第12話『Be Together!(貴方と一緒が好いの!)』 B Part
ヴァロウズNo8、ダークエルフが仕掛けた蜘蛛之糸により、命の危機に晒されたルシア・ロットレン。
4日前の争いと同様、キレたローダ・ファルムーンが力を発揮し、ルシアを九死から見事救い出した。
意識戻らぬルシアを抱えたローダ。取り合えず地面に降り立つ。
僅かに躊躇いながら気絶で応じられないルシアに「ごめん」と態々謝り、腐葉土の上へ静かに彼女を寝かせた。
そして再び枯れ葉舞う地面を力強く蹴り、次はガロウ・チュウマの拘束を解くべく飛び出す。
「うぉッ!?」
突然吊るされた糸を斬られ、地面に落下するのを余儀なくされたガロウ。彼の吊るされた位置は、地面と偶々さほど離れていなかった。
ローダの行動はそれだけに留まらず、敵である女武術家ティン・クェンと倭刀の使い手トレノの糸まで斬る過剰な救出劇を例外なくやり遂げた。
「な、何故俺達迄助けたッ!?」
「……これでは最早戦いと呼べない。それ以外に理由はない」
救われていながらローダへ喰って掛かるティンに対し、普段通りの聞き取り辛いボソッとした声でローダは応じた。
敵からまさかの手心を受け、怒りの矛先を何処へ向ければ良いのか判らぬティン・クェン。取り合えずやり切れない気分を乗せ、手近な岩に蹴り入れ憂さを晴らした。
「済まないガロウ、ルシアに虫が集らない様見てやって欲しい」
驚き戸惑うガロウを意に介さず汚い地面へ大切なルシアを置き去りにせねばならぬ状況だけ詫びを入れるローダの不思議。
彼の語る『虫が集る』とは文字面通り、地面に群れてる虫達がルシアに付くのを苦慮した上での苦汁の選択なのだ。
未だ倒せてない敵が周囲に居る緊張状態。またガロウが最も腑に落ちない状況を全く以って気にする様子がない言い草。
無口な英雄は未だガロウから奪った刀を蒼白く光らせたまま、巨木の上で怒髪天なダークエルフを睨んでる。『俺が殺る』最早語る迄もないといった態度の表れ。
「え、あ……」
「どうかしたか?」
ガロウ程の偉丈夫が自分の気持ちを巧く表せず言葉を詰まらせる。
赤い輝き放つローダの不自然過ぎる冷静なる対処。
早い話、キレたローダが実の処キレてないのだ。4日前と同じ狂戦士めいた力を発揮しながら気狂いを全く見せない。瞳孔すら血走ってないのだ。
ファサ……。
「ン?」
「つ、使いな。どうせ元々その女が羽織ってたマントだ」
ローダ達の目前にふわりと捨てられた黒のマント。やったのはティン・クェン。敵側の顔を見ないまま僅か言い淀んだ感じで贈り返した次第。
「済まない」
「フン……」
ローダ、早速マントを地面に広げルシアの身体を寝かし直す。ティンは、顔を背けたままの無愛想。怒りではない別の感情が沸き立つ気分を誤魔化していた。
「だけど良いのか? お前達戦わなくて?」
「……興が削がれた」
キンッと音立て剣を収めたトレノ。『敵に命を拾われた』から興が削がれたが彼の真実。
されどそこ迄本音を敵へ晒す赤っ恥を掻くのは御免被る。「往くぞ」一言だけ言い残しサッサとその場を後にした。
「よくもよくもよくもよくもよくもッ!! 赦せんッ! 貴様等まとめて滅殺してやるゥッ!!」
独り空気読めぬ痛々しいダークエルフが巨木の上で出血しながら地団駄を踏んでいた。
「あれだけ出血してて呆れた奴だ」
──いや、呆れるっとはワイの成長ぶいじゃ。
これは軽口抜きなガロウの本音。
例え物真似とはいえ輝く真空の刃じみた力と空まで飛んだ。恐らく重力解放さえ、この青年はシレッとやり遂げた。
4日前は己の力を意識下に置けなかった若造が敵の能力を息吐く様に引き出したのだから驚愕するのが必然。
然しガロウにも張りたい漢の意地が在る。最高に頼りになる仲間を凌辱されResistanceのリーダー格が『指咥えて見てろ』は到底承服し難いのだ。
スッ──。
「先ずそん刀ばおいに返せ。こいが代わりじゃ」
ガロウ、腰に差した残りの一振り──脇差を鞘毎腰から抜いてローダへ押し付ける。そして自分の愛刀をひったくった。
騎士見習いとはいえローダも一介の剣士。『俺の愛刀を返せ』と持ち主から断言されては逆らい様がない。
然も代替品迄用意されては最早如何にもならぬ。何より有無言わさぬ圧を感じた。
ガロウに言われるがまま短い刀を抜刀。余った鞘を如何にか腰のベルトに無理矢理差した。
ボゥッ!
「──ッ!」
ローダ、掛け値なしの本気を見せたガロウ・チュウマに思わず気圧される。
愛刀の柄を握り締めた瞬間、ガロウの刀が燃え盛る。話に聞いたルシアの精霊術、武器に火の精霊を付与した感じ。
だがそれ以前に剣士ガロウが熱く、より熱く己自身を焔玉と化す。見える筈のなき炎の殺気をローダは肌で感じ取った。
理屈も原理さえも噴き飛ばす漢の生き様をそこに見た気分。
「だが飛べないのにどうするつもりだ?」
ローダが未だ巨木の枝上に居る見るのも汚らわしいダークエルフを視線だけで差す。確かに飛び跳ね出来ない侍風情は滾る剣筋を届けることさえままならぬ。
「そいこそ飛ぶるワイに任すッ!」
ダンッ!
ローダと視線を合わせずただニヤリッと嗤いだけで彼を煽るガロウ。
何もかも汲み取ったローダが再び森の地面を蹴って即座に宙へ舞う。蒼白い脇差を振るい上げた。




