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死神は市松人形さんと営業中2

「ハハハっはぁ〜久しぶりに笑っちまった。コイツは傑作だぜ、なぁ!姐さん!」

「ええ、とってもユーモアのある子で私とっても気に入っちゃったわ」

莫大な霊気に当てられて、土下座のような格好で耐えるしかないハッチに市松姐さんは笑みを深く頭を垂れるハッチの頭を優しく撫でる。

「どうしたのかしら?顔を上げてちょうだい?これじゃあ話もできないわ」

優しげに問いかける市松さんの声に顔を上げられるなら上げたいが、市松さんとサディ子の放つ霊力の嵐によって吹き飛ばされないようにするだけで精一杯だ。

「ちょっ!本当にすみません!上司から直属の上司に聞けって言われてて!流れるままにここに飛ばされたんです!だから!俺実のところ!まだ自分の仕事内容も把握できてないんです!本当に許して下さい!」

ハッチの本気の懇願に目の前のふざけた霊気を垂れ流している二人は顔を見合わせると、なにかを思い出した様に霊気を引っ込めた。

「あ〜そりゃあ気の毒だぜ。そりゃあ市松姐さんが悪りぃや。今回はお前のせいじゃねえなぁ」

「あらあら、そうよね〜前任者は、なにもやってくれなかったから、魂ごと根絶やしにしちゃったけど、今回の子はなんだか期待できそうじゃないかしら?」

吹き荒ぶ霊気が収まりようやく座り直す事が出来たハッチだが、益々聞き捨てならない会話の数々が飛び交っているのを聞き逃さなかった。

「え?前任者がいない?じゃあサディ子さんはなんで卒業式の会場で俺の事を待ってたんですか?」

「そりゃあ前、前任者が居ないんじゃお前を迎えに行く奴が居ねえから仕方ねえだろうが」

なんだろう、来ては行けない場所にきてしまったんではないだろうか?

いや、まだ決めるのは早計だ。

サディ子はともかく、市松さんはまだ話が通じる相手だ。

「それで、結局俺のここでの仕事ってなんなんですか?」

「そりゃあお前。お前の仕事は私達幽霊が活躍できる環境を用意する事だろうがよ」

私達?

今サディ子は私達と言ったのだろうか?

サディ子は本人から幽霊だと聞かされていたが、一応上司ではなかっただろうか?

というか、今の会話に二ほど聞き逃せない言葉があったのを、当然聞き逃がさなかった。

「あれ、サディ子さんはこっち側ですよね?」

「あぁ?私はどう見てもこっち側だろうが」

テーブルを隔てた二対一

勿論、死神サイドの俺が一で、市松さんとサディ子が幽霊で二だ。

二人はこちらに見せ付けるように莫大な霊力を後ろに放ち、座布団からひっくり返りそうになるのをどうにか踏みとどまるので精一杯だ。

分が悪いのは当然だが死神成り立てが逃げられる相手ではない。

「すみません、許して下さい……マジ勘弁して下さい……もう帰らせて下さい」

「あらあら、怖がらせちゃったかしら、でもアナタには分かって欲しいのよ。私達幽霊もここから先の時代やっていけるか分からないから不安な子達も多いの。それに名前がある私達幽霊は霊力だけはたっぷりあるから、死神さんの方で幾らでも使ってくれていいわよ。ただその代わり……」

一層の笑みを浮べ、市松さんは口元を釣りあげる。

空気は淀み、霊力の高まりと共にテーブルの間で空間が歪み始める。

あの歪みはそのまま市松さんの力という事で間違いない、あの歪みをこちらに向けられたが最後、死神としての魂がただでは済まないと本能が告げている。

冷や汗の伝う背中で震える奥歯を噛み締めていると、市松さんはフッと笑みを和らげた。

「死神さんは私達幽霊の環境を整える、当然分かっているわよね?」

学校で戦いを教えていた教官など比にもならない化け物が目の前には居る。

いままで綺麗だと思っていた目の前の相手は、実は一番関わっては行けない相手だったのかもしれない。

死神の仕事は三つ、

魂を霊界へ連れて行くこと。

天使と戦う事。

そして霊力を集める事だ。

つまり、多くの霊力をもつ彼らは、死神にとっていわば資産家に近い存在だ。

枯渇の一途を辿っている霊力の補充の為に営業周りをして来る死神がハッチという事だろう。

しかも営業しようにも『商材』がない……

つまり、売り物がない状態から彼らに対して『商材』ここでいうのであれば(幽霊が活躍できる環境を)作り上げなければならないという事だ。

背中に嫌な汗が滴るのを感じながら、虫けら同然の存在と化したハッチを無視した二人の談笑は続いていく。

「そういえば、サディ子聞いたかしら?花子最近子供生まれたらしいわよ、なんでも人間との間の子供らしいけど、あの子も随分独り身だったから、私も心配していたのよ〜」

「おう!そういやちょっと前に会ったとき腹ぁデカくなってやがったからなぁあ!ちょっくらこの後営業周りに行って来るぜ」

「あらそうなの?なら花子の新築に丁度いい市松人形があるのよ!この市松人形、花子の家に持って行ってくれるかしら?」

市松さんは隅においてあった市松人形を新聞紙で包装し、サディ子へ押し付けるように手渡した。

嫌々ながらもサディ子は小さな市松人形を受け取ると、小さなため息のあと、荷物を持つ様に肩に紐をかける。

「チッ、しょうがねえなぁ!祝い事にケチつけてらんねえや!仕方ねえ花子のとこ行くついでだからなぁ!持って行ってやらぁ」

サディ子は渋々と立ち上がり、受け取った市松人形を担ぎ上げる。

サディ子について行くのは中々に嫌なのだが、家に取り残される事は避けなければいけないと、死神の本能が告げている。

「……すみません、お邪魔しました」

「ええ、可愛い死神さん、皆の事どうかよろしくね」

余裕の滲む澄ました笑顔の奥の瞳は笑っておらず、見定めるような不気味な視線に一つ会釈を返して背を向けて重い気持ちを押し殺し古民家を出て行くのだった。


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