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 詰め所で待っていたオリバーの元にもたらされた報告はマリアとゾームたちを見失ったというものだった。


 くそっ!何のためにじりじりとこの場で待っていたのか……

 イラつくオリバーをスティーヴが宥めた。


「落ち着けオリバー。見失ったと言っても逃げた方角はわかっている。これから森を全員で捜索する」


「僕も行く」


「お前はここで待っていろ。俺が必ずマリアちゃんを助けてお前の元に連れてくる」


「お願いだ、僕も連れて行ってくれ!とてもここで待っている気にはなれない。頼む!足手まといにはならないから!」


「騎士でもないものを連れて行くわけには……危険だし……」


「じゃあ僕は勝手に行く。勝手にマリアを探す!」


 オリバーの決意を聞いてスティーヴはため息をついた。


「待ってろ、今班長に許可を貰って来てやる。お前は馬にも乗れるようだし足手まといにはならないだろう。でも良かったのか?お前船に乗ってヘーゲル王国に行く予定だったんだろう?」


 スティーヴに言われてオリバーはハッと気づいた。

 そうだ、僕はマリアに別れを告げた。もう二度とここには戻らないつもりだった。目の前の男、スティーヴにマリアを任せるつもりだったんだ。

 今の今までそんなことは頭の隅にも思い浮かばなかった。もう船は出てしまっているだろう。時間通り来なかったオリバーを会長は見限っているに違いない。でもそんなことは少しも残念でなかった。

 ヘーゲル王国に渡ることが出来るチャンスだったのに、トシュタイン王国の奴らに復讐をする第一歩だったというのにオリバーの心を占めるのはマリアへの心配ばかりだ。

 そしてマリアを救い出すことをスティーヴに任せることもできない。スティーヴにマリアのことを託したはずだったのに。彼のことを信用していない訳ではないのにマリアの危機を目の前にしたらどうしてもスティーヴに任せて待っていることなど出来ないのだった。


「許可は下りたぞ。だけどオリバーは俺たちの後からついて来てくれ」


 準備が整い出発するという時、オリバーはあることを思い出した。


「ちょっと待っていてくれ!」


 急いで自分の荷物のところに駆け寄ると楕円形の球をポケットに忍ばせた。

 追跡の魔道具だ。マリアは片割れのペンダントを肌身離さず身に着けていると言っていた。今も身に着けていればマリアを探し出せる。後はどうやって周りの騎士に気づかれずにこれを使うかということだ。

 最悪、これがバレてもオリバーに魔力があることを知られてもマリアを助け出す。とオリバーは決心を固めた。


 







 オリバー達は今、遠巻きに森の中に建つあばら家を注視している。

 身を隠しながら小屋に近づき様子を窺っていた二名の騎士が戻ってきた。


「ここで間違いないようです。中に複数の人の気配がしますし、わずかに聞こえてきた会話からすると奴らはトシュタイン王国の奴らに間違いありません」


 ついにオリバー達はマリアの居所を探し当てたのだった。


 森に入り騎士がゾームたちを見失ったあたりまで馬を走らせる。オリバーはこっそりポケットの中の魔道具を握りしめた。


「こっち!……だと思う」


 オリバーが右手の方角へ馬を走らせる。程なく数頭の馬が走り過ぎたような痕跡が見つかり一行は痕跡を頼りに馬を走らせた。


 そんなことが数度ほどありオリバー達は森の奥のあばら家にたどり着いたのだ。

 あばら家は嘗ては猟師が使っていた小屋のようだが打ち捨てられて何年も経っているようだった。木で作られた小屋は苔むし草が生え一部は腐って羽目が外れ掛けている。その隙間から内部を窺うことが出来るのだが、同時に中から気付かれるリスクも高い。


