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第十五話

 

 意識を失ってどれくらい経ったのかは分からない。目が覚めた時俺がいたのはベッドの上だった。だが建物の中にあるベッドではない。地面に布を敷いた簡易的なベッドだ。辺りを見渡すと暗くてよく見えない、それに視界もかなり狭い。


「······シオン?」


 薄目で周りを見ていると隣にいたシオンと目が合った。


「ふ、文也ッ——よかった。目はまだ痛むか? 痛むなら回復魔法を····」


「ああ、大丈夫大丈夫。全然痛くないからさ」


 すっかり忘れていた。視界が狭くなっていたのは右目を失ったからだ。シオンが処置してくれたようで俺の右目には眼帯がつけられていた。こんな状況だが眼帯をつけると中学の頃の病を思い出す。


「ごめん····私が守ると言っていたのに守られたのは私の方だ」


「いやいや、勝手に俺がしたことだから気にするなって。それよりもここは何処だ?」


「洞窟の中だ。昨日は目標地点までは辿り着けなかったから道中のここで一晩を過ごした。今は朝だ。辛いようならもう少し休もう」


「いいや、大丈夫」


 俺たちのいた洞窟は山道にある洞窟だった。雨が降っていたようで地面はぬかるみ少し歩きにくい。歩きにくいのだがそれよりもシオンが暗すぎる。俺はこういうとき何をすればいいのか全く分からない。そういえば俺が暗い雰囲気の時、小林は巧みなトークスキルで俺を笑わせてくれた。だけど俺は小林のようにできない。


「シオン。この辺りで身体を動かしとこうぜ。あんまり鈍るのは良くないだろ?」


「あっ、ああそうしよう」


 話さなくても身体を動かせば少しは気分がよくなるはずだ。ここまで来ても変わらずゴブリンはいるもので三、四体の群れに狙いをつけて練習をすることにした。


 幹部と戦った後、ゴブリンなら余裕だろう。


「ウブッ——」


「文也ッ——!」


 そう油断していた俺が馬鹿だった。右目を失ったせいで死角が広がり敵の攻撃を受けやすくなっていたのだ。催眠スプレーを投げつける戦法も全ての敵に使えるわけではない。


「大丈夫か。お前やっぱり視界が····」


「大丈夫大丈夫。すぐに慣れるから」


 痛みに耐えつつそしてシオンの協力を借りながら何とか五十体ほどのゴブリンを倒しきった。幹部と実際に戦ってみて分かったが今の俺の強さでは話にもならない。これくらいの特訓では足りないくらいだ。

 敵を倒しながらかなり山道を進んでいったが一向に景色が変わらない。そのせいで精神も削られる。


 昼頃まで休みなしに進んでいると体力の消耗が激しい。ゲームならスティックを倒すだけだったが今は足への負担を考えて歩かなければならない。だが徐々にシオンの顔に笑顔が戻っていったのでよしとしよう。


「なあシオン、思ったんだけど新しく仲間とかはいらないのか。二人だとこの先無理があるだろ?」


「それは····あまり期待できない。名誉ほしさに加入を望むものもいるが勇者パーティーとしての理想と実際の旅の辛さとの差で諦めるものも多い。仲間選びは慎重にしなければならないんだ。それに····」


「それに?」


「最前線には多くの強者達がいる。だから今は仲間を増やさなくても····二人きりでもいいだろ」


「······お、おう」


 これが向こうの世界で言っていた甘酸っぱいという感覚か。漫画で甘酸っぱい思い出なんていう言葉が出てきた時によく小馬鹿にしていたが今はもうできない。きっとシオンみたいな女の子がクラスメイトにいれば俺は心底惚れていたんだろうと思う。


 昼を過ぎてからも俺たちは歩き続けた。道中現れた魔物を倒しながら進み、溜まった疲労は半端でない。回復薬も乱用するわけにはいかないし、かといってシオンの魔力は戦闘時に必要となる。


「はぁ····やっと開けた道だ。早く街出てきてくれぇ」


「お前の気を落とすから言いたくはなかったがこの先に街はないんだ。辺りは危険だから人が好んで住もうとはしなくてな」


「ま····まじか」


 つまり一つ目の街が相当レアだったんだ。回復薬も調達できないためシオンはあれほど買い込んでいたということか。だが止まるわけにはいかない。俺達は身体に鞭を打ち遅れを取り戻すために進んだ。だけど悪いことばかりではなく収穫は大きい。シオンとの連携がうまくいき戦闘に慣れてきたのだ。


「——それでさ、その日初めて小林と会ったんだよ。本当にいいやつでさあ、親友だよ」


 肉体的にはしんどかったが話は弾み精神的にシオンもかなり落ち着いてきた。


「そうなのか。······小林さん、小林さんか」


 だが小林の話をし始めてしばらくするとシオンの顔が曇り始めた。

 俺は小林のすべらない話を披露しただけだ。俺の話し方が原因でかなりつまらなかったのかもしれない。


「その····小林さんとはどういう関係なんだ。本当に親友なのか」


「親友かどうか? そうだな。俺が一方的に思ってるだけかもしれないけど、少なくともあいつは向こうの世界で一番信頼できるやつだったよ」


「信頼できる······ 私よりもか?」


「いや、まあシオンも勿論信頼してるよ」


「そんなに楽しそうに話すのは初めて見た。本当にただの親友か」


「え?」


 心なしかシオンの声色が暗くなっていた。少しヒステリックさを感じる話し方だ。


「小林さんのことをどう思ってるんだ? 好きなのか? 恋愛的感情は?」


「は? え? 勘違いしてないか。俺はそっちじゃないって。小林は男だぞ」


「あっ、えっ、そうなのか」


 シオンの声色は元に戻り喋り方も元に戻った。いつの間にかシオンはとんでもない勘違いをしていたのだ。小林とのBLなんて想像しただけで吐き気がする。あいつはただの親友だ。


「な、ならお前のいた世界で····恋人とか好きな異性とかは」


「恋人とか好きな異性······いたっけ」


 そう言われてみれば誰かいた気がする。言われて初めて気づいた。名前が思い出せないがもしかすると二次元の女の子だったかもしれない。でもどこか違和感がある。この俺が誰かと付き合っていたなんてありえない。


「いない····のか。そうか。フフフ、いないのか」


 シオンの身体は少し震え今度は声色が明るくなった。


「よく分からないけど、嬉しそうでよかったよ」


「····ああ、もしこの戦いが終わった時やりたいことが一つ増えた。ありがとう文也」


「どう····いたしまして?」


 詳しくは聞かないことにした。シオンに幸せな日を迎えて欲しいのは俺も同じだ。


 その日も俺達は野宿をすることになった。進むにつれ魔物が強くなっていったため警戒は怠れない。だけど一つ思い出したことがある。


「シオン、よかったら今日も勇者パーティーの話を聞かせてくれないか?」


 そう聞くとシオンは少し考え込んだ。一気に距離を詰めすぎてしまったのかもしれない。


「····全てを話していては時間がないかもしれないな。それにこの先何が起こるか分からない。だけれどお前には私の仲間の最期を知ってもらいたい。だから他の冒険の話はまた今度聞かせよう」


「おう。話してくれるなら俺は何だって聞くぜ」


「そうか。長くなるが聞いてくれ」


 そしてシオンは仲間の”最期”について話を始めた。


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