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「ユリウス!久しぶりね!貴方に中々会って上げられなくて申し訳ないと思ってたの!」


「お久しぶりで御座います。王女殿下」


「もう、私達の仲でそんな堅苦しい呼び方はよして頂戴。キャロルでいいわよ?それより後ろの殿方達をご紹介頂けるかしら?」


 そう言って腕を組もうとする彼女からニコニコ笑顔で躱すユリウス。

 朝日は何となくユリウスが彼女を避ける理由が分かった気がした。


「キャロル殿下にご挨拶します。アサヒ・ヨウノと申します。今日はお会い出来て大変光栄でございます」


「…あさひ、ねぇ」


 動揺を見せるキャロライナーにお上品に挨拶して見せる朝日。美しさ、お上品さ、優雅さ…全てに目を奪われた周りはこれは落ちる、と完全に認めてしまった。


「コホン…ユリウス。後ろの方も紹介して頂戴」


「セシル・ハイゼンベルクとクリストファー・ランダレス。二人とも白騎士で副団長と特攻隊長をしております」


「以後お見知りおきを」


「お見知りおきを」


「そう、いいわ。セシルも綺麗だから私の侍従にしてあげてもいいわ。クリスは、綺麗だけど粗暴そうだから無しね。それより貴方…」


「はい、キャロル殿下」


 キラキラの微笑みを送った朝日。キャロライナーは少し頬を赤らめつつ、多分バレていないつもりなのだろう、舐め回すような視線を朝日に送る。


 王女キャロライナーの意図はこうだろうか。目当てのユリウスと綺麗なセシルは近くに来ていいけど乱暴そうだからクリスはいらない。朝日はこれから見定める、という事だろうか。


「あ、挨拶は終わりよ。お茶を用意しているの。皆んないらして」


 明らかに二人分しか用意させていないテラス。王女がお茶を招くにしてはかなり簡素な茶会。まぁ、元々この人数で押しかけるとは言っていないので仕方がないかも知れないが、まぁ教養のある貴族ならメイドやバトラーに指示を出して直ぐに用意させるだろう。


「王女殿下、お茶はまたの機会に」


「キャロルよ!キャロル!」


「キャロル……殿下、お茶は…」


「キャロルって呼んだわね!本当は殿下もいらないのだけれど。今日はそれで問題ないわ!」


 如何したものか。

 老人が言ってたように素直で器量も良い。ただ言い方を変えれば、我儘で顔だけの姫。

 見た目はかなり豪華に着飾り、王族としての威厳はある。メイドやバトラー達が彼女の態度に関して無関心と言うよりは心配しているように見えるから一概に悪い子というわけでもなさそうだ。


「ユリウスはここに座って。そして朝日。貴方はこっち」


「はい。キャロル殿下」


「… ねぇ、貴方、本当に男の子?」


「はい」


「そうなの…ね、出身は?何処の生まれ?」


「キャロル殿下、僕は庶民の出です。殿下にお会いするのも烏滸がましいのですが、折角機会を頂きましたので美しいと噂の殿下を一眼見ようと参上しました。拝謁できて今とても感動しております」


「そうなのね。とても可愛くて、綺麗でいつまでも見てられるわぁ…」


 更に機嫌を良くしたキャロライナーは朝日を見つめながらうっとりとした表情でお茶を楽しむ。ユリウスが目当てだったはずではなかったのか、とセシルとクリスは少し苛立っていた。


「私は王族だから、後継は必要だし、その相手に求めることも多いの」


「でも、殿下。それならクリスさんは優良物件です」


「ゆ、ゆうりょ?」


「比喩です」


「と、突然なんですの?」


「特攻隊と言うだけあって剣の腕はもうずば抜けており、この国で一番なのです。それなのにこの美貌ですよ?それによく言うじゃないですか、男と女の間には刺激が必要って。暴力的に見えるクリスさんが助けてくれた時、心配してくれた時のギャップ…いえ、危険な恋ほどハマってしまうものなのです…」


