第11話『Trap Set by the Darkness(漆黒の仕掛けた罠) 』 A Part
アマン山中にて勃発した新たなる争いの火種。
ルシア・ロットレンは赤髪の女武術家と相まみえる。本来狙い定めてた嗄れ声の主に届かぬ無念。
一方、ガロウ・チュウマを待ち受けていた者。ガロウと等しく東洋の刀を背負った男。眼と刀が纏う光だけ青みがかった剣客風情。
どちらせよすこぶる嚙合い過ぎる者同士。無駄な運命すら感じる組合せ。最早殺り合うより他なき現状。
「──ガッ!」
突如──いや寧ろ迂闊と言うべきコボルトの介入を赦すガロウ。例え目前の剣士が醸し出す殺気に心囚われてたとはいえ、玄人な兵士にしては甘過ぎると言わざるを得ない。
ズバッ! キンッ!
「な、味方毎!?」
「……失せろ犬が」
小柄な剣士が瞬時に抜き放った大太刀。小さいコボルトすら上から叩き斬るには背丈が幾許か足りぬ。
無論最上段から振り下ろせば良いだけの話だがされどこの男。
大太刀の先を地面に這わせる下段からの斬り上げ一太刀で、鬱陶しい犬族を両断した。
それだけに留まらず、勢いそのままガロウの胸元まで刃を届ける。ガロウ、抜刀済とはいえ抜かされた嫌な気分で剣を交えた。
「そん大太刀、桜陽の刀じゃなかんど」
「当然だ、島国の猿が握る刃と同じ括りにするな」
髭面が相手の背丈より長い大太刀を指差す。
大太刀の剣士、喰って掛かる態度が大也。形こそ小さいが己の出身地の雄大な様を引き合いに出す。
ガロウが唾を地面へ一吐き、赤色の刀を両手で握り、頭上迄柄を持ち上げる。交わる武器毎敵を両断する得意の構え。
「最上段『蜻蛉の構え』──貴様、さては示現使いか」
「ハンッ! そいはまたわぜっか古か話じゃ。『関ヶ原の除け口』確かに憧っるが900年も昔ん話ぞッ!」
どちらが先に仕掛けるか?
暫く構えたままの姿勢で心中だけの争いを続ける両者。
示現流──。
嘗て桜陽が日本と呼ばれていた頃。薩摩地方の地侍がこぞって用いた必殺の剣。
ガロウの剣は似て非なる紛い物だと自ら捨てる。
一撃必殺こそ同じだが我流を極めるべく研鑽を重ねた結果、滾る刃を手中に収めた。
ガサッ!
「──フンッ!」
英雄ローダも遂に最初の敵と遭遇。
黒い皮鎧を纏うコボルト3人が木陰から姿現す。
銛を槍の如く突き出し相手の頭を狙い打つ。我ながら力の乗った良い一撃だと推測した。
ガンッ!
「な、何だと?」
コボルトが牙を食い縛り銛の突出に対抗。
牙に真正面から当り弾かれるローダの一撃。歯で鉾先を相殺するとは全く以って想定外。
──此奴本当にただの犬族? 狼男の間違いじゃないか?
想像以上な敵の強靭ぶりに狼狽えるローダ。兎も角彼の戦いも火蓋を切った。
ルシア、ガロウ、ローダ。それぞれ取り合えずな相手処が割り当てられた。然し未だ手の空いてる者が居る。それも強力な飛び道具を持った敵だ。
「グヘヘ……貴様等全部俺様の方から見えてんだよなぁ」
黒過ぎる観客が独り愉悦に浸る。『全部』の意味が怪し過ぎる。敵味方意に介さず全て打ち滅ぼすと言わんばかりな物騒加減。
ズギューンッ!
ズギューンッ!
ズギューンッ!
語り煽った傍から放たれる赤い熱線。ローダ、ルシア、ガロウ──或いは相対する味方の巻き沿いも厭わない外道なやり口。
だがその何れも見えない何かに弾かれ失せる。
驚き怒りに震える闇の森人女間違いない、あの修道女風情な金髪がとっくに仕掛けた風の精霊に因る護り。
「ヘッ! ざまあねぇな!」
「飛び道具……弱者らしい」
味方にさえ蔑まれるダークエルフのオットォン。赤髪の女武術家、大太刀の剣士。何れも接近戦のみを良かれとする輩。
──ケッ! お、俺様がぁ。この俺様だけがマーダ様に盾突いたあの女を殺れる! 精々今の内に踊ってな!
オットォン、暫く口を閉じる。彼なりの狙い処が在るのだ。
「おぃ手前ッ! 武術家なんだろッ、何だその形は!」
「何言ってんだか全然判んない。私は託児所の保育士が本業。今日だって貴方達さえ来なければ子供達と遊べていたんだから!」
バッ!
黒いヴェールとマントを脱ぎ捨て相手に投げつけるルシア。カチューシャだけ頭に残し白一色の修道服に一瞬で着替えたその様は武道僧さながらといった処。
その流れで黒タイツを履いた悩ましい脚で踏み込む。敵の脚を潰しに掛かる踏み蹴り。後退して避けた自分を不覚と感ずる敵の女。
美麗が過ぎる武道僧。然も語るまでもなく彼女は腕っぷしだけの女性ではない。
「風の精霊達よ、私に自由の翼を」
──彼を闇の住人と相手させる訳にはいかない!
風音がルシアの金髪を通り抜ける。何者にも劣る気ない落ち着いた凛々しき声音。
されどルシアの心中決して穏やかでなかった。
自分の機動力を活かし総てを蹴散らす。彼女は増長し過ぎていた。




