第12話『Be Together!(貴方と一緒が好いの!)』 A Part
風の精霊術で誰よりも速く戦場を支配し尽くそうした鍵の女性ルシア・ロットレン。
ヴァロウズ8番目のダークエルフ、オットォンの『蜘蛛之糸』をその身に浴び呼吸すら危うい程の拘束を受けた。
他の連中──同じヴァロウズの倭刀使いトレノや女武術家ティン・クェンさえ巻き込む非情。
ローダやガロウも縛られこそしたもののルシアと決定的に異なるのは、あくまで身動きの自由を奪われたのみ。
まるで鍵の女性を自分が始末する様を観劇せよと言わんばかりの不敵な行動。
さながら神の禁忌を破り断罪される白一色の修道女の構図。然も神罰を下す制裁者が漆黒の男という現実は救済が無いと観る者さえ貶める劣悪な絵面。
大の字姿に拘束したルシアを手が届く位置迄吊るし上げ、カチューシャで飾った金髪から頬、首筋と順に無垢なる肌へ黒い指の腹を這わせ、さも満足げな態度を周囲に見せ付けたのだ。
「クックック……良い眺めだなぁぁ……お前は本当に本当に美しい女だ。エルフの隠れ里にもこれ程の上玉は居なかった……」
「──ッ!」
ルシア、屈辱なる仕打ちに抵抗したいが文句も言えぬ。それ処か息も絶え絶え、心拍すら不整脈を打ち始め意識朦朧になり始める。
苦汁に満ちた緑の瞳を背けるだけが唯一無二出来得る抵抗。必然心底腸煮えくりかえっていたが、それさえも薄れ往く意識共々消え失せそうだ。
「る、ルシアッ!!」
「クソがッ! こん腐れ外道ッ!!」
「最低な趣味だ」
「……」
黙って見てる事しか出来ぬローダとガロウ。此方は意識が堅実に仕事してる分、込み上がる怒りが留まる処を知らない。
一応同じ側へ与してる女武術家ティン・クェンがオットォンの汚いやり口に憤りを吐き捨てる。
トレノは終始無言。言いたげな言葉こそあれど、現状最も強者と目される敵を殺れるのであれば余剰を語る無駄などしない。
──嗚呼……わ、私こんな処で……し、死んでしまう……の。な、何も果た……せず。
ルシア、白む意識の最中で自分の果たせなかった想いが浮かんでは消えを繰り返す。
愚直な男と初めて描いた夢も泡と消え逝く虚しさ。
エメラルドグリーンのつぶらな瞳から溢れ出るものに気付く事さえ出来やしない。
「おっ? 泣いている? この女、死期を悟って泣いているぞぉ……」
ペロッ。
ルシア無念の涙を黒い指ですくい上げ味を確かめるオットォンの悦楽。止めようがない涙顔を口が裂けんばかりの笑みで覗き込む。
さらに自分の所有物が如く涙に濡れた顎を撫で回す手を止めぬオットォン。
ドクンッ──。
「本当に死に際すら艶めかしいなぁ……醜い俺様とは大違いだぁ。このまま全身の穴から汚物を垂れ流して死なすには惜しい気がしてきた」
未だルシアを人形の様に愛でるオットォンの背後で憤怒に肩震わす漢独り。
「夢魔よ、この女へ慈悲深き黒い夢を与えよ」
オットォンが左掌に黒い焔を創造した。如何にもやらしい顔を続ける。
「この黒い炎はなぁ、俺様のお気に入りでよぉ……。これが触れた女は惚れた男に精気を吸い尽くされる夢を見るんだ。夢だけじゃぁない、実際に精気を吸われ躰だけ朽ちぬ標本に成れんだ」
オットォンはルシアを葬送る愉悦と惚れた男であろう者を共々煽って自らの行為に浸りきる。
ドクンッ──もぅ止めろ、消すぞ貴様。
「さぁ、この豊満な胸に炎が入ればこの美しい娘は永久の夢を見れる。そして永遠に俺様の物に至れる!」
夢魔で錬成したと見受けられる黒い炎。
周りに見せ付けながらオットォンは、勝ち誇りでなく陵辱な行為を楽しむかの如く、涙染み渡った白い修道服の胸元にチラつかせる。今にも触れそうな位置で女の恐怖を焚き付けた。
──嗚呼……も、駄……目。わ……た……。消えたく……な。
『私ぃ、ローダともっと一緒に! もっと一緒に生きたいよッ!』
カッ!!
「止せと言ってるのが判らないのならッ!!」
もう届く筈のないルシアの叫びがローダの魂を揺さぶる!
ブチィーンッ!!
「何ィッ! 解呪してない蜘蛛之糸を千切るだとォ!?」
人の目に映らぬ拘束の糸を引き千切る音が薄暗いアマンの森に響き渡る。
狼狽えるオットォンを他所にローダが例の赤い輝きを散らし宙を駆け、ガロウの愛刀を捥ぎ取る。
「赦さない……」
ガロウから奪った刃が蒼白い光を瞬時に纏う。
薄れ往く意識の中でルシアは、ローダが輝く真空の刃を着実にモノにしている事実を汲み取った。
最上段の構え、今度はガロウのお株を掠め取る動き。全身を弓と化したローダの刃がオットォンを真なる断罪に処す。
ズバァァッ!!
「ウグァァッ!! き、貴様ァァッ!! よ、よくもこんなッ!!」
「避けた?」
脳天へ落したローダの蒼白い刃が頭ひとつオットォンに躱され、右肩から右腕1本だけを完全に切断した。
渾身を避けられ怒りに振り切れそうなローダであったが、先ずは恋する女性の救命を最優先に切り替える。
見える筈ないルシアを縛り上げた憤怒の元凶を蒼い刃でいとも容易く斬り裂いた。
意識を喪失し地面へ落下するルシアに追い縋るべく、枝を蹴飛ばし彼女の元へ一目散に駆けるローダ。ルシアを抱え救出劇を完遂した。




