猟奇殺人:二つの想い[前編]
えぐい表現が苦手な方は少し気を付けてください。
幸い、前編にはそのような表現はあまり含まれてませんが、グロを含む描写があります・・・・。
推理がまだまだ未熟なのはあしからず、です・・・。
では、どうぞ!
カフェの中。
黒く、もじゃもじゃした髪の毛に、私服のパーカーとジーパンの、美登河篠弼の携帯が鳴った。
「もしもし、美登河ですけど・・・。」
返事をすると、携帯のスピーカーの向こう側から声が聞こえてきた。
「美登河か?!俺だ、俺俺!」
「詐欺ですか?」
「違う!西條辭だ!」
「ああ、警部。なんかの用ですか?」
電話をかけてきた暑苦しい男の名は、西條辭萩悟。神奈川県警の警部だ。特殊捜査課の人間で怪事件を主に担当していて、神奈川県警に所属していながら、全国をまわっている。怪事件を担当する刑事・警部が少ないのも彼が全国をまわる理由の一つだが。
「事件なんだ!大体察しがつくだろ!?俺が連絡してきた時は!」
「そうですか、事件ですか、良かったですね。毎回毎回、なんで僕に連絡するんですか〜。」
篠弼がコーヒーをすすりながら、西條辭に問う。
「お前には世話になってるし、まぁなにしろ頭がキレるからだ。さあ、手伝ってくれ。」
「わかりました。直ぐに行きますよ。場所はどこですか?」
「その意気だ。場所は・・・。戛野池だ。」
篠弼は少し固まった。なぜなら戛野池の辺りは・・・
「あそこですか。ま〜た随分と気味の悪い場所で・・・。」
戛野池は心霊スポットとしても有名で、篠弼曰くそこに住む人間の気が知れないと。それくらい気味の悪い場所なのだ。しかし、普通に住んでる分には異常はないので、説明には篠弼の偏見も含まれているが・・・。
「まあ、とりあえず戛野池駅に来てくれ。」
篠弼は通話終了のボタンを押し、携帯を閉じた。
「かったるいな〜。」
篠弼はため息をつき、立ち上がった。
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「あ、西條辭さん。」
篠弼は戛野池駅に着き、西條辭を見つけた。
「『あ、西條辭さん。』じゃねぇよ!どんだけ待たせる気だお前は!?」
「いえ、ものの三十分じゃないですか・・・。」
「三十分は遅れ過ぎだ!」
「はあ、そうですか〜。」
「まあ、とにかく。現場は近い。それと、もうひとつ。」
「なんですか?」
「これまで以上に・・・くるぞ?」
「興奮が?」
「違う!・・・吐き気。」
「そんな酷いんですか?」
「だからお前を呼んだんだ。」
「警部はいつでも呼ぶじゃないですか。」
「と、とにかく今回はかなりマズイからな。心して見ろよ。」
「警部がそこまで言うと吐かない自信が無くなってきましたよ・・・。」
二人は、問題の事件があった現場についた。
現場は被害者が住んでいたマンションの部屋。1LDKのごく一般的な部屋。
しかし、明らかに一般的な1LDKに有ってはならない無い物体が居間にあった。
部屋に入る前から強烈な腐臭と鉄の臭いがした。
「うわっ。こ、これは強烈ですね・・・。見た目はもちろん・・・匂いも。腐臭が半端じゃないです。」
「ウプっ。二回目でも吐き気がする。うぅ・・・」
「あ、やめてくださいよ、ここで吐くの。」
冷静に篠弼は西條辭を止める。殺人事件の現場で嘔吐されたら匂いも見映えも数倍悪くなる。それだけ理由ではないが。
「現場の重要な証拠をゲロでけされたらもう警部としてやっていけなくなりますよ?」
「ぅぅうぇ・・・。重々承知している、そんなことは。ぇえと、被害者は・・・山下謙治郎、35歳の独身、職業は・・・ェロゲーム会社の社員だ。」
「え?なにゲーム会社ですか?」
「いや、だから・・・エロゲーム会社の社員だ。」
もちろん篠弼は西條辭がなんて言ったかは理解していた。篠弼はエロゲームという言葉を発するたびに嫌な顔をしている西條辭を見て楽しんでいた。
・・・篠弼の性格の悪さは筋金入りだ。
「まぁ、西條辭さんが変態なのはわかりましたけど、さすがにこの殺人は酷いですね。」
「へ、変態ではない!・・・だが確かに、この犯行は明らかにやり過ぎだな。なにか恨みでも買っていたのか、コイツは。」
山下謙治郎の遺体は1LDKの居間に仰向けに倒れていた。
首元にはロープで絞められた痕があり、死因は絞殺であろう。だが、吐きそうになる原因は他にあった。
・・・身体のいたるところ鋭利な刃物で刺されたり、えぐられたりされた痕があり辺りには肉片と血が飛び散っていた。
遺体の腹付近は血でぐちゃぐちゃになっていて、良く分からなかったが、居間を探したところ、遺体から小腸や大腸といった内蔵器官が引きずり出されていたことが判明した。
身体は縛られており、おそらく山下が動かないようにと念を押して行った処置であろう。
「遺体のありとあらゆる穴から血や粘液が流れ出ていた痕跡があったので死因は絞殺で間違いないでしょうね。」
