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新たな依頼者



「ゼノさん!」


「あれ?私達もいるのに挨拶なし?」


「うんと、リューリューさんとピチュリさんとハースさんと…」


「俺だけ覚えてないのか!」


「ロエナさん!」


「だから、ロエナって呼ぶな!」


 朝日に飛びかかろうとするロエナルドをハースが腕一本で簡単に止めてみせる。

 たぶんローブや杖などの装備からすればロエナルドは魔法を扱うのだろう事は分かるが、だからと言ってそんな簡単に止められる程弱そうには見えない。


「ロエナルドさんは凄く優しい人なんだね」


「お、俺は優しくなんかない!」


「凄く優しいよ?」


「優しくなーい!」


 だからロエナルドが本気で襲いかかる気はないのだと朝日には分かったのだ。


「何でお前らが付いてくる」


「「「面白そうだから!」」」


「お、俺はまだ納得してないからだ!」


「はぁ…」


 ゼノは呆れて大きめのため息をつく。

 これまでもこんな感じだったのだとゼノの苦労が見て取れる。だからこそ朝日は彼らが魔物と戦う姿が想像出来なかった。

 こんなに騒がしくて面白い彼らの本気の顔はどんなものなのだろうか、と。


「んで、どこに行くんだ?」


「知らないで付いてくるのか」


「今依頼なくて暇でしょ?」


「私、暇すぎて死んじゃいそう」


「僕は別に何処でもいいと思ってるけど?」


 相変わらず騒がしい彼らは朝日とゼノの周りでウロウロしながらも露店や屋台に立ち寄って普通に楽しんでいる。


「朝日、そろそろ着くぞ」


「なんだ、ゼノの家か」


「じゃあ、私帰ろっかなー」


「何言ってんのよ!ゼノ家に行くって事は!」


「事は?」


「朝日の料理が食べられるじゃない!」


「「なんだって!?」」


 明らかに大袈裟なリアクションを取る三人に対して、ロエナルドはふん、と鼻を鳴らしながら朝日に目を向ける。


「本人が作るって言ってないのに食べる気満々とかお前ら乞食か」


「ロエナちゃん拗ねないの」


「だから、リューリュー!ロエナと呼ぶなって!」


「どうしてロエナルドさんはロエナって呼ばれるの嫌がるの?」


「女っぽいからだとよ」


「僕の名前はロエナルドなんだからロエナルドと呼べ!」


「アイツらは気にするな。入れ」


「うん!お邪魔します!」


 じゃれあいをしている四人を放っておいて朝日とゼノは先に家に入る。


「ここがゼノさんのお家…」


「少し前までは殆ど寝に帰るだけだったけどな」


 ゼノの家は凄くシンプルだった。

 よくある三角屋根の家で、小さめの庭も付いている。庭は芝生になっているだけで日を遮るように植えられた大きめの木以外は何もない。

 入ってすぐがリビングのようで、机と椅子が一脚づつポツンと置かれていて、キッチンには使った形跡が全くない。


「だから、寝に帰るだけの家だって言っただろ」


「二階に寝室?」


「上は寝る部屋と後二つ部屋があって仕事道具とか素材とか適当に置いてる」


「見ていい?」


「あぁ」


 二階への階段を上がりながらリビングの全貌を見渡す。物が何にもないと部屋が広く見えて、凄く寂しい場所に思えた。


 二階は左右と真正面其々扉があった。

 床には何度か物を落としたのか凹み傷があって、壁にも黒い線状の汚れが付いている。

 こう言うところで垣間見えた生活感に朝日は此処がゼノの家なのだと途端に実感が湧いてきた。


「剣も二階に持って上がるんだね」


「いつ敵が襲ってきてもいいようにな」


「え!帝都ってそんなに危険な所なの?」


「…念の為だ」


 少し妙な間があったが、ゼノはとても有名人だ。ここに来るまでの間もかなりの人に声をかけられていた。露天や屋台の人はもちろん街ゆく人たちや冒険者などにも挨拶されていた。


「有名になると危険だもんね」


「あ、あぁ…」


 朝日が何に納得したのかは分からないが、取り敢えずそれでいいか、とゼノはこれ以上はこの話に触れないことにした。


「これ何?」


「あぁ。それは前に受けた依頼人が渡してきたんだが、使い道が全く分からない」


「これは?」


「それは前に受けた依頼中にアイラが拾ってな。以前は此処をパーティーのホームとしても使ってたからな。要らないものとか適当に置いていったんだ」


「じゃあこれも?」


「…それは昔の仲間が置いていった物だな」


 少し懐かしい、と一瞬だけそんな表情をしたゼノを朝日は見逃さなかった。

 窓際の小さな棚の上に載せられた写真は笑顔の六人組。見た事ある顔がゼノを含めて4つ。そして見た事ない顔が2つ。

 すっかり枯れてしまった花がその前に添えられていた。

 これだけ部屋が寂しいのに花を飾る気概はあるのか、と少し疑問に思いながらも枯れてしまった花の代わりにポシェットから花を数本取り出して代わりに飾っておいた。枯れないように小さな石を添えて。


