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新しい出会い




「これは、魔法石の一つ《トライアングルストーン》で、こっちは同じく魔法石の《ヘキサゴンストーン》です」


「綺麗…」


 魔法屋を訪れた三人は早速準備を始めた。

 朝日がこの後夕食の約束をしているのであまり時間がなかった為だ。

 カイルは先程受け取ったばかりの依頼の品をマジックポーチならぬマジックトランクから机に並べる。それと一緒にこの二つの魔法石も並べて更に説明を付け加える。

 放置された本やら道具やらが散乱していて埃が被っていて殺伐とした雰囲気の魔法屋に輝く二対の魔法石。その輝きに魅入られた朝日はその大きなビー玉の瞳にその光を映していた。


「中々に綺麗だろうとも。この魔法石を使って錬金術、薬術を行うのだ」


「凄く楽しみです」


「では、早速始めるかな。ワシは説明するのは少し苦手での…良く見ておりなさい」


「はい」


「少々口下手なところがあるのです」


 カイルがコソッと朝日に耳打ちをする。

 そんな風には見えない、と思いつつも朝日はコクリと頷く。

 そして、老人の一挙手一投足を見逃さないように真剣な表情へ変える。

 それを見た老人は一瞬だけ微笑んだが、直ぐに真面目な表情へ変えてその身を隠していた長いローブをたくし上げて腕を捲った。

 机に並べられていたテシウス草を一枚手に取ると、途端にその大きな葉から水分が抜けて青々とした色を土色に変える。葉から抜け出た水分は中に漂っており、同じく机の上にあった小瓶の蓋を開けると吸い寄せられるように中に収まった。


「…これが錬金術ですか?」


「いえ、これは魔法ですよ」


「僕にも出来るのでしょうか…?」


「出来なかったらお見せしていないかと」


「そっかー…」


 続いてメテロの実を二つ摘み上げてその実を宙に浮かばせる。フヨフヨと漂う実に軽くナイフを立てる。真っ二つに分かれた実から絞り出したように真っ赤なジュースが滴り、先ほどの小瓶へ滑り込む。


「これも魔法?」


「はい、全て魔法です。へい…オルフェ様は殆どの作業をこのように魔法で行います。量、品質、不純物の有無、その他様々な正確性を求められる錬金術だからこそです。魔法はそれを可能としてくれます。当然相当な集中力と研鑽が必要ですが」


「僕、頑張ります」


 指を鳴らす。先程カラカラに乾いた葉はパチンッと高い響きと共に粉々になり、薄緑色の粉となる。

 同時に小瓶を軽く振り、二つの液体をよく混ぜ合わさり薄いピンクの液体へと変化する。その液体を薄緑色の粉に合わせる。自動でクルクルと回る鉄の棒が二つを良く混ぜ合わせている。液体は綺麗な青色へ姿を変えた。

 老人はその工程までを終わらせるとローブの内側から一枚の紙を取り出す。紙には魔法陣が刻まれている。

 それを机の上に乗せるとずれないように角に重石を置き止める。


「今回は《トライアングルストーン》を使おうか」


 オルフェはそう言うと魔法陣の上に《トライアングルトーン》と先程調合したトロッとした青く透き通る液体を乗せる。


「聖なる光に輝きますは、石の精。瞬きの時を生きる石の精よ、時には慈愛の心を時には安らかな心を時には絶なる心を、哀れな我の願いを聞き入れたまえ」


 魔法陣から溢れ出る光が《トライアングルストーン》に吸収され光り輝く。同時に青色の液体も吸収され、皿の中には何も残っていない。


「これで《ホーリーストーン》の完成だ」


「《ホーリーストーン》?」


「聖なる、石、ですね。石にはそれぞれつけられる効果が決まっています。ファーストストーン、ダブルストーン、トライアングルストーンとその名の数だけ効果を付けられます。今回はトライアングル、3つの効果をつけました。“慈愛”は回復の効果、“安らか”は精神効果のある魔法の無効効果、“絶なる”は解毒効果です」


