第10話『Black of Intruder(漆黒の侵入者)』 A Part
エドナ村襲撃から経ったの4日。規模こそ不明だがまたしても敵襲である。
ルシア・ロットレンは、託児所の仕事を放り投げエドナ村南の深い森へガロウと向かう手筈を整えた。託児所の先生姿で戦地に赴く。
その様子に『俺も征く』と宣言したローダ・ファルムーン。
然し彼は何度も述べるが騎士見習い。剣か代替品が無ければ戦う術を知らぬ筈。
ローダが周囲を慌てて見渡す。
倒壊した家屋の中に槍の様な物を見つける。
迷い無くそれを掴み上げる。先端に返しの付いた鉾先。何故かロープも絡んでいた。
形状こそ似通っているが槍でなく銛。漁村ならではの道具。
「これで良い、悪いが借り受ける。後で必ず返す」
貸し借りする相手が何処にも居ないのだが愚直に黒い頭を瓦礫の山に下げるローダ。
後は凛々しき顔を上げ、無言で『どうした? 早く往こう』とルシアを急かす。
「お、おぃ。ルシア此奴?」
ルシアからの携帯端末メッセージを受け、教会の離れから即座にガロウ・チュウマが合流。
気持ち逸る馬の如き青年の姿を顔顰めながら指差す。
ルシア、独り金髪の頭を抱えた。
英雄ローダから英雄待遇を推し貫く気概が溢れ出る判りやすさ。最早止めるのも憚れる様だと感じた。
「ないだあ? ワイも着いてくつもりか? 良か、じゃっどん遠慮はせんでな」
睨み付ける髭面をローダに寄せ、ガロウが焚き付ける。
エドナ村南の森は大変奥深く、素人が道案内抜きで搔き分けるには非常に苦労を強いるのだ。
ガロウだけは、そんな深い森の道無き道を良く頭に叩き込んでる。彼の地元にはもっと荒れ果てた森が横たわっていた。
ガロウに着いて往ければそれで良い。裏腹的に出来なければ迷子、最悪森に潜む偽りの美女達から精気を吸い尽くされる危険を孕む。
「問題ない」
相も変わらずボソッとローダは応えるのみ。自信の在処が判らない。
ガロウは『真っ直ぐ過ぎるそんなお前が一番問題』と斬って捨てたい処だが、ローダ青年の目が『心配無用』と折れぬ気持ちを告げて来た。
「良っしゃあっ! じゃあいっど!」
たった三人のResistanceが勇気だけで村の石畳を力強く蹴り進んだ。
◇◇
一方、黒い侵入者達。
エドナ村の南に位置する深い森を湛えたアマンという名の山中。進攻の只中を不気味に往く。
コボルト達は元々犬の様に鼻の利く森の生物。彼等に道案内をさせ、気楽な進軍続ける3人の強者達。
「何で俺達がこんな何もないド田舎を徒歩で往かなきゃならねえんだ?」
赤い頭髪生やした褐色の巨躯な女が頭後ろを両手で抱え、如何にも面倒そうな文句を垂れる。全身の筋肉が膨れ上がり自然の鎧を成していた。
「止ん無きこと。何しろあのマーダ様を破った者がこの村に居ると聞く。俄かに信じ難い話だが」
全身が黒い上下の剣士が赤い女へ真面目に応える。
正反対過ぎる低身長。背負った大太刀の方が余程目立つ。黒髪で倭刀とくれば東洋人を彷彿させるが瞳の色だけ氷の様な青さを帯びる。
応えたこの男さえ半信半疑。
彼が忠義を示す暗黒神は、自分達と同じ番号持ちが束になっても敵う訳がない。
そんな化物じみた存在、これ迄一度も御目通り適ったことなどないのだ。
「まあ暇を持て余してたから構わねぇけどよ。ただ……それでも気に入らねぇのが混じってやがる」
この偉丈夫な女。
アドノス島を8割方占領して以来、生きる糧を見失い、この細面の剣士に着き従って暇を潰した。
「道案内の犬共か? 仕方あるまい。この森迷ったが最期、森の女共に捉えられたら女の貴様とて危ういのだ」
段々応えるが煩わしく思えて来た剣士。
彼自身、この女が何故自分に付き纏うのか理解出来ない。興味さえも抱かない。
「違う、違うぜ。一番後ろに居る黒い奴だ。アレこそ森の民じゃねぇのかよ」
「……マーダ様の命だ。余計な詮索無用というもの」
小指で耳を穿り、耳垢を飛ばす色気を捨てた女戦士。振り向かずに殿の異形を蔑む。
応えた小さな剣士さえ実の処、同じ気分に苛立っていた。『俺だけ寄越せば事足りる』言いたい台詞を押し殺す。
「──嫌ってくれて大いに結構。俺等種族の在り方そのものだからなぁぁ。仕方ねえなぁぁ」
前往く二人は小声の悪口。
それにも拘わらず長くて細い黒耳に届いていた。語尾をやたらと伸ばす自己主張。
受けた嫌がらせを寧ろ芳醇なワインでも飲むが如く、気色悪い笑みを満面に湛えた赤目。
闇の賢者、ツギハギの如き縫目が残る顔。頭髪も痛々しい火傷の痕は不毛地帯。
森の賢者たるエルフ達とは似て非なる爪弾き者。
ダークエルフの肌は黒。黒とは光から色彩を認識出来ない状態を示す。
ヴァロウズNo8のダークエルフの男『オットォン』
色彩の内に落とす黒。その意義を此処に示すのだ。




