Floor8-5/30[ディサイシヴ・ブロウ・ザット・リーチズ・ザ・ブレイン]
あっさり決着!
『そもそも考えてもみろ。
何故テンプル騎士が安土桃山時代の日本なんぞに居た?
組織そのものが14世紀には解体されたのに?
対して織田信長の生誕さえ16世紀まで待たなきゃいかんのだぞ?
弥助の来日なぞ語るに及ばずだ。時代がズレ過ぎている』
場面は例によって『遮道豆田園地帯』の山林。
毒虫カーネイジ・バグによる攻撃ならぬ"口撃"は尚も苛烈に続いた。
『九恒河沙歩譲って仮にテンプル騎士団が解体後も秘密裏に動いていたとして、
連中の目的は聖地エルサレムへ向かう巡礼者の保護と、聖地そのものの防衛だ。
なのに何故態々東のハジまで渡らねばならん、意味不明だろう。
……或いはイスラム教徒に聖地を奪われた騎士団が
新たな目的を掲げ日本へ渡っていたとして、
そもそも古の日本に黒人奴隷が流通した証拠など存在せんのだ』
「……!! そ、そのようなことがあるかっ!
出鱈目を言うなで御座る!
そもお主、日本に黒人奴隷がいた記録がないなどと吐かしおるが、
逆もまた然りであろう!
日本の権力者が黒人奴隷を買っていなかった証拠も存在せぬ以上、
誰も『日本には黒人奴隷など居なかった』とは断言できぬので御座る!」
『……「悪魔の照明」だとでも? 無駄な足掻きだ。
いいか、ネオヤスケ。
貴様がどこまで日本史を知っとるか私は知らんし、
私自身日本史について取り分け詳しいわけでもない。
だが一つ確かな事実として、
日本人は古来より超人的に勤勉な一族でな。
身の回りの物事は何であれ例外なく事細かに、
様々な形で記録する習性を持つ。
加えて日本人は見境なく貪欲かつ淫乱でもあり、
劣情の具現化と発散を目的としたポルノ創作……
即ち春画の発達も著しく、その内容も多岐に渡る。
極論「この世の全てを春画の題材とする」のが日本人なのだ。
とすると、仮に古の日本で黒人奴隷が流通していたならば、
黒人奴隷に関する記録や、
黒人奴隷の登場する春画が存在しとらねばならん。
だが事実、そのようなものは存在せん』
「戯言をぬかすでない!
そのようなもの、社会全体で隠蔽し、
現物も破棄すれば済む話で御座る!
不適切な内容の出版物など国の品格を貶める癌!
ならば為政者はその存在を隠蔽し破棄するに決まっておろう!」
『では隠蔽と破棄の証拠はどこにある?
そもそもそんな初歩的な真似で出版物を根絶できると思うか?
島原天草一揆に恐れをなした江戸幕府による禁教令の時代も
秘密裏に信仰を維持する隠れ景教徒は存在した。
伝来から六十余年程度の舶来宗教にすら命を懸けるのが日本人だ。
まして原始的な欲望に基づき起源を辿れば室町や平安初期まで遡る春画を、
為政者如きが如何に動いたとて根絶できるわけもない。
事実現代に至るまでそれら出版物は残存し、
今や考古資料として扱われるほどだ。
その量たるや膨大、かつ内容も多岐に渡る。
そして既に述べただろうが題材となるのはこの世の神羅万象ほぼ全て。
とすれば……ここから先の文面は言う迄もあるまい?』
「……黙れっっ!
黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 黙れぇぇぇー!」
毒虫の"口撃"に返す言葉のなくなったネオヤスケは、
握り締めたままの"神獣覇王刀-貴理矛"を振り上げる。
……当然、右目に突き刺さった節足など認識すらしていない。
「やはりモンスターは人類の敵!
この場で成敗してくれるで御座るぅ!」
『やれやれ、結局暴力か。
まあ、そっちの方が分かりやすいが』
「余裕ぶっていられるのも今の内で御座るぞぉ!