 ただ部屋を見て回る朝日に食べ物を作ってもらう為だけに付いてきた三人は一階のポツンある机の周りで待っていて、ロエナルドはキッチンを物色していた。

 階段を降りてきた二人に催促するように声をかける三人。


「ねぇ〜朝日〜、何か作ってよ〜」


「おなかすいたぁ〜」


「俺、肉!肉がいい!」


「お前らいい加減にしろ」


 朝日を庇うように言うのはロエナルド。あれだけゼノの脱退理由だからと責め立てた彼がこんなに庇いたてるのは何故なのだろうか。


「朝日は昼から予定がある。お前らに構っている暇はない」


「え〜!それなら先に言ってよ!」


「勝手についてきたのはお前らだろ」


「でも言っといてくれたら帰ってのに!」


「そうだ!じゃなかったらこんなとこまでついてこないっつーの!」


「なら帰れ」


 ぶつぶつ文句を言いながら家を出て行く三人。思ったよりも素直に出ていったなぁ、と朝日が冷静に見ているとロエナルドからお叱りを受ける。


「何故お前は嫌なものは嫌とハッキリ言わないんだ!」

 

「嫌じゃないからだよ」


「じゃあやると言えば良かっただろ!」


「でも、ここゼノさんのお家だし。ゼノさんが良いって言わなきゃ作らないよ?」


「お前はそうやって全部人任せなのか!」


「…人任せ」


 朝日はそこの言葉が妙に心に響く。

 確かに全部人任せにしている所はある。何が正しいのか、何が良くないのかわからない時は決まって誰か何許可するのを待っていた。

 クロムが暗殺者だと気付いた時もセシルが大丈夫と言えば自分の感覚はもうどうでも良くなったし、ゼノやアイラがダメと言ったものは絶対にしない。

 自ら考える時は決まって自分の何かをかけられるときだけなのだ。例えば命とか。


「人任せに何かを決める奴は早く死ぬぞ」


「うん。考えるようにする」


 朝日がそう返事するとロエナルドは頷いてそのまま家を出ていった。


「アイツだけはマトモなんだ」


「ロエナルドさんって騎士目指してただけなのかな?」


「どう言う意味だ」


「こう、なんだろう。精神、って言うのかな?少し騎士ぽいなぁって」


 ゼノはそういった朝日の感覚の鋭さを知っているからこそ、ロエナルドの今までの行動がどうだったかが妙に気になり始めた。


「あっ!いけない!僕、そろそろギルドに行かなきゃ!」


「あぁ、送る」


「大丈夫だよ?街の中だし!」


「その街中で攫われた奴が何を言ってる」


「皆んな過保護な気がする」


「過保護なものあるか」


 ゼノはいつものように朝日の頭をくしゃくしゃになるように強めに撫でて朝日はへへへ、っと少し照れたように笑った。



 ギルドに向かった朝日は昨日と同じように足りなくなったらポーションを追加して、何もする事がない間はチェルシーの横で大人しく座って販売状況を確認する、という冒険者らしからぬ仕事をしていた。

 困っている人を助ける、冒険者はいわば何でも屋みたいなところはあるが、これは完全に薬師の仕事だ。


「依頼を受けてもらいにきた」


「どのようなご依頼ですか?」


 少しキビキビした男が麻の袋を握りしめてギルドの受付におく。カチャンといい音がなって、その袋の中身を周りに知らしめる。

 職員は今日も依頼が来たと少し張り切った様子でとびっきり愛想良く彼に接する。

 何故なら相手は有名な鍛治師、名工キャッスルなのだから。


「この石みたいな素材なんだけどよ」


「あぁ、これ。存じ上げてはおりますが…」


「これをいっぱい欲しいんだ」


「え、これを…ですか?」


 見せられたのはとある魔物のフン。その辺に落ちているよくある物だ。当然フンと言っても臭くはない。どちらかと言えばこれ自体は鉄くさいような泥臭いような感じだ。


「実はな、昨日とある少年から短剣の作成依頼を受けてよ?持ち込まれた素材がこれなんだが、驚くことに鉄よりも剣を撃つのに最適だった」


「もしかして…少年って…」


 受付はデジャブだ、と言わんばかりにチラリと横目を向ける。ポーションを販売するチェルシーの横でちょこんと大人しく座っているとびっきり愛想のいい少年へ。

 その視線に気づいた依頼者は同じく隣の長い列の先に目を向ける。


「あ、昨日の少年!」


「おじさん!いい剣出来た?」


「おう!勿論だ!後でき店にてくれ!俺の自信作だ!」


 本当にデジャブだった、と職員が頭を抱えたのを朝日は見ていなかった。









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