「いやっ!やめてーー!」


 慎重に中を窺っていた騎士たちの耳に悲鳴とガターンと物が倒れるような音が聞こえた。


「マリア!!」


 思わずオリバーが飛び出す。

 オリバーは必死に走ったが小屋の戸にたどり着く前にバンッと戸が中から開けられた。


 中から出て来たのは縛られたマリアに剣を突き付けたゾームと三人の男。

 マリアは胸元やスカートを破られ頬に殴られたような跡があった。眼鏡は掛けていなかった。頬を殴られて外れてしまったのだろう。


「マリアを離せ!!」


 オリバーが叫ぶとマリアの目が一瞬驚愕に見開かれ喜びの色が瞳に宿った。思わずオリバーに駆け寄ろうとしてゾームに引き戻される。


「くそっ!上手く巻いたと思ったのに……てめえら近づくなよ!この女を殺すぞ!」


 オリバーの足が止まる。騎士たちも迂闊に動けない。ゾームたちが油断をした隙をついて小屋に突入しようと考えていたのだがその計画は失敗だった。


「チッ、このままじゃ逃げるのは無理か?いや待て、もう少しすればこの国に潜入していた仲間が……俺一人なら逃げられるか?どっちにしろ時間稼ぎは必要だ……」


 ゾームは口の中でブツブツと呟くと騎士たちに向かって言った。


「食料と水を持ってこい!持ってこなければこの女の……そうだな、まずは耳でも削ぎ落そうか」

 

 そう言ってにやりと笑い小屋のすぐ外にあった大きな石に腰掛ける。

 その前にマリアを跪かせ剣をマリアの耳にピタリと当てた。


「お前らは俺たちを取り囲め」


 三人の部下に指示を出すと三人は剣を構えゾームとマリアの周りを取り囲んだ。


「やめろ!マリアに傷をつけてみろ、お前らみんな殺してやる!」


 オリバーの魔力が膨れ上がる。駄目だ!今魔力を暴走させたら絶対にマリアを巻き込んでしまう。オリバーは必死に魔力を抑え込んだ。


「待て、今食料と水を持ってこさせる。彼女に傷をつけるな!」


 スティーヴが班長と呼んでいた騎士がゾームに答え二人の騎士に指示を出した。その二人は頷くと馬に乗り去って行く。もちろん馬鹿正直に食料と水を取りに行ったわけではない。おそらく彼等は大きく迂回して小屋の背後からゾームたちの隙を狙うのだろう。


「頼む!彼女を離してくれ!僕が代わりに人質になる!」


 オリバーの申し出をゾームがせせら笑った。


「馬鹿か?お前、男なんか人質にする訳……ん?お前、船着き場に居た若造か」


 ゾームの目が細められた。口元がつり上がる。


「この女はお前の女か。ふへへ、いい気味だ。そうだ、食料が来るまでいい暇つぶしを思いついたぞ。おい、若造!丸腰で前に出ろ!」


「マリアを解放してくれるのか?」


「する訳ねえだろ、いいから前に出ろ!」


「やめろオリバー、危険だ。奴はお前を恨んでいるんだぞ」


 後ろからスティーヴが引き止めるがマリアを人質に取られている以上オリバーに選択肢は無かった。


「おおっと、騎士の奴らは動くなよ!」


 ゾームがマリアの髪を掴んで引き寄せ喉元に剣を当てる。


「頼む!みんな動かないでくれ!」


 オリバーが騎士たちとゾームの中間あたりまで進むとゾームが部下の一人に耳打ちした。

 そいつはニヤリと笑ってオリバーの前に立った。


「いいか、一切抵抗するなよ。あの女が大事ならな」


 そう言いながら男はいきなりオリバーの腹に蹴りを入れた。


「ぐっ!」


 思わず前かがみになるオリバーの後頭部に拳を叩きつける。

 地面に転がったオリバーの背を男は思い切り踏みつけた。


「「オリバー!!」」


 マリアと騎士たちから悲鳴が上がる。


「やめて!オリバーを傷つけないで!」


 オリバーに駆け寄ろうとしたマリアは髪の毛を掴んで引き戻された。


「きゃあ!」


「マ……リア……に……手を出すな……ゴフッ」


 必死に言うオリバーに向かってゾームは楽し気な表情を見せた。


「まだ女を庇う余裕があるか。おい、もっと痛めつけてやれ」


 蹲ったオリバーに二度三度と蹴りが入れられる。


 飛び出してオリバーを庇おうとするスティーヴを他の騎士が抑えていた。


「待てスティーヴ、もうすぐさっきの二人が小屋の後ろに着く。彼らがあいつらの注意を引く。その一瞬に突入だ」


 マリアは耐えられなかった。オリバーはマリアのせいで痛めつけられている。マリアが人質になっているからオリバーは反撃できないのだ。

 目の前の刃を見つめごくりと唾をのむ。これの前に身を投げ出せば……




 変化は空から急に降って来た。


 ギャオオオーーー!


 耳をつんざく鳴き声と共に巨大な影がゾームとマリアの上に落ちた。

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