第13話『Angel's miracle(天使が呼んだ奇跡)』 B Part
Resistanceと争うのを拒みアマンの森を後にした倭刀使いトレノと女武術家ティン・クェンの二人。
「い、今の輝きはまさか!」
「違いない、森の天使だ。エドナへ反乱分子共が集結しつつある」
リイナ・アルベェラータが起こした奇跡に意識奪われたティンとトレノ。
嘗て二人はラファン攻略の折、山男が多数を占めるラファンのResistanceを総ナメにした。
さりとて『アルベェラータ』姓を完全には葬れなかった。リイナもその一人である。
さらにもう一人、トレノの剣が届かない辛酸を舐めさせた屈強な騎士も同じ姓。
味方の卑劣さと敵に救われた双方が入り混じり戦う気を削がれた両者。されど敵が徒党を組むなら己の仕事を全うせざるを得ない。
「──殺気ッ!?」
キンッ!
トレノが背中に感じた刺す様な殺気の塊。
実際、柄の長い斧の先に生えた矛先により背後を突かれた。咄嗟に背負った倭刀を中途に抜いて交えることで難を逃れる。
「……らしくない突きだ、ジェリド・アルベェラータ。見え透いた殺気だらけの攻撃……殺る気は無いという訳か」
一触即発の緊張感を維持しながら本命の士気をトレノが窺う。
「察しが良くて非常に有難い。今日の私は娘の命を護る、それだけが目的だ。処で得物が変わったな、そちらが本命だな」
リイナ達を護るべく邪魔立てして欲しくない気分をまるで友の気軽さで応えるジェリド。
背の低いトレノの背後に立つとまるで人種が異なるのではないか?
そんな加減を周囲に思わせる巨躯を誇る騎士。古惚けた白の全身鎧、胸元辺りに不自然な削り跡が在る。フォルデノ王国聖騎士を自ら退団した折、王国の紋章を無造作に削った跡だ。
愛娘リイナが森の天使と地元ラファンの民から慕われてるのに負けず劣らず、ジェリドの強靭ぶりはラファン随一と知れ渡っていた。
そんな二人のアルベェラータともう一人、母なるアルベェラータがResistanceを先導したにも関わらず蹴散らしたのが、何を隠そうこのトレノとティン・クェン率いるマーダ軍に他ならない。
キンッ!
「貴様こそ相変わらず抜け目ない。マーダ様(襲撃)の時、何故貴様達は助太刀しなかった?」
戦意が無いのを示すかの如く蒼く光る倭刀をトレノは納刀する。
戦争にこそ勝利を収めた。但し個人戦績だけこの騎士に負け越してる屈辱が納刀に余分な力を注いでしまった。
「此方とて色々事情があるのだよ。これ以上は語るまい」
穏やかな声そのままに敵意の線引きを短く良い表すジェリド。妻ホーリィーンをこの敵方達に奪われた雪辱を晴らしたい本音が此方とて在るのだ。
たった一言「そうか」と口ずさんでその場を立ち去るトレノの潔さ。ティンは自由意志を捨て小さな剣士に再び着いて行った。
さて──リイナが起こした輝きの蜃気楼により、全ての術式が無効へ転じたオットォンVsガロウ&ローダの争い。
ローダが引き出した蒼白い脇差然り、矮小な重力解放。何れも例外無く消え失せた。
だがそれでもローダの戦意が衰え知らず。ガロウ先輩の後塵を配すのを良しとせず、真横に並び立とうとする。
「グゥッ!?」
不意に崩れ落ちたローダ、全身へ走る激痛。全く以って耐え難い。またも進化の代償に苦しめられる羽目に陥る。
「無理ばすんな。ワイは嬢ちゃんと風ん姫様ば護れば良か」
ローダがルシアを救うべく例の力を引き出してからおよそ5分といった処。
ガロウはこの状況を既に想定してた節を語りて、片手でローダを制し自らが先陣に立って出る。
『貴方は虐げる存在以前、愚かで私には不釣合いなのよ』
──チィッ!
オットォンは昔、エルフの隠れ里で美麗なハイエルフの女から受けた屈辱の断片がふと脳裏を過ぎる。
鍵なる女性はおろか、候補者の独りであるローダさえも『殺すな』と主人から厳命されてるのを今さら思い出した。
勢いで『殺れる』とルシアを剥製にしかけた無能。『だから貴様はヴァロウズの末席辺り』と軽蔑される未来視も同時に浮かび、心中で舌打ちした。
「ガロウ様、気を付けて下さいませ。あの赤目は機械、他にもあのダークエルフ全身の至る箇所に不審な点が見受けられます」
リイナ、戦の女神の神聖術が使用不可となった今、非力な司祭は殆ど戦力外に等しい。
さりとて彼女には最年少で司祭級に成るべく学習した類稀なる第三の目が在る。この明晰な頭脳でこれ迄激しい戦でも生存し続けた。
「判っちょるつもりじゃ!」
ガツンッ!!
最年少に諭され敵の出方を見るのかと思いきや、近場の岩を刀で殴る様に粉砕するガロウ。酷く息巻いてる様子を隠さない。
岩が石礫に転じ、オットォンへの牽制を成した。
ビッ!
「こんなものォ!」
飛んで来る石ころなぞ大きく避ければ良いだけの話。オットォン、自己顕示欲に駆られ、赤い目放つ熱線でそれらを迎撃する様を態々見せ付けた。
本来牽制に値しない攻撃を驕り昂る判断で自ら呼び込んでしまった。
それこそガロウ・チュウマの思う壺なのだ。




