第11話『Trap Set by the Darkness(漆黒の仕掛けた罠) 』 B Part
白い修道服姿のルシア・ロットレン。風の精霊術で己の機動性をより鋭敏に高め、目前の敵だけでなく森に潜む戦場総てを相手取ろうと画策。
腐葉土積もる悪い足場にも拘らず敵女武術家の背後に回る。
「ウグッ!?」
一体何をされたのか判らぬまま、後ろ首へ剣より鋭い手刀を浴びた女。狼狽えずにいられない。それでも気絶ぜず、そして臆せず身軽な脚捌きで正面を向き直そうと追い縋る。
だが白いシスター紛いの女は既に忽然と姿を消していた。
「ティン! 何遊んでいる?」
「トレノ!? これが遊んでる様に見えんのかい!」
ティンと呼ばれた女、トレノからの煽りと敵に及ばぬ自分に対する怒りが一挙沸き起こる。短めな赤い髪が逆立ち、血流が毛先迄届いているのかの様。
一方、トレノと言い返された大太刀の剣士。
余裕面でガロウ一撃必殺の剣をあしらい続ける。だから味方の様子を見やる暇さえ生み出せる。
剣を交えるガロウ的には大層腹立たしい。上段、中段、苦手分野な下段斬り。全て殺気を込めた必殺剣、子供の様な敵に幾度も阻まれる屈辱に支配されゆく。
「4番目の魔法を斬ったらしいがこんなものか」
「ア"ア”ッ!? 嗚呼、あん魔導士のおなごか」
ほくそ笑みすらしない相手に余計苛立ち募るガロウ。
砂浜で斬り伏せた赤い光のことを思い出す。あの時『異能者だな』と相手に与えた謎の戦慄。この相手も己に対し異端な力を求め挑んでるのか? さらに腹立たしさを覚えた。
処で犬人間でなく狼男帯びた敵を相手取るローダ。
銛が通じず少々慌てた。森の暗がりに潜む地面へ視線を落とす。錆び塗れのナイフを視線が捉えた。
咄嗟に銛を銛らしく敵へ全力で投げつけ錆びたナイフを拾い上げた。
切れ味? そんな贅沢最初から求めてない。それでも銛より剣に近しい形。まだやり様ありそうな根拠ない自信が湧き起こる。
──蒼白い剣……。
4日前の夜、壮絶にやり合った黒騎士マーダ脅威の魔法剣。輝く真空の刃をふと連想する。封じられた筈の記憶の断片を錆びたナイフへ流し込む創造。
「──えッ!?」
ローダへ加勢に転じようと迫るルシアの大きな翠眼が増々見開かれる。
ローダの握る錆びたナイフが蒼白い輝きを滲ませるのに気付いた。無論、本家の如く剣筋を飛ばせる訳ではない。
それでも蒼白いナイフを犬族へ繰り出し今度は首を斬り捨てた。勢いそのまま次の獲物へ脚を引っ掛け倒すと体重を載せた蒼いナイフを敵の胸元に突き立てる。
──そんな……。アレじゃまるでやり合った相手の力を?
一部始終を見てたルシアは、ローダの実力を見くびっていた認識を改めた。
コボルト族相手なら今の彼でも存分渡り合える。ならば自分は今度こそ赤い光線の主へ標的を絞ろうと考え直す。
精霊の扱いに長けてるダークエルフ。それにも拘わらず赤い熱線には精霊の気配を微塵も感じぬ不可思議。ルシアが不気味と感じた判定理由だ。
ダークエルフのオットォン、素早く動き回っていたが流石に居所はルシアに知れた。踵を返して一際大きな広葉樹の枝元へ飛び掛かろうと思い立った瞬間の出来事。
「──コンテジオネス、インラメガラ。暗黒神の名に於いて命ずる。蜘蛛が如き拘束の糸よ。此処にその枷を成せ」
「え、詠唱術!?」
禍々しく嫌味在る声がルシアの耳に届く。精霊術でなく赤い熱線でもない別の術。
されど紛う事無きダークエルフの嗄れ声。それもやたらと勝ちを確信した不気味。不意に地面が赤みを帯びた円状の輝きを放つ。
暗黒神マーダでなく、その元締めであるヴァイロが扱う魔法陣の術式。
赤い熱線は攻撃手段じゃなかった事実を思い知るルシア。この陣を地面に描いていたのだ。
鍵なる女性は、もっと考察すべきであったと思い知る地獄の沙汰をこれより受ける。
ヴァイロとはこの島の言い伝えにある暗黒神本来の名前。
マーダが暗黒神を名乗る意義、外連味過ぎる、或る意味陳腐な区分け。
彼の中にもう一人の彼が居たのを知り得た時点で注意すべき事案であった。
「──『蜘蛛之糸』!」
ダークエルフ・オットォンの呪文が完遂。
「ぐっ!?」
「き、貴様まさか!」
何もないのに腹の辺りを縛られ吊し上げられるティンとトレノ。オットォンに取って味方で在る筈の両者。
「なっ!」
「ひ、引っ張られる!?」
ローダとガロウも同じ目にあう。幾ら足搔こうが如何にも出来ない。
「くぅッ! ……こ、声す……ら」
ルシアも同様に吊し上げられるのだが、彼女だけ全く以って異なる状況に堕とされる。
両手両足をそれぞれ見えぬ何かに拘束される感覚。それだけに収まらない。首と胸元すら同じく縛られ悲鳴すら叶わない。呼吸はおろか心臓さえ何かに鷲掴みされた恐るべき感触。
ルシアのみ大の字の形で吊し上げられるまるで刑執行の如き様。
スーッ。
ルシアが体勢を変えられないまま、広葉樹の巨木の先へ引っ張り上げられる。
そこには継ぎ接ぎだらけのドス黒い顔。食い千切られた痕が在る黒き長耳。さらに左眼だけ不自然に埋め込まれた感じの赤目。
ダークエルフのオットォンが涎を垂らし美し過ぎる金髪の女性を面前迄引き上げたのだ。