「…」


「ま、待って!朝日、お前!その適当に人褒める癖今すぐ辞めろ!」


「本心です!」


 正直言ってじゃじゃ馬姫にとやかく言われても何とも思わない。寧ろ捕まらない方がありがたい。だから、クリスは内心安堵していたのだ。なのに…。


「貴方…何を言い出すの?」


「セシルさんを選んだのもお目が高いです」


「セシルは…まぁ綺麗よ?」


「それだけじゃありません。セシルさんは見た目の美しさは勿論、とても良い匂いがします。森林浴をしているかのような香りで癒されるのです。更にとっても頭が良くて団の内務は全てセシルさんが回しているのですよ!勿論、優しくて器用で…ピクニック楽しかったですね」


「えぇ、とっても」

 

 思い出に浸るような表情をしている朝日にセシルは乗っかるように笑顔で返す。

 此処までの朝日は中々のやり手だ。普段から誰の言う事も聞かない彼女を最も簡単に黙らせ、扱っている。ただ何がしたいのかは全く分からない。

 

「な、何が言いたいの?」


「そして、ユリウスさんは完璧です。容姿、地位、権力、財力…何もかもトップレベルです。更に飛躍といい、剣術といい、魔法といい何もかも完璧。なのでユリウスさんは少し注意が必要です」


「注意ですって?なにをふざけた事を!私が選んだ殿方だと言うのに!」


「そこです!キャロル殿下は確かにユリウスさんのお相手としては完璧なお相手です。ただライバルも多いので、常に心配になってしまう可能性があります」


「それが良いんじゃない!みんなが羨ましがるユリウスを私のものにするの!そうしたらまた私がみんなに注目されるの!」


 彼女は本当にユリウスが好きなのだろうか。ただみんなに構って欲しいだけなのだろうか。真意が掴みずらい。恋はしているように見える。なのに何か…違う、チグハグな感覚。


「ここだけの話、ユリウスさんは実は恥ずかしがり屋さんなんです。以前助けてもらった時も颯爽と現れてお礼を言う前に帰ってしまうほどに!」


「私より彼を知ってるって言いたいのね。張り合いたいのね…。でも残念。ユリウスは私のものになるの!私の夫になるの!ねぇ?ユリウス」


「……………はい、キャロル」


「はぁ?団長?ふざけてんの?」


「…何が…起こっ…た?」


「貴方達聞こえてたでしょ?ユリウスが私の夫になるって言ったのよ?さっさとどこかへ消えなさい!」」


 誇らしげにフンッと鼻で笑うキャロライナーに朝日は首を傾げる。


「ユリウスさん、如何したの?」


「あ、…ひ…」


「何か変だよ?」


「変…」


 ユリウスの両頬に手を当てて、自身へ顔を向かせる。少し虚ろで視点が定まらず、これだけ声をかけたのに視線が合ってないように見える。

 彼の様子がおかしい事は直ぐに分かった。


「あんた!私のものに触らないでよ!」


「キャロル殿下、シーですよ」


「ヘ、ぇ?シーって…」


「……ねぇ、ユリウスさん?ユリウスさんはとても強い人だよね?誰にも負けないほど強い人だもん。だからちゃんと僕の所に戻ってきて?」


 朝日は精一杯背伸びをしてユリウスの額と自身の額を合わせる。

 

「キッキッキキキキキ!!」


「姫さん、キスなんかしてねぇって」


「させる訳がありません」


 これまで黙って見ていた二人も其処だけはしっかりと訂正して、これまで通り見守り続ける。

 しかし、その訂正も彼女にはきちんと届いていないようだ。


「私のユリウスに触るなぁ!!!」


「駄目だよ。キャロル殿下…ユリウスさんの様子がおかしいんだから。熱はないみたいなんだけどなぁ《フォール》」


「い、痛ーいっ!!!お、王女に魔法使うだなんて!貴方これは完全な不敬よ!」


 しかし、喚くキャロルを気に留めることもなく、朝日はユリウスに言葉をかけ続ける。


「ユリウスさん、知ってる?嘘ってね…誰かを喜ばせる為の幸せな嘘以外は絶対についちゃ駄目なんだよ」

 

「…ひ」


「うん、僕だよ」


「…あさひ」


「うん、ユリウスさん」


「…朝日」


「おかえりなさい」


 ただいま、とクシャッとした子供っぽい笑顔を向けたユリウスをアサヒはぎゅっと全力で抱きしめる。

 何が起こっていたのかは全く分からないけど、二人の会話を聞く限り、多分ユリウスは戻って来れたのだと思う。

 


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