いざ奥義! 射云轟之雷嵐剣!」
『……他の技はないのか?』
振り上げた刀、その七本の刃に魔力を纏わせ振り下ろす。
すると魔力は巨大な斬撃の形となり、
大気ひいては空間をも断ち切らんばかりの勢いで飛来する。
対するカーネイジ・バグはその場から動かず大地を固く踏みしめると、
静かにある一点へ狙いを定め……
『到ッ』
「な、ああっ!?」
静かに、然し力強く水平方向へ跳躍する。
同時に最低限の動作で魔力の斬撃を躱した毒虫は、
そのまま弾丸の如き速さで、困惑するネオヤスケとの距離を詰め……
『屠鋭ァッ!』
芸術的なまでに洗練された飛び蹴りの姿勢でもって、
黒人サムライのがら空きになった顔面、その右目
――より厳密には、右目に突き刺さった自らの節足――へと、
強烈な打撃を叩き込む。
「ぐううあっがああああっ!?
目っ、玉ああああああっ!?」
節足はより深く突き刺さり、激痛が一気に襲い来る。
ネオヤスケは漸く己の右目が置かれている状況を再認識したが、
時すでに遅く……
「あっがあがっぐがっ! ぐげええあああああ!?」
蹴りを受けて右目を貫通した節足は、
眼窩底をも突破し遂に脳へ到達……
その一撃が決め手となり、ネオヤスケは絶命する。
「――――」
『存在せん弥助伝説の幻影に溺れながら、
昏く深い冥府の底まで沈んで逝け……!』
難攻不落の防御を誇る最強のサムライを自称した男の、
余りにも呆気ない末路であった。
『……さて、では早速"手掛かり"を頂くとしよう』
言うが早いか、カーネイジ・バグは鉈を手に取る。
ネオヤスケの頚を刈り取る為である。
(本当は頭蓋を切り開いて脳を直接採取したいところだが……
既に脳を損傷させてしまった手前、形が崩れるのは避けねばならんからな)
毒虫がそうまでネオヤスケの脳に固執する理由……
それは脳から彼の記憶――特に主君と同僚絡みの情報――を引き出す為であった。
(……結構傷が深いかもしれないな。料金は割高になるだろうか……)
魔法が発達したこの時代に於いて知覚生物の脳は重要な情報源となる。
討ち取った敵等主に死者の脳を魔法で分析し
その思考や記憶を様々な形に変換し出力するのは
しばしば尋問等よりも効率的な情報収集法として用いられていた。
『……ほいっ、と。
うん、キレイに斬れたな。
あとはこれを手提げ頚桶に入れて、と……』
あたかも果物か茸でも採取するが如くネオヤスケの生首を回収した毒虫は、
その後程なくして別行動中であったユガワやエンザンと合流……
互いの経過を報告しながら遮道豆田園地帯を後にしたのであった。
[――といった所でしテ]
『なんと、ネオヤスケ傘下のユーシャー部隊を全滅させて下さったのですか?』
[はイ。連中ときたら隠しもせず馬鹿正直に
『遮道豆田園地帯を侵略し領土にする』などと宣いましテ、
放置しておけば如何なる被害が出ていても可笑しくありませんでしたのでネ]
『いやはや、助かりましたよ……
あのバカが一騎打ちに拘ってたから問題なかったものの、
物量で押し切られていたら流石にどうなっていたか……。
本当にありがとうございます』
[何の何ノ。
お礼でしたら新人エンザンに言って差し上げて下さいまセ。
ユーシャー部隊の壊滅は事実上彼の手柄に御座いまス]
『おや、そうでしたか……。
でかしたぞ、エンザンくん。
やはり流石魔王家の逸材なだけあるようだな』
『ヴッッ、ヴァアッ』
[そう謙遜なさらズ、新人エンザン。
確かに私も作戦立案や補助はさせて頂きましたガ、
さりとて貴方の圧倒的な武力が無ければMrに部隊の存在を告げ知らせるべク、
おめおめ逃げ帰る程度が精々だったでしょウ。
我々の勝利と安慶ハ、間違いなく貴方の功績でもあるのですヨ]
『ヴッゴ? ヴアアッ……』
これにて悪徳ユーシャー"ブラックトーバー"が配下
"ダイバーシティ・デヴァス"の一人が撃破された。
空く迄今後手に入る情報次第ではあるが、
ともあれかの忌まわしき存在の討伐に向けて
確かに前進したのは間違いないであろう。
……マスラオウの自我の扱いについてちょっと悩む今日この頃




