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Prologue A Part 『The departure of a failure(出来損ないの旅立ち)』

 西暦という歴史の暦がとうに廃れ、数多(あまた)Technology(技術的革新)と人間達が失われた地球。


 300年程前──。


 適当な歴史の教科書に『Purge of(星屑達の) Stardust(粛清)』と記された事変。

 国境はおろか人類を文明毎焼き払った。


 (ごう)を背負わずにはいられぬ人類が好きに弄った(いじった)この惑星が、未だ青さを喪失(そうしつ)せず孤独な漆黒(しっこく)の宇宙に浮かんでいられる奇跡。


 ()しくも歴史のMöbius(メビウス)が18世紀後半辺りに酷似(こくじ)する時代。


 嘗て(かつて)二度目の世界大戦の引き金と為った国。

 現在『Heidelberg(ハイデルベルク)』と呼称を変えた。ハイデルベルクとはこの地で発掘された人種の名称。


 ホモ・ハイデルベルゲンシス──。

 凡そ(およそ)40万年前、いや60万年前とも言われる同時期の人種に比べ、脳容積が大きく優れた種という研究結果が在る。


 そんな怪し過ぎる過去の意地(プライド)縋り(すがり)付けられた国名。


 ──然しそんな話は敢えて捨て置く。


「──王ッ! ニュルブル王ッ、どうか御拝謁(ごはいえつ)をッ!!」


 時は深夜3時頃。

 ハイデルベルク当主の部屋門を汗だくで必死に叩く伝令を帯びた兵士。


「何だ何だこんな深夜に騒々(そうぞう)しい。ハイデルベルクの名が(けが)れる」


 さも(わずら)わしい態度、()7()婦人を抱いてた最中(悦楽)殆ど(ほとんど)裸の姿で応じるニュルブル王。背後に居る狼狽え(うろたえ)顔の()()()()がシーツで身を隠し震える何ともだらけた(さま)


「も、申し上げますッ! 近衛騎士団がたった1名の族により壊滅(かいめつ)致しましたッ!」


 血と汗に塗れた(まみれた)伝令。

 如何にも命からがら此処迄辿り着いた様子。大層呑気(のんき)夜伽(夜遊び)なぞ目に入らない。


「な、何だと!? ぞ、族の消息は明らかであるか?」


 流石の王も色も失う。

 ハイデルベルクの近衛騎士団は選りすぐりの精鋭揃い。大変狭き(せまき)門を潜り抜けた連中。

 それがたった1人に殺られた。到底容認出来る話ではない。


「そ、それが……」


「何だ? 早く申せ」


 伝令の兵士。

 冷汗なのか、或い(あるい)は此処迄駆けた疲労に寄る発汗か。血も被ってるのでニュルブル王に、彼の焦燥(しょうそう)の意図するものが判別出来ない。


「ふぁ、ファルムーン家。聖騎士『ラムダ』の御子息(ごしそく)!」


「……ば、馬鹿なッ? あ、あの()()だとッ!?」


 兵士は必死に声を絞り出した。されど疲労と焦りから大した声量に届かない。

 然しそれでもニュルブル王の肝を潰すには充分過ぎた。


 聖騎士ラムダ・ファルムーン──。

 ファルムーン家は代々王家へ優秀な騎士を輩出(はいしゅつ)した御家柄。


 特にラムダの長男『ルイス・ファルムーン』は傑出(けっしゅつ)した存在。史上最年少で近衛騎士に任命。

 他に類を見ない剣術は神童と呼ばれ、ハイデルベルク王家期待の星であった。


 ファルムーン家は一夜にしてその立場を喪失(そうしつ)

 罪を問われた父ラムダは聖騎士を剥奪(はくだつ)され投獄(とうごく)。ファルムーン家自体もハイデルベルク中、治安最悪の()()がある地。『ズゥロング』に居を移された。


 肝心の容疑者、ルイスは行方不明。

 近衛騎士最大の禁忌(きんき)。国抜けをしたと(ささや)かれた。


 ファルムーン家にはルイスと血の繋がりがないもう独りの息子『ローダ』が居る。

 彼は兄ルイスと正反対。親の七光りで如何(どう)にか騎士見習いにしがみ付いてられる凡庸(ぼんよう)な弟。


 幸か不幸か、神童と力の差歴然で彼自身は罪を問われなかった。失墜(しっつい)したファルムーン家で怠惰(たいだ)な人生を送る選択を赦免(しゃめん)された存在。


「──ルイスを捜し(さがし)に行きたい? 何馬鹿な事を! 貴方迄ファルムーン家の威光(いこう)を追う必要ありません!」


 ローダの母、リィーダは息子の申し出に目を吊り上げ猛烈に反対。優しかった面影が『ルイス』の名を挙げた途端(とたん)、鬼へ転じた。


「貴方も何か言って下さいッ!」


 義理の父、ラムダが面会室で憮然(ぶぜん)とした態度。

 馬鹿を言い出した息子を止めるべく、失意の父すら引き合いに出す母親。


 ローダは残された最後の家族。だから母として、そして妻で在るが故、当然の権利に縋る(すがる)


「──()()()()()()()()()()()()お前など何処へなりと往けば良い」


 髭だらけ、やつれ顔の罪人ラムダ。真顔で力無く呟く(つぶやく)と後は何も言わず口を閉じた。


『約束された息子ではない』


 父の不可思議な台詞。

 18歳で尚且つ(なおかつ)恵まれた家で育ったローダにはまるで解せない言葉。


 然も大罪人扱いとはいえ、『兄を捜しに往きたい』ローダ当人的には普通の感情が、何故これ程まで叩かれるのか?


 ローダ・ファルムーン、剣技のみならず世間の波風を余りに知らな過ぎた。


 かくしてローダ・ファルムーン、出来損ないの騎士が兄ルイスを探すアテ無き旅路へ出立した。

 これがやがて世界を揺るがす第一歩になろうとは夢にも思わなかった。

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