「ああ。だがかなり猟奇的な犯行だな。首を絞めながら身体を刺したのか。拷問でもしたのか?・・・ん?」
ここで、西條辭が異変に気付いた。
「そうなんですよ警部。この犯行は二人いないと実行は難しいんです。被害者の頸動脈を十分に圧迫して殺害するには、両手を使わなければ現実は難しいです。しかし両手を使っているのでそれと同時に被害者の腹部を刺すのは魔法やらフォースなり使わない限り不可能と言っていいですね。」
「共犯者がいるのか・・・。厄介だな。・・・いや、必ずしも同時でなくても良いんじゃないか?例えば絞殺してから腹部を刺せば。」
「そうなんですけど、よく見てください、警部。血痕がところどころ薄く、というか半透明になってるの、わかりますか?」
「あぁ。それがどうした?」
「人間は死ぬとき、身体中の筋肉が緩みます。つまりいたるところから体液が出るのです。鼻水を含む粘液も例外ではない。絞殺という行為によって涎等の体液もでます。そして血がところどころ薄くなっている、ということは・・・。」
西條辭が篠弼が言いたかったことに気付く。
「なるほど、ここまでくっきりと半透明になるということは、血が出た後にそこに粘液が落ちたということか。」
「完全にそうとは言えませんが、調べればわかりますね。」
「・・・まあ、容疑者が二人で、共同犯行だということも分かった。しかし、一つ言おう。」
「なんでしょうか、警部?」
西條辭の顔が険しくなる。
「目撃者は皆、この部屋からは一人しか出ていく所を見てないと言い張っているらしい。お前が遺体でごそごそしている間に連絡が来たのだが。時間も合っているし、服装も皆の説明を照らし合わせたところ、青い髪にセーラー服と、完全に一致していた。」
「なんだって?」
篠弼は少し驚いた。まさか、目撃者全員が一人しか見ていないなんて。
「とりあえず、情報によると、一番怪しいは星月ルナ、20歳の独身。職業は・・・大学生だが、被害者とは知り合いで、周りからの情報によると、仲はよくなかったようだ。」
「・・・ん?ルナってことは・・女性ですか?」
「ああ。だから、コイツは違うと思っている。」
「待ってください。その、星月って人しか目撃されてないんですね?」
「事件現場、ではな。だが他にも目撃情報はある。この住居の近くで、明らかに挙動不審な男が一人。そして服装が怪しい男が一人。」
「まだ怪しい人、いるじゃないですか〜。何が一人だ、ですよ〜。」
「挙動不審な男の名前は・・・風上隆一。32歳の独身。職業は被害者と同じ・・・ぇ、エロゲーム会社だ。最近、被害者と喧嘩や抗論があったらしい。」
「そして、もう一人は・・・?」
「怪しい服装の男は西谷利政。38歳のサラリーマン。」
「怪しくないじゃないですか。」
「しかし、よく聞け。服装が黒いニット帽、サングラス、黒いダウンに黒いズボンだ。」
「うわっ、黒ずくめ・・・。」
「と言うわけで、考えられるのはこの三人だ。」
「ちなみに警部、彼らの身長は?」
「星月が157センチ、風上が185センチ、そして西谷が159センチだ。」
「そうですか。・・・・おっと、警部。これを見てください。これで完全に単独犯の可能性は消えましたよ。」
西條辭は、篠弼の指差した床をよく見た。
「足跡・・・よく見ると別々の靴だな。被害者は靴下だからな。二人か。」
「それにあれを見てください。」
篠弼は天井近くに鉄棒があるのを指した。
「これは?何だ・・・?」
「被害者が運動に使っていたと思われます。腕の筋肉がすごいですよ?」
「確かに。」
被害者の写真を改めて見ると、かなりマッチョだ。
「傷、被害者の重さに耐えきれずついたものでしょうね。」
「おい、これは?」
次は西條辭が証拠らしき物を発見した。
「台ですね。・・・。血がついてますけど・・・・。何かに使ったんでしょうか?」
「みたいだな。血痕があるということは、事件発生時においてあったと思っていい。犯行に使われたみたいだな。お前は何かひらめかないのか?」
「いいえ、まだ何も。・・・まずは容疑者、達に会ってみましょう。何か分かるかもしれませんし。」
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「あの〜。なんか用ですか?警察の方が。」
「いえ、一つ確かめたいことがありまして・・・。」
西條辭は星月ルナの家を訪ねた。
「ある事件で、現場付近で貴方が目撃されてるんですよ。よろしければ、一昨日の夜10時頃、何をしていたか教えて頂けますか?」
「一昨日ですか・・・。」
「はい、そうです。」
星月は少し考えてから、口を開き話し始めた。
「私は、夜10時には、大学にいました。弟と一緒に。」
「それは何の用事で?」
「行った実験のレポートを仕上げてました。」
「・・・なるほど、それだけですか?」
「はい。」
