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皇帝の庶子






「僕は母親の事はよく知らない。でも、育ての親がよく言ってたんだ。僕の両親はどちらも高貴な生まれで、父はこの世界の誰よりも一番偉い人だってね」


「たったそれだけの情報で自分が皇帝の息子だと考えたのか…?」


「そんなわけないでしょ?分かったのはその育ての親が殺された後だった。その時僕はまだ8歳だったけど、どうにかして一人で生きて行かなければならなかった。だから彼女の死を泣き叫ぶ暇も、どうして彼女が殺されないといけなかったのかそんなことを考える余裕もなかった」


 ロエナルドの出生については確かにギルバートも少し不思議に思っていたところがあった。親が殺された所からしか記録が全くなかったからだ。

 ただ、それはこの世界ではよくあることでもある。出生記録のない子供達は売り捌くのにとても都合が良いのだ。

 ただ、子供の奴隷を売る事は禁止されている。売られるのは犯罪者や借金が返せなくなった者が一般的。

 でも、記録のない子供達は見つかっても追跡される事も亡く、死んでも記録せずに済む。

 ギルバートは彼もその一人なのかと考えた。なら、それ以前を調べるのはほぼ無理に等しい。

 突然子供が湧いて出ただけになってしまう。売った商人たちも子供たち一人一人を覚えている可能性も低い。


 その時のギルバートはゼノと共にあの三人を監視する人材を探していた。当然、出生の記録が不十分なロエナルドは候補から外そうとしていたのだが、突然、それ以前の出生記録が見つかり、再び候補へと返り咲いた。

 パーティーの編成上魔法使いであるロエナルドは特に有力な候補として残り続け、結果ロエナルドに決まった。


 ギルバートはその突然降って出てきたように見つかった出生記録についてずっと引っかかっていたのだ。


「そして、生きていく為に盗みを働いて、路地裏には仲間もできて、みんなと協力し合って生きてきた。だが、それは慢心だった…。仲間の一人が捕まって助けに行くことになったんだ」


 捕まった仲間を助けに数人の動きの速い者だけを集めて救出に向かった。偶々監視の手を緩く仲間を助けることに成功したが、それは完全に罠だった。


 溜まり場に戻ってきた所で後ろから声をかけられた。ロエナルド達が振り返ると体格の良い冒険者達が立っていて、彼らに告げた。


ーーー街の人達はお前らの盗みを働く事に困っていて、始末するように依頼された


「当然皆、一目散に逃げ出したよ。僕は彼らから一番近くてね…直ぐに捕まった。それでも誰も僕を助けようとはしなかった。そして、僕に転機が訪れた!」


 捕まった拍子に感情が昂り、無意識に魔法を発動させてしまったのだ。


 ロエナルドを捕まえていた男は水をかけても消えない青い炎に焼かれてそのまま死んだ。そして、彼の仲間だった女が言った。


ーーー私、今の魔法見たことがあるわ…。皇帝が使っている所を…


「そして冒険者達が口々に言うんだ。その青い炎の魔法は先代皇帝の妻、つまり皇后特有の特別な魔法で、それを今使えるのは皇后本人とその息子の皇太子だけだってね」


 その話しが事実ならロエナルドは皇后の子、もしくは皇太子の子、どちらかと考えることは筋が通っている。

 皇后が青い炎を使うのはオーランド国民なら良く知っていることだ。


 ただ、此処までの話しを聞くと、ロエナルドはゼノ達が探していたトアックの子供ではない可能性が高くなってきた。

 皇后とトアックでは出会う機会も当然ながら、皇后の歳を考えるとほぼあり得ないことで、それと同時にロエナルドが皇后の子と考えることもほぼあり得ない。


「じゃあ、お前は皇太子の隠し子だと言うのか」


「まぁ、多分そうなるんじゃないかな?青い炎の魔法ってね彼女が幼い時に出会った精霊から教えてもらった魔法だったみたいでね。普通の人間には扱えないそうだよ」


 皇后が精霊から魔法を習ったと言うのは完全に初耳な話しだが、もしそれが本当ならば、また新たな可能性が生まれてくる。


 セシル達が予見していたのはロエナルドはトアックとニューラスとの間の子なのでは?と言う話しだが、其れを言うなら、トアックが王子ではなく王女だった可能性だってありうるのではないか、という可能性が出てきたのだ。