「…他の魔法石、例えば《ボールストーン》とかは…」


「《ボールストーン》ですか?ボールストーンは10個ほど付けられると聞いた事があります。とても珍しい石なので流石にまだお目にかかった事も扱ったこともありませんが」


「そうなんですね…」


「効果は言葉の詠唱と精霊へ捧げる物の効果によって変わり、その組み合わせは数百通りにもなります」


「勉強したいと思ったのならそこにある本を持っていきなさい。私にはもう必要はないからね」


「ありがとうございます!」


 喜ぶ朝日に老人は態とらしい咳払いをする。


「こう言ってはなんなのだがね。実は君にお願いがあるのだ」


「僕にお願いですか?」


「…君はユリウス・エナミランと親しくあると小耳に挟んだのだが…」


「ユリウスさんですか?親しい、のでしょうか?どちらかと言えばお世話になってる、の方が正しい気がします」


「そうなのかい?いや、ちょっとね…わしの孫がユリウスのことを気に入っていて、その間を取り持ってくれる人を探していたんだ」


「僕にお役に立てるかどうか…」


「是非君に頼みたいのだよ」


 先日は色々貰ってしまい、今回は珍しい手法の薬術を見せて貰った手前、断りづらい状況になっているのは事実だ。ただだからと言って朝日には直ぐに頷けるような話でもない気がした。当然そこにはユリウスの気持ちや意志もあるだろうから。


「一度、ユリウスさんに少しお話ししてみます」


「おぉ!そうか!良かった!」


「でも、余り期待なさらないで下さいね?」


「何、間を取り持ってくれれば、後は若い二人に任せれば良いのだよ。私の孫は素直で器量も良くて本当に可愛いからねぇ」


 どうやら、孫にはかなりデレデレのようだ。こんなに優しいお爺ちゃんがいるなんてその子が羨ましいなぁ、とほっこりした朝日はニコニコと微笑みを返す。


「今日は大変お世話になりました」


「また機会が有れば何でも教えよう」


「ありがとうございます!楽しみにしてます!」


 ルンルンで魔法屋を後にした朝日を見送った二人もとても楽しそうだった。


「錬金術を扱える者は本当に少ない」


「その前にやろうとしない者の方が多いですしね」


「それ程に扱うのが難しい分野だからな」


「お金もかかりますしね」


「言うようになったじゃないか」


「…だから、少しは自重くださいね、陛下」


 疲れたように言うカイルの肩をオルフェはニコニコと笑いながらぽんぽんと優しく叩き、二階へ上がっていく。


「それより何より、交渉上手くいきそうで良かったですね」


「ほほほ、キャロちゃんはさぞ喜ぶことだろうの」


 カイルは更に肩を落として大きな溜息をついた。



「絶なる、は解毒効果…あれ、拒絶せよ、も解毒効果あるんだ…ん〜…あ、お願いする精霊によって言葉の詠唱も変わるんだ。これは覚える事が沢山あるなぁ」


 両手一杯になるほどに物凄く分厚い本を開き、ぶつぶつと呟きながら宿屋までの道のりを歩く。

 今日見た錬金術も薬術も魔法も全てが綺麗で可憐で美しくて感動的で魅惑的で…思わず目を奪われた。

 自分でもやってみたい、そう思うくらいには心も奪われてしまっていた。


「とても真剣ですね」


「エライアスさん、またお待たせしてしまいました」


「今日は仕事が早めに片付きましてね。此処で明日の予定を確認していたのですよ」


 何やら沢山文字が認められている紙をふりふりと確認させるように朝日に見せる。


「今日は何やらとても難しそうなご本をお読ですね」


「錬金術の本なんです。さっき知り合いから譲ってもらって」


「朝日くんには錬金術の才能もおありなのですか?それは是非にもお近付きになりたいものですね」


「?お友達以上ってありましたか?」


「ふふふ、お友達以上は親友でしょうか」


「しんゆ、ぅ…親友ですね。僕、親友が出来るのは初めてです!」


「んー、益々朝日さんのことが心配になりました」


「どうして…?」


 少し困ったような表情をするエライアスは朝日の足を止めさせる為にその両手を朝日の肩に置く。


「朝日さん。錬金術師は本当に少ない。しかし需要は大きい。そして錬金術は大金に変わる。分かりますか?」


「悪い人に狙われる?」


「流石朝日さんです」


「僕、誰にも言わない」


「その方が良いかと思いますよ」


 不安そうな表情を浮かべる朝日を慰めるようにエライアスは優しい手つきで頭を撫でた。















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