳とは思えない心の声。


『ルシアを護る為には兄頼みな自分を卒業しないと駄目だ』


 身勝手にも人の思いを要約(ようやく)してみる。またしてもルシアの想い(好き)が加速して目尻(めじり)の下が自然な(ナチュラル)赤み(チーク)を帯びる。思わず(さと)られない様、顔を(そむ)けた。


 ピピピッ……。


「え、知らない(人からの)メッセージ……。──ッ!?」


 ローダへ恋寄せる想いを吹き飛ばす無粋(ぶすい)で異常な内容(メッセージ)にルシアはスマホを落としそうになった。


「……ルシア?」

「ど、どげん(どう)した?」


 豹変(ひょうへん)したルシアを問い質す(ただす)ローダとガロウに震える手で、スマホの画面をルシアは無言で見せた。


『フォルテザの学者からお伝えしたいことがあります。ラオの街が巨人らしき()()の襲撃を受けております(Message from a Forteza scholar.The city of Lao is under attack by giant-like beings.)』


 確かにあり得ぬ者から俄か(にわか)に信じ難い内容が書かれていた。

 然も御丁寧(ごていねい)に『巨人らしき()()』の写真さえ届いていた。確かに人型なのだが巨人族に見合う筈のない鎧らしき物を(まと)った不可思議(ふかしぎ)なる絵面(えづら)


 フォルテザの学者と言えば、マーダの肝煎り(きもいり)なる手下、No2の学者ドゥーウェンに違いない。『ラオ』はフォルテザよりさらに東に位置する海に関わる観光資源で栄える街。


 敵が何故態々(わざわざ)こんなものを寄越(よこ)したのか? 誰かの悪質な悪戯(いたずら)だと思いたい一同であった。


 ──第2部『Candidate selection(候補者の選択)』 Fin──

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