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第49話『False Testament(偽りの誓約)』 A Part

 ──ハッ!


 エドル神殿跡の監視者、カスード家に連なる者達とベランドナ会合の最中、不意にリイナ・アルベェラータは、()()()()()()()


 無論リイナは死んでいた訳ではなく、それ処かうたた寝すらしていない。

 然し何か神々(こうごう)しい夢に落ちてた自分を元の世界軸へ取り戻した。そんな気分に駆られたのである。


「では御二方をこのジオーネ自ら責任以って御案内させて頂きます」


 赤と黄色、小さな顔に映えるオッドアイを瞬き(まばたき)させながらジオーネ・エドル・カスードが穏やかにリイナとベランドナ、Forteza(フォルテザ)の使者達へ穏やかに告げ、解散した。


 ベランドナ、先程ジオーネ心の声、接触(Contatto)で響いた『敵が聞き耳立ててる可能性は非常に高い』の(くだり)が脳裏を支配し続ける。

 数々の精霊達へ働き掛け、神殿内を(くま)なく索敵(さくてき)し尽くした。(抜け)が在る筈ないのだ。


 ──私の考えそのものに何か落ち度があると云うの?


 ジオーネの案内に従いながら思い込むがないか自身を悔い改めようと思考巡らす金色(金髪)に浮かぶ頭脳。


 一方リイナは未だ夢見午後な気分(にじ)ませ、自分より背丈幼い(低い)ジオーネの背中を追い求めて往く。


 さっき見たもの──火の鳥交えた会話。夢とは思えぬ、されど現実性とてまるでなかった。


 綺麗過ぎる神殿内、足音響かす三者三様。

 特にベランドナの顔、陰り(かげり)具合が如実(にょじつ)に表れていた。


 パタッ……。


 ──綺麗過ぎる? そうか、非現実的だけど他に在り得ない。


「ベランドナ様?」

「わっ、んんっ!?」


 不意にベランドナの足音が途絶(とだ)え、驚き振り返るジオーネ。

 釣られ止まったジオーネに(つか)えたリイナの(からだ)、14歳らしさ(あふ)れた可愛い同様が少年の心揺さぶる連鎖(れんさ)成し得た。


「御二人共、かなり荒っぽいですがご勘弁を」


 ベランドナ、勇ましき顰め(しかめ)面に転じると背負った弓矢を構え、足元目掛け構えた。

 弓矢の先、何も居ない必然──否、彼等を包み込む場所だけが()()()()()()()


「光の精霊達よ、矢尻に集いて穿(うが)つ力を成せ!」


 バチンッ!


 矢尻(やじり)が石造りの神殿、床を(わず)かに削り取る、光の精霊達が爆ぜた電撃の音、鼓膜破るほど鳴り響いた。


「ぐッ!?」


 遂に()()()ベランドナの威力偵察(いりょくていさつ)、神殿が痛みの叫びを木霊(こだま)させた不可思議。神殿跡の石畳に争いの血が染み出す。巨大な化けの皮、()がれた証。


 けれども()とてベランドナに(おと)らぬ抵抗を()()()のだ。再び小綺麗な床へ戻りながら、ベランドナの矢に酷似した矢尻輝く反撃送り返した。


 エドル神殿跡自体が()()、誰も気づけぬ節穴(ふしあな)を呼び込んだ。それは()()見せびらかす()()であった。


 辿るべき敵──常に(かたわ)らに居た現実。

 実体こそ見抜けなかったものの、ジオーネの品格はその幻影の存在だけ気付いていた。

 さらに攻勢を向けた途端、模倣(コピー)され尽くす能力も同様。


 だから迂闊(うかつ)に手出し出来なかったのだ。

 この少年が出せる攻撃はこの世界に於ける最強級、真似されれば即刻自分が殺られる底辺に堕ちるのを知覚していた。


 ベランドナ、自分が放った光の矢尻を()()()()に受ける反撃(カウンター)

 敵の正体を神殿自体と判定する迄はまだ良かった。ジオーネが態々(わざわざ)心の直通(接触)回線を開いて迄、自分へ届けた忠告を拾い切れなかった自分に苛立(いらだ)ち感じた。


「か、風の精霊達よ。守りの障壁と為れ!」


 次なるベランドナの精霊術、雷撃帯びた矢尻の雨霰(あめあられ)を防ぐ為、己が躰の周囲へ風を集めて壁に転化した防御の型。この術式も未だ正体見えざる敵の守備固めに至る必然(コピーされる)承知(覚悟)の上だ。