「それを証明出来る友人・知り合いはいますか?」
「あ、はい。一緒にレポートを仕上げていた友達がいます。あとは、大学の教授が。」
「はい、わかりました。この度はご協力ありがとうございました。」
西條辭は軽く会釈して、次の目的地へと向かった。
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「あの、警察の者ですが・・・。」
「ん?何の用?俺が何かやらかした?」
西條辭は今度、挙動不審だった風上隆一に話を聞いた。
「いえ、そういう訳じゃ無くて、ですね〜。とある事件が起こった時刻に貴方が目撃されてまして。一昨日の夜10時頃、なにしてました?」
「俺は・・・。ブレイクダンスの練習〜。」
「ブレイクダンスの練習?それを証明できる友人・知り合いなどは?」
「ああ?いねーよ。いつも一人で練習してんだもん。悪いか?」
「い、いえ。ではまた来ると思うんで。そのときはまた、よろしくお願いします。」
「面倒くさいな。」
「この度はご協力ありがとうございました。」
西條辭は風上隆一に軽く会釈をして、最後の目的地に向かった。
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「あの〜。警察の者ですが、聞きたいことがあるんですけど〜。」
本日三回目でさすがに疲れた西條辭だったが、仕事はやらねばならない。西谷利政の家に来ていた。
「警察~?警察が俺に何の用だよ?」
「実は、先日起きました殺人事件であなたが現場付近で目撃されてまして・・・。聞きたいことがあります。一昨日の夜、あなたは何をしていましたか?」
手短に話し、本題へ持って行く。
「ランニングだな。」
「黒いニット帽にサングラス、上下に黒い服で、ですか?」
「ジャージの代わりに使ってるんだ。」
「しかし、夜にサングラスですか?」
「街灯がまぶしくてな。俺をうたがってんのか?刑事さん。」
駄目だ。態度からしてこいつはこれ以上、何も話さそうだ。
「いえ、大丈夫です。ご協力ありがとうございました。」
西條辭は警察署に戻り、証言を整理した。
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「警部!」
篠弼が待ち合わせ場所に現れる。
「おお、美登河。よく来たな。」
「警部!証拠を探しに行く前に、とりあえず僕の推理を聞いてください〜!」
「あ?ああ。」
「僕なりに調べたんですけど、星月さんって双子なんですよね?」
「あぁ、話によるといるみたいだな。まぁ私はまだ見てないが。・・・何故それを?!」
「あんまり僕の情報力をなめないでくださいよ。とりあえず僕の推理を聞いてください!質問とかは後で、です。」
「わ、分かった。話していいぞ。」
篠弼は推理を話し始めた。
『まず、星月ルナには双子の弟がいます。星月綾。20歳です。彼は髪を伸ばせばルナさんと容姿の区別がつかなくなります。
ここで、彼らは被害者と会う約束をした。知り合いなんで、電話番号なら知ってるでしょう。被害者の家で待ち合わせでもしたのでしょう。そこで、弟の綾が被害者の頭を鈍器で殴り、気絶させた。
彼らは被害者の身体をロープで縛り、いつでも殺せるようにした。
彼らは被害者が起きてから犯行を実行した。首を徐々に絞めながら、腹などの身体の部分を殺さない程度に刺し、苦痛を味わえさせた。
おそらく、泣きながら謝ったんでしょうね、被害者は。塩の結晶が顔についてましたから。
しかし、星月姉弟は許さなかった。
彼らは被害者の身体をいたぶり続け、やがてクライマックスで最高の苦痛を与えた。
薄れゆく意識の中、彼らは被害者の内蔵を腹からえぐりだし、見せた。
もはや生きる気力を失った被害者はそのまま力尽き、死に至った。これが僕の推理です。』
「動機は?」
「動機はエロゲームのキャラクターデザインや、ストーカー行為じゃないですかね。彼が製作スタッフとして出てるゲームの一つに、星月ルナに似たキャラクターが登場していました。ストーカー行為はつい最近友人が教えたらしいです。その時初めて知ったような顔をしていた、という話をその友人から聞きました。」
「分かった。・・・お前の推理は確かに筋が通っている。しかし・・・。」
「しかし・・・?」
「犯行時刻、星月ルナは大学の講義に出ていた。教授も同級生も話している。」
「・・・講義に出ていた!?」
「そうだ。つまり、美登河。お前の推理は成り立たない。」
篠弼は唖然とした。
その後二人は被害者の部屋を調べたが、鉄棒と死体のすぐ横にある柱にある傷くらいしか証拠は見つからなかった。
次回は真相を載せまーす。
事件のミステリー部分は、簡単に分かってしまうと思いますが、その辺はハードルを下げて読んでください。m(_ _)m
矛盾点などがありましたら、教えてください。
それでは、また次回お願いします!