Floor8-6/30[ア・サデン・エンカウンター・アンド・メモリー・オブ・トラジェディ]
正直な話
「これで良かったのか?」って疑問に思いつつも、
前回までのネオヤスケ回との差別化を図ろうと思うとこれくらいが妥当な気がしなくもない。
――西暦3257年某日・地球某所の飲食店――
「お客様、申し訳ございませんが……
こちら相席で宜しいでしょうか?」
「ええ、構いませんとも」
休日……より厳密には大型連休の最中。
観光客でごった返す飲食店の片隅にあるテーブル席の一つ……
「やあ兄さん、失礼するよ」
静かに食事を楽しむ青年の向かいに座るのは、
恰幅のよい……或いは肥満体とも言うべき褐色肌の大女。
整いつつも野性味溢れる顔立ちに、黒い艶やかなドレッドヘア……
ステレオタイプの黒人然とした風貌の彼女は、
初対面である青年にも気さくに話しかける社交性の持ち主であった。
「お兄さん、この辺の人かい?」
「いえ、何度か来てはいますが定住までは」
「そうかい。確かに、住むにはちっと派手過ぎるかもしれないねぇ」
不自然なほどすぐに打ち解け意気投合した二人は、
その後世間話に花を咲かせながら暫く行動を共にする運びとなり……
「兄さん、仕事は何してんだい?」
「お恥ずかしながら、此れと言った定職には就けておりませんで……。
短期のアルバイトを転々としたり、
多少腕に覚えがあるので賞金首を捕まえたりといった程度ですね」
「へえ、そりゃ大変だねぇ。ま、こんなご時世じゃそんなのでも仕方ないさね」
「……マダムの御職業は?」
「アタシかい? ……まあ、酷いもんさね。
恵まれた生まれで親にも愛されてたってのにそれを理解もせず、
若いころから意味も無くワルぶって好き勝手生きて……
気付いた時には何もかも失った挙句、
刑務所の中にしか居場所がなくなっちまってねぇ」
獄中で猛省した大女は更生を誓い、
事実模範囚となり比較的短めの刑期で出所する。
「そっからは真面目に生きようと思いもしたけど、
どうしようもなく遅すぎたみたいでねぇ。
稼いでく為には、無理してでも身体を張ってくしかなかった」
「と、仰いますのは……」
「ユーシャーになったのさ。
幼いころ、運良く強いスキルが幾つも覚醒してたんで、
家族に勧められててね……。
当時はそんなのダサいって突っ撥ねちまったけど、
ほんとにダサいのはどっちなんだいって話さね。全く滑稽だよ」
「……例え如何なる経緯があるにせよ、
ユーシャーは誇るべき職であると認識しております。
……宜しければ、ユーシャー・ネームと所属をお伺いしても?」
「ああ、いいとも。何なら改めて自己紹介しておこうかね。
改めて名乗らせて貰うよ。
アタシはアマラ・ベイリー。
またの名をプリンセス・グランドクロスオーバー……
ユーシャー・チーム"ブラックウォッシュ・スーパー・スターズ"の幹部
"多様性四天王"の一角を張らせて貰ってる"重装魔法騎士"さね」
そう、この大女こそは前回ラストにて呆気なく死亡したネオヤスケの同僚……
即ち悪名高きユーシャー"ブラックトーバー"の配下であったのだ。
「……只者ではあるまいと踏んでおりましたが、
よもやユーシャー様に御座いましたか。
それも……非礼承知ですが、よりにもよって"BSS"の所属とは……」
「ハハッ、まあそう言われても無理はないさね。
と言って、アタシもブラックトーバーのヤツは実際嫌いでね。
これっぽっちも敬っちゃいないし、忠誠だって誓っちゃいない。
騙し騙し、上辺だけの態度で媚び諂ってテキトーやってるだけのことさ。
あんなクズ野郎、誰が好くもんかってんだ」
「……そこまで嫌悪して尚、BSSに身を置かれるのですか」
「『他のチームに移籍すればいいのに』って?
