表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お祖母ちゃんとギャグ

作者: 橘 蜜柑


 祖母は、笑わない人だった。

父に聞くと、厳格な家に育った人で、笑ったところを見たことがないという。


「まあ、ばあさんの家は厳しかったことに加えて、親も短命で、そのうえじいさんも早死にして、ああいう暗い性格になってしまったのかもな」と父は言った。

「だから、俺は笑子と結婚したんだ。名前からして、そうだろう。よく笑って冗談をいう明るい女性がよかったんだ」

「それで、お父さんは今幸せ?」

「ああ、毎日が楽しいよ」と父は、少し照れ気味に笑った。


父の言う通り、対照的に、母は明るく、よく笑う女性だった。

冗談もいうし、ギャグもよく飛ばす。

関西人は何か面白いことを言わなければ気が済まないのか?と思えるほど、ノリつっこみに長けていた。

漫才をしているわけでもないのに、受け答えやギャグが遅れると、「遅いわ!」と突っ込まれる始末であった。


そんな家族のにぎやかな会話を尻目に、お祖母ちゃんは、離れの別室で一人食事をとっていた。

私が、「お祖母ちゃんも一緒にご飯食べよ」と誘っても、

「あんたたち、うるさくてかなわんわ」と不機嫌そうな顔をするのだった。


お祖母ちゃんは悪い人ではなかった。

お母さんがおおらかなせいで、おっちょこちょいだった私に注意もしてくれたし、礼儀作法にも口うるさく、おかげで私は同年代の子に比べて、言葉遣いや立ち振る舞いもきちんとできる子に育ったと思う。生け花や茶道も教えてもらった。


「お祖母ちゃん、どうしたら笑ってくれるんだろうなぁ」と私なりに考えて、

当時はやっていたギャグを不意打ちでかましてみたり、物まねをしたりしてみるのだが、お祖母ちゃんはニコリともせず、こちらを見つめているので、「…失礼しましたぁ」と退散する他なかった。


年月が流れ、私は大学生になった。

家から離れて、1人暮らしにも慣れたころ、祖母は病にかかり、入院生活を送っていた。

私は、休みのたびに、帰省して祖母を見舞った。

そして、性懲りもなく、つまらないギャグを言っては、祖母を笑わせようとしていた。ギャグは不発に終わったが、私の見舞いを祖母は喜んでいるようだった。


ある日、祖母危篤の連絡が入った。

知らせを受けて、すぐに始発の新幹線に飛びのって帰宅したのだが、30分ほど前に、祖母は臨終を迎えていた。あと一歩で、間に合わなかった。私が泣いていると、父が言った。


「亡くなる前にな、お祖母ちゃん、笑ってた」

「え?」

「お前のギャグを思い出してたみたいでな、詩織って面白いわ…って言って、クスクス笑ってた」


祖母の顔を見ると、口元が微笑んでいて、優しい表情をしていた。


お祖母ちゃん…遅いよ。

もっと早く笑ってよ。


私は、泣き笑いの顔で、お祖母ちゃんに心の中で文句を言った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