 それなら彼が精霊魔法を使うのも頷けるし、これまでの話とも辻褄が合う。


「まぁ、それで僕は育ての親が言ってたことが本当だったのだと確信したんだ。そして、僕は冒険者達と交渉した」


 その事実を利用してロエナルドはいずれ、皇太子が皇帝となった時、隠し子である彼を迎えにくると約束している、と彼らに告げ、育ての親が殺されたことも話した。

 これならロエナルドを傷つければ皇太子から何かしらの罰が下る可能性を持たせられるし、彼を利用してのし上がろうとするだろうと思っていたからだ。


 だが、冒険者達はロエナルドに冒険者になることを薦めた。そしてその為の準備金として金貨1枚まで用立ててくれたのだ。


「僕は、それから少しの間その冒険者達から魔法を学び、冒険者としての力を付けていった。それと同時に彼らは僕ら路地裏の子供達を殺す気は全くなく、ただお灸を据えようとしていただけなのだと知った」


 その冒険者達はとても人情深く、その後も路地裏に通っては子供達の武術や剣術の才能を見出し、指導し、盗みの代わりに薬草の採取の仕方や貴重な素材なんかを教えて、お金を用立て、彼らの冒険者への道を切り開いてくれた。

 そして、冒険者になれる成人を迎えると路地裏の子供達は冒険者として旅立ち、ロエナルドもついに冒険者となる。


「初めは大変だった。彼らに教わった知識以外に学がないからな。周りから馬鹿にされる事もしばしばあったよ。でも、僕は魔法使いとしての実力が高かった。少しずつ僕にパーティーへの誘いが増えた」


 順風満帆。

 そんな彼が何故皇帝への復讐を考えるようになったのか。


 それは本当に偶然の事だった。


「僕は少し名が売れ始めていたとあるパーティーに参加する事になった。彼らは印象も良く、僕を馬鹿にする事もなく、良い仲を築けていたんだ」


 そして、ある時レイド依頼がそのパーティーに舞い込んできた。実力のあるパーティーが集まってAランクの魔物を討伐するレイド。

 もちろん危険も多いが身入りも良い。それにレイドに誘われたと言う事は実力が認められたということになる。

 彼らは直ぐに承諾し、準備を整えレイドに向かった。


「そこには名だたる有名パーティーが集まっていて、僕は感動すら覚えたよ。でも、直ぐに突き落とされた」


 順調に魔物の討伐を行い森を進み、明日にはAランクの魔物と対峙する、となったその日の夜。

 パーティーのメンバー達と更に仲良くなる機会だとロエナルドは自身の生い立ちを話した。当然、皇太子の件は隠したままだったが、彼らはやっと自分のことを話してくれたね、とその仲は深まった。

 そして、仲良くなった記念にと彼らは特別な話しをしてくれた。


ーーー実は俺らは皇太子殿下から支援を受けててな。だから、こんな大きな仕事も舞い込むんだ


「僕は嫌な予感がしながらもやっと気の許せる仲間が出来たのだから、とその話しの続きを聞いてしまった」


ーーーいまから八年くらい前だったかな…皇太子殿下からの仕事を請け負ったんだ。皇城から調度品を盗み逃げ出したメイドがいて、そのメイドを捕まえてきて欲しいと言う依頼だった


 その成功報酬として彼らは良い依頼を回してもらえるように口添えをしてもらっていた。


ーーーでも、俺ら実はその依頼失敗してしまってな…そのメイドの事を殺しちゃったんだ。小さな子供もいたことも報告したんだけどな、どうせ死ぬだろうと言われたよ


「分かるだろう?彼らだったんだ、育ての親を殺したのは。そして、その命令をしたのは皇太子本人だった。怒りに震えたよ…でも、また僕に奇跡が起こったんだ。奴らは国がギルドに介入出来るのか、と言う疑問については彼らは何も考えていなかったんだ」


 そして、彼らはその依頼で命を落とした。









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