 ベランドナが巻き起こした風──。

 その場に見えぬ草木の香りを運ぶと共に、これ迄敵が隠し通した血の色も混ぜ合せて届かせた。


「私の扱える精霊達は無限に匹敵(ひってき)する。全て真似し切る前に貴様を倒す!」


 半ばハッタリ、半分本気なハイエルフの矜持(きょうじ)を吐き捨てたベランドナ。

 自らを奮い立たせる為の発奮(はっぷん)。だが彼女の宣言通り、風・水・土・火の四大精霊のみならず、精霊の力はまさに無数そのもの。(あなが)ち嘘ではないのだ。


 ベランドナは争いの最中、旧マーダの思惑に漸く(ようやく)8割方辿り着けた。


 不死鳥召喚──。

 カスード家当主が成し得る迄、己が配下を静寂(せいじゃく)の中へ配した。不死鳥を呼び出すその日まで。

 それを模倣し手に入れた味方を意識毎刈り取り我が物と成す。此れぞ旧マーダの描いた台本(シナリオ)


 だが、だいぶ回りくどい方法論。ジオーネ自体を取り込めばそれで事成すのではなかろうか?

 恐らく出来ぬ理由があるのだ。


 ◇◇


 (すさ)んだ神の都、ロッギオネの中心地アディスティラ──夜の誘い(いざない)


 賢士(けんし)スオーラへ近寄った英雄ローダを『不届き者』呼ばわりした僧兵フィエロの決して(あな)れない棒術。

 されど生まれ変わったローダは、納刀したままの剣で総じて払い除けた。


「も、申し訳ございませんでした……」


 割れた地面へ己の顔捻じ(ねじ)込む土下座と震えた声で、英傑(えいけつ)達へ詫び(わび)を入れたフィエロの哀愁(あいしょう)溢れた姿。

 彼はスオーラへ身分不相応な淡き恋心を抱いていた。


 戦之女神(エディウス神)に仕えし者へ対する婬戒(いんかい)の掟は特段ない。

 されど元修道騎士兵長の娘、加えて賢士へ最底辺の僧兵が抱く恋心。そこら男女の感覚で測れぬ距離(苦悩)感ずるのも止むを得ない。


 往き過ぎた力の在り様示したフィエロへ腕組み軽蔑(けいべつ)の視線送り届けるスオーラの容赦無用。

 愛する彼女へ良い処を存分見せ付けたかった下心なぞ知る由もなかった。


「悪気はなかったんだ。俺は構わない」


 未だ土下座()()し続けるフィエロへローダがぶつけた無愛想。

 上からの冷たき『悪気はなかった』悪気ゼロではなかったフィエロの胸を殊更(ことさら)抉る(えぐる)トドメへ転じた事柄をローダは判らなかった。


 然も結局の処、剣と勝負すらさせて貰えなかった戦士としての自尊心(プライド)までズタズタに引き裂かれた。


「そう言えばその剣、初めて見るけど……」


 出番のなかったルシアがローダの目新しい武器を今さら指差し話題を変えた。剣より正直平伏(ひれふ)したフィエロが余りにも憐れ(あわれ)に思えた。


「嗚呼、流石に無刀はこの先厳しいと思い、ドゥーウェンに頼んで造らせた。金属の剣なら何でも良かったんだが……」


 愛、手向けるルシアに問われ、気を許したのか。

 ローダは、黒い(さや)から僅かに刃の真実覗かせる。けれど何とも異端な姿が顔を出す。


 刃さえも漆黒(しっこく)に沈んでいたからだ。黒い鞘に黒き刃、然も周囲は月明かり(とぼ)しき夜。折角(せっかく)拝見(はいけん)出来たのに増々疑問膨らむ一同であった。


 ダダダダッ! ダンッ!


 突如此方へ駆ける音が4人の若者達の耳を()()()

 闇と静寂(せいじゃく)に乗じる(すべ)さえ知らぬ愚直(ぐちょく)な攻め込み。


 身なり整えぬ騎士にあるまじき無精髭(ぶしょうひげ)

 褐色肌の男が迂闊にも、回避出来ない宙へ自らを追い込んだ(飛び込ませた)状態で、三日月刀(シミター)をフィエロへ最上段から振り下ろす。勢いだけで押さえ込む稚拙(ちせつ)な剣筋。


 フィエロ、両手で握った棒でこれを防いだ。相手は刃、此方は云わば()()()()。けれども斬られぬ余裕(うかが)わせた。


「おぃ、貴様ァ。俺等の居所に入る事は許してやった。だがな、()()と夜の()()()とは修道騎士副長として容認出来んッ! この場で素っ首(そっくび)()ねても文句言わせんッ!」


 ルッソ・グエディエル、副長の座(パワハラ)を理不尽に振り(かざ)した。

 挿絵(By みてみん)

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