そうだねぇ、普通のユーシャーならそうできただろうねぇ。
けど生憎、アタシは普通じゃなくてねぇ」
土産物屋の商品を手に取り眺めながら、アマラはぽつりと呟く。
「怖いのさ」
「……恐怖、ですか」
「ああそうさ、恐怖だよ。"何であれ失う"のはね。
アタシはどんなモンスターやダンジョンより"喪失"を恐れるよ。
一度失っちまったら、取り戻せなくなる気がするからね……。
実際、刑務所にぶち込まれた時だってそうだったのさ。
家族、地位、仲間……あの時失ったものは結局、何も取り戻せなかった」
程なく店を出た二人は、商店街をゆっくりと進む。
「ユーシャーとして名が知れて出世して稼げるようになって、
何度か『取り戻して』みようともしたけど、どうにもダメでねぇ。
確かに満足してるハズなのに、なんだろうねぇ……
心にぽっかり穴が開いて、そこから満足が抜け落ちてくみたいでねぇ。
それで誓ったのさ。『もう何も失わない』ってね」
「……BSSを脱退しないのも、喪失への恐怖が故であると?」
「そうともさ。……ブラックトーバーは確かに最低のクズだよ。
今のご時世に人種がどうとかそんな時代遅れな考えに囚われて、
バカみたいに暴れちゃ敵ばかり増やしてんだからね。
けどそんなクズのお陰で生きてるヤツがいるのもまた事実……
経歴の所為でどこも雇ってくれず、
フリーランスでやろうにも勝手がわからない……
そんなどうしようもなく中途半端なアタシを
『黒人っぽい見た目だから』ってだけで雇って面倒見てくれたのが、
他ならぬブラックトーバーだけだってのは間違いなく事実なんだよ」
歩き続ける二人は、やがて河原に広がる公園に辿り着く。
「……そしてこうも思うんだ。
『こんなアタシはBSS以外に居場所なんてない。
BSSを追放されたら他に行く所もないんだから死ぬしかない』ってね」
「つまり、生きる為に仕方なく、ですか。
とは言えそれでもあのブラックトーバーに上辺だけの忠誠で尽くした上、
BSS幹部の地位にまで上り詰めるとは……
安っぽい言葉になりますが、並大抵ではないでしょうに」
「なあに、慣れちまえばどうってことないさ。
命令に従っておけば悪いようにはされないし、
言われた仕事をしっかりやってれば結構いい暮らしができるからね。
そういうのもあって、アタシはあいつに依存しちまってんだろうさ」
そのまま歩きながら話し込むこと暫し。
二人はどんどん人気のない区域へと進んでいく。
「自慢じゃないけど、これでもアタシは顔が広くてね。
もっと言うと、BSSの身内より他所の奴らと仲が良かったのさ」
「ほう……とすると、チーム外のユーシャーと共闘するといったことも?」
「ああ、多かったね。何なら他所のユーシャーと仲良すぎて、
身内からの人望なんてほぼなかったぐらいさ。
特に記憶に残ってるのは、
やっぱり『シン・スーパーヒーロータイムズ』ってパーティの子たちでねぇ」
『シン・スーパーヒーロータイムズ』
十代から三十代の男性五人からなるこのユーシャー・パーティは、
その名に違わず人々をモンスターの脅威から守るなど
所謂"ヒーロー然とした社会奉仕"を掲げる特徴があった。
魔法効果を持つ特殊な装備を用いて戦闘形態に"変身"したり、
各自専用の巨大ビークルを召喚し乗り回すような派手な戦いぶりから、
小規模かつ若輩者の集団にも関わらず根強い人気と支持率を誇っていた。
「"ナムルマンジロー"、本名ナゼダケ・ジロウ……
"ウィードカイザー"、本名モウ・ゲコン……
"ソーシャル・トゥルース"、本名オサヅキ・クマジロウ……
"トゥルーヒーロー・ヴィジョン"、本名ダイゴロー・ルミンチー……
"ジャスティス・コレクター"、本名ケイ・ゲンジロウ……
みんないい子だったよ。
ユーシャーの将来を背負って立てるような逸材ってのは、
ああいう子たちのことだったんだろうねぇ」
「……失礼。少々気になったのですが、
何故"過去形"なので?」
青年の口から出たのは一見、有り触れた何気ない問い掛けであったが……
その瞬間、アマラの表情が目に見えて一変する。
「『何故"過去形"なんだ』って?
そんなの、決まってんじゃないか……
全員モンスターに殺されて、死んじまったからだよ」
さて、もう分かり切ってるけど青年の